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第12章 王の資質
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「次期王太子は、パトリック殿下に違いありませんな!」
新王政派の貴族たちのそんな会話を、これまで様々な場面で耳にした。
(私は、王太子になりたいわけではない……ただ、父の死の真相と、預言者を代償から解放する方法が知りたいだけだ)
その度に、うんざりする。
自分がフォリオよりも優秀だとか、王太子になるべく神に見出されたのだとか、流石は前預言者の息子だとか。
今の王政に反発したいだけの、貴族たちの思惑が分かりきっていた。
(父上も、同じような経験をされたのだろうか)
預言者は、使命を果たせば命を落とす。故に、リヒターが王太子になることはなかった。
しかし、その求心力は凄まじく、今でも彼を支持する国民は多い。その息子であるパトリックが自然に受け入れられたのは、その影響も大きかった。
謎の死を遂げた父。
調べれば調べるほど、リヒターは使命を果たして亡くなったわけではない可能性が高まっていた。
地下牢に閉じ込められている元赤獅子盗賊団の首領、ライガ。彼とパトリックは、定期的に面会している。
最初は適当にあしらっていたライガだったが、頻繁に足を運ぶパトリックを見て考えを改めたのか、最近ではまともな会話が成立するようになっていた。
先日も、こっそり手土産を持って現れたパトリックに対し、地下牢の囚人たちの噂話を聞かせた。
パトリックがリヒターの息子だということはライガも知っている。何か父に関する話を知らないかと度々聞いてくる彼に、気まぐれに教えたのだった。
曰く、預言者を崇拝するが故に、リヒターの存在を消す必要があったのだ、と。
その話を聞き、パトリックは意味がわからなかった。ライガに尋ねてみても、そんな話が聞こえてきたことがあるというだけで、よくは知らないようだった。
前にこの地下牢に閉じ込められていた囚人がブツブツ言っていたのを、誰かが耳にしていたらしい。噂の出所ははっきりしなかった。
少なくとも、リヒターの死に関係している囚人は別の場所に移されたか、もうこの世にはいないのだろう。
謎が深まるばかりでなかなか進展しない。
難しい顔で自室に戻ったパトリックに、世話係の男性が声をかける。
「また、リヒター様について調べてらっしゃったのですか?」
父の代から仕えていたというこの初老の男は、パトリックがリヒターの死の真相について調べていることを知っていた。
「お前が教えてくれないからだろう」
「申し訳ございません。こればかりは、私にはお教えすることができないのです」
彼は、リヒターの最期に立ち会った人物でもあった。
しかし、国王に固く口止めをされており、僅かでも情報を漏らすことはなかった。
「たとえ私が、父が側近の誰かの魔の手にかかったのだと知っていても?」
「何もお教えすることはできません」
「父は、誰かに恨まれていたのか?」
「お教えできません」
「お前は……父が、殺されなければならない理由があったと思うか?」
「申し訳ありません。お答えできません」
淡々と、パトリックの苛立ちを含んだ言葉に返答していく。
答えは分かりきっているものの、時折行き場のない怒りを、こうしてぶつけることがあった。
「少なくとも」
そんなパトリックに、男は穏やかな口調で語りかける。
「私は、預言者としてではなく、ずっとリヒター様自身のことをお慕いしておりました」
その言葉に、嘘偽りはなかった。
新王政派の貴族たちのそんな会話を、これまで様々な場面で耳にした。
(私は、王太子になりたいわけではない……ただ、父の死の真相と、預言者を代償から解放する方法が知りたいだけだ)
その度に、うんざりする。
自分がフォリオよりも優秀だとか、王太子になるべく神に見出されたのだとか、流石は前預言者の息子だとか。
今の王政に反発したいだけの、貴族たちの思惑が分かりきっていた。
(父上も、同じような経験をされたのだろうか)
預言者は、使命を果たせば命を落とす。故に、リヒターが王太子になることはなかった。
しかし、その求心力は凄まじく、今でも彼を支持する国民は多い。その息子であるパトリックが自然に受け入れられたのは、その影響も大きかった。
謎の死を遂げた父。
調べれば調べるほど、リヒターは使命を果たして亡くなったわけではない可能性が高まっていた。
地下牢に閉じ込められている元赤獅子盗賊団の首領、ライガ。彼とパトリックは、定期的に面会している。
最初は適当にあしらっていたライガだったが、頻繁に足を運ぶパトリックを見て考えを改めたのか、最近ではまともな会話が成立するようになっていた。
先日も、こっそり手土産を持って現れたパトリックに対し、地下牢の囚人たちの噂話を聞かせた。
パトリックがリヒターの息子だということはライガも知っている。何か父に関する話を知らないかと度々聞いてくる彼に、気まぐれに教えたのだった。
曰く、預言者を崇拝するが故に、リヒターの存在を消す必要があったのだ、と。
その話を聞き、パトリックは意味がわからなかった。ライガに尋ねてみても、そんな話が聞こえてきたことがあるというだけで、よくは知らないようだった。
前にこの地下牢に閉じ込められていた囚人がブツブツ言っていたのを、誰かが耳にしていたらしい。噂の出所ははっきりしなかった。
少なくとも、リヒターの死に関係している囚人は別の場所に移されたか、もうこの世にはいないのだろう。
謎が深まるばかりでなかなか進展しない。
難しい顔で自室に戻ったパトリックに、世話係の男性が声をかける。
「また、リヒター様について調べてらっしゃったのですか?」
父の代から仕えていたというこの初老の男は、パトリックがリヒターの死の真相について調べていることを知っていた。
「お前が教えてくれないからだろう」
「申し訳ございません。こればかりは、私にはお教えすることができないのです」
彼は、リヒターの最期に立ち会った人物でもあった。
しかし、国王に固く口止めをされており、僅かでも情報を漏らすことはなかった。
「たとえ私が、父が側近の誰かの魔の手にかかったのだと知っていても?」
「何もお教えすることはできません」
「父は、誰かに恨まれていたのか?」
「お教えできません」
「お前は……父が、殺されなければならない理由があったと思うか?」
「申し訳ありません。お答えできません」
淡々と、パトリックの苛立ちを含んだ言葉に返答していく。
答えは分かりきっているものの、時折行き場のない怒りを、こうしてぶつけることがあった。
「少なくとも」
そんなパトリックに、男は穏やかな口調で語りかける。
「私は、預言者としてではなく、ずっとリヒター様自身のことをお慕いしておりました」
その言葉に、嘘偽りはなかった。
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