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第11幕 父の面影
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地下牢に捕えられた赤獅子盗賊団の団員たちに面会したい。
そんなパトリックの申し出は、すんなりと許可されたわけではなかったが、今後の勉強として罪人たちのことを知っておきたいのだと懇願すれば、遂に国王が折れた。
(最終的に許可が降りたということは、ここに父上の関係者はいないのだろうな)
城の片隅にある、地下へ続く重い鉄の扉が持ち上げられる。そこから伸びる階段を護衛の兵士たちと一緒に下りながら、パトリックは思う。
フォリオも一緒に国王の元へ頼みに行ったが、お前にはまだ早い、とパトリックのみ許可が下りた。
一番下までたどり着くと、暗くてじめじめとした空間が広がっていた。
真ん中の道を挟んで、鉄格子がずらりと並んでいる。そこには、様々な風貌の罪人たちが入れられていた。
「赤獅子盗賊団の首領だった男は、この牢の中にいます」
一番手前の牢の中に、赤毛の男が片膝を立てて座っていた。
捕まったというのに、その表情は飄々としていて余裕が感じられる。
「ライガ、といったか」
「お貴族様がこんなところに何の用だ?」
声をかけられたライガは、ニタリと馬鹿にするような笑みを浮かべる。兵士たちが咎めるのも知らんふりだ。
「私は、パトリック・ファシアス。赤獅子盗賊団が今回の騒ぎを起こした理由を聞きたい」
「王太子殿下でしたか、これはこれは失礼を」
ライガの調子にのまれないように、平静を保ちながらパトリックは名乗った。
相手が新たに王太子として指名された少年だと知ると、今度はわざとらしく恭しい態度をとる。
いちいちライガの態度を気にしていては話もできない。どんなに馬鹿にされても、挑発されても、パトリックは顔色を変えずに応じた。
次第に飽きてきたのか、ライガも普通に会話をするようになる。
とはいえ、今回の騒動を起こした理由も、「暴れまわりたかった」、「誰かを困らせたかった」などと答え、反省の色は見えなかった。
「生活のため」という理由もなくはないはずだが、なんのプライドかそう答えるつもりはないようだ。
そうしているうちに、面会終了の時間になった。許可が下りたとはいえ、いていいのは十五分までと制限されていた。
護衛の兵士たちに時間を告げられ、去り際にパトリックはライガに向き直る。
「また来る」
「まったく物好きなことで。今度は手土産の一つでも持って来いってんだ」
軽口を叩くライガに、護衛の兵士たちがまた叱責する。
(今日はここまでだ。でも、いずれ)
地下牢には、ライガよりも長い間捕えられている囚人もいる。そうした囚人たちの噂が、いずれライガにも流れてくるかもしれない。
上手くいけば、父が亡くなった経緯を知る手掛かりが手に入るのではーーそんな打算的な考えで、近づいたのだった。
そんなパトリックの申し出は、すんなりと許可されたわけではなかったが、今後の勉強として罪人たちのことを知っておきたいのだと懇願すれば、遂に国王が折れた。
(最終的に許可が降りたということは、ここに父上の関係者はいないのだろうな)
城の片隅にある、地下へ続く重い鉄の扉が持ち上げられる。そこから伸びる階段を護衛の兵士たちと一緒に下りながら、パトリックは思う。
フォリオも一緒に国王の元へ頼みに行ったが、お前にはまだ早い、とパトリックのみ許可が下りた。
一番下までたどり着くと、暗くてじめじめとした空間が広がっていた。
真ん中の道を挟んで、鉄格子がずらりと並んでいる。そこには、様々な風貌の罪人たちが入れられていた。
「赤獅子盗賊団の首領だった男は、この牢の中にいます」
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捕まったというのに、その表情は飄々としていて余裕が感じられる。
「ライガ、といったか」
「お貴族様がこんなところに何の用だ?」
声をかけられたライガは、ニタリと馬鹿にするような笑みを浮かべる。兵士たちが咎めるのも知らんふりだ。
「私は、パトリック・ファシアス。赤獅子盗賊団が今回の騒ぎを起こした理由を聞きたい」
「王太子殿下でしたか、これはこれは失礼を」
ライガの調子にのまれないように、平静を保ちながらパトリックは名乗った。
相手が新たに王太子として指名された少年だと知ると、今度はわざとらしく恭しい態度をとる。
いちいちライガの態度を気にしていては話もできない。どんなに馬鹿にされても、挑発されても、パトリックは顔色を変えずに応じた。
次第に飽きてきたのか、ライガも普通に会話をするようになる。
とはいえ、今回の騒動を起こした理由も、「暴れまわりたかった」、「誰かを困らせたかった」などと答え、反省の色は見えなかった。
「生活のため」という理由もなくはないはずだが、なんのプライドかそう答えるつもりはないようだ。
そうしているうちに、面会終了の時間になった。許可が下りたとはいえ、いていいのは十五分までと制限されていた。
護衛の兵士たちに時間を告げられ、去り際にパトリックはライガに向き直る。
「また来る」
「まったく物好きなことで。今度は手土産の一つでも持って来いってんだ」
軽口を叩くライガに、護衛の兵士たちがまた叱責する。
(今日はここまでだ。でも、いずれ)
地下牢には、ライガよりも長い間捕えられている囚人もいる。そうした囚人たちの噂が、いずれライガにも流れてくるかもしれない。
上手くいけば、父が亡くなった経緯を知る手掛かりが手に入るのではーーそんな打算的な考えで、近づいたのだった。
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