ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第12章 王の資質

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「アヴェリア嬢、久しぶりだな」
「お久しぶりです、ハルサーシャ殿下」

 度々文通はしていたものの、直接会うのは一年ぶり。
 ブラウローゼ公爵家の庭園に招かれた、ルーデアス王国の第三王子ハルサーシャは、万面の笑みで応じた。
 まだ友人という立場をとっているが、ハルサーシャがアヴェリアに求婚した事実は残っている。
 気長に待つつもりではいるようだが、着実に距離を縮めていくことに余念はない。

「そろそろ、気軽にハルと呼んではくれないか?」
「一国の王子に対して、それは失礼かと」
「パトリックも俺のことはそう呼んでいる。預言者であれば、王族と変わらない、いやそれ以上に高貴な身分だろう?」

 人好きのする笑みでそう言われてしまえば、断る方が失礼に思えた。

「では、ハル様とお呼びさせて頂きます」

 仕方なく折れたアヴェリアに、ハルサーシャの笑みは深まる。

「そういえば、ハル様は来年から我が国に留学されるとか」
「流石はアヴェリア嬢、予知の力か?」
「いえ、パトリック殿下からお聞きしました。ファシアス王国で学んだ知識を、自国で活かしたいそうですわね」

 ファシアス王国の令息令嬢たちは、十歳になると王立学園に入学する。勉学や武芸に励み、将来国を支えていく貴族として相応しい力を身につけるためだ。
 ハルサーシャの親友であるパトリックは、彼から留学の話を聞かされていた。

「確かに、リックには先に報告していたからな。貴女も知っているだろうが、ファシアス王国の教育は、我が国よりも進んでいる。その知識を、ルーデアス王国へ持ち帰り、民の暮らしをよくしたいのだ」
「素晴らしいお考えですわ」

 幼い頃から王族としての自覚が強く、自分が国王にはなれずとも、将来は自分がルーデアス王国を支えていくのだという覚悟ができていた。
 立場は違えど、自分の役割に忠実であるという点では、アヴェリアと似た部分がある。だからお互いに共感できることも多く、居心地のよさすら感じられた。

「俺がどう成長するか、貴女に見ていてほしい」

 真剣な眼差しを向けられ、アヴェリアはどこか照れ臭さを感じた。
 アヴェリアに対する好意を隠すことなく、真っ直ぐ伝えてくる。その想いは少しずつ、確実にアヴェリアの気持ちに変化をもたらしていた。

 そんな状況でふと頭を過ぎるのはフォリオのこと。
 まだ未熟だが、ハルサーシャと同じく王の資質を備える少年。磨けば、とても面白い輝きを見せてくれそうな原石。
 何かと問題に巻き込まれやすい体質ではあるが、退屈しない。そんな彼から目が離せなかった。

(私のまわりには、楽しませてくれそうな人がたくさんいますわね)

 ハルサーシャに応じながら、アヴェリアは愉快そうに微笑んだ。
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