ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第12章 王の資質

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ーー二年後、アヴェリア七歳。

「聞いてくれ、アヴェリア! 僕、ついに矢を的に当てられるようになったんだ!!」

 出会った時から続くブラウローゼ公爵家でのお茶会で、フォリオは嬉々として報告した。

「努力なさいましたね。おめでとうございます」

 この二年で、フォリオは大きく成長した。身長だけの話ではない。できることが、本当に増えた。
 急速な成長とは言わない。二年という歳月、コツコツ努力して身につけた力だ。
 ずば抜けた才能があるわけではないと自覚しているフォリオは、自分にできることを精一杯やってきた。

 武芸に関してはしっかりと基礎を身につけた。
 学問も、自分が苦手としていた分野から目を背けずに、何度も復習した。
 本人は気づかれていないと思っているが、定期的に側近のニアと共に城下町の視察にも出かけている。バッチリ国民は気づいているのだが、気を利かせて温かく見守っているようだ。

 預言者の代償を解決する方法については未だ見つからずにいるが、こちらも諦めていない。アヴェリアに何度嗜められようが、根気強く探していくつもりでいた。

「二年前の殿下と同一人物かと疑いたくなる成長ぶりですわね」
「そ、そうかな……?」

 アヴェリアに褒められ、照れくさそうにフォリオは頰をかく。

「今のフォリオ殿下であれば、パトリック殿下にも引けを取らないでしょう」
「まだまだだよ。でも、パトリック兄上に負けないように頑張るつもりさ」

 パトリックの名が出ても、それに臆することはなくなっていた。
 王太子候補が二人になったことで、貴族たちの間では派閥ができつつある。今の王政に賛同する現王政派と、王弟であった前預言者リヒターを崇めていた者や、現王政反対派の貴族たちが集まった新王政派。
 フォリオも、パトリックも、争いの火種が大きくなることは望んでいない。お互いの関係が崩れないように、注意深く様子を伺っていた。

 その中で、ブラウローゼ公爵家はどちらの王太子のことも支持せず、中立を保っている。
 アヴェリアの信託があった以上、成り行きを見守ることに徹する姿勢だ。
 ただし、王太子に関することで貴族同士の大きな争いが起きそうになった時には、事前にアヴェリアが予知された未来を国王に進言している。
 あくまでも神は、王太子候補自身の力量で、どちらが相応しい人物か決めるべきという考えらしい。

「変わられましたね。おかげで、私の使命が果たされるのはまだ先になりそうですが」
「どういうこと?」
「私の使命は、この国の王太子の運命の相手を見つけること。王太子候補が二人になった今、王太子が確定するまでは使命が果たされたことにならないということですわ」

 フォリオとパトリックの力が拮抗していれば、正式な王太子にどちらが相応しいか国王が判断する時期も遅くなる。
 フォリオが王太子になるべく努力してきたことで、一時はパトリックに傾きかけていた天秤が、つり合いを取ろうとしていた。

「そっか……それなら、尚更頑張らないとね」

 結果として、アヴェリアの命を長らえることに成功していたことを知り、そう決意するのだった。
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