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第11幕 父の面影
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前代の預言者リヒターには、その補佐をする人間が複数存在した。
人望の厚かった彼の周囲は、彼を慕う者たちで溢れていた。しかし、彼亡き後、側近たちもことごとく姿を消している。
自分の敬愛する主人がいなくなったのだから、それも必然だろうーーそう多くの人間は考えているが、息子のパトリックはその点を怪しんでいた。
「いくら父上が亡くなったとはいえ、その側近がことごとく城からいなくなるというのはおかしいと思わないか?」
「それだけ慕われていた、ということではないのですか?」
パトリックの疑問に、フォリオは首を傾げる。
慕っていたリヒターがいなくなったのなら、城に残る必要もない。そう思って皆辞めていったのではないのか。
「父上に人望があったのは確かだ。だが、優秀な人材を一斉に手放すなんて、国の不利益になることをわざわざするだろうか?」
そう言われて、フォリオは考え込む。
王弟の、しかも預言者の側近ともなれば、優秀な人材があてられていたことが予想できる。
一気にその人たちがいなくなっては、また優秀な人材を探す時間も、労力もかかるだろう。
「調べてみたが、引き継ぎもなく、ほぼ全ての側近たちが父上亡き後、一斉に姿を消している」
「それは、確かにおかしいかもしれませんね……。その側近は、もう誰も残ってはいないのですか?」
「いや、一人だけ見つけた。今は、私の世話係を務めてくれている」
その言葉に、フォリオは目を丸くした。
パトリックが王位継承権を再び持つようになってから、城での生活に困らないよう、世話係がつけられていた。
その一人が、かつて自分の父である王弟を補佐していた初老の男性なのだという。
「では、その人に聞けば謎が解けるのでは?」
「何か知っているはずだとは思うんだが、口が固くてな。これといって分かった情報はない」
父から子の代まで側に仕えているのだ。信頼が厚い人物に違いはないだろう。その口を割らせるのは簡単なことではない。
しかし、まったく糸口がないよりはましだ。
それに、この城に来てから、気になる噂話を耳にしたのだとパトリックは続ける。
「メイドたちが話しているのを聞いたんだが……父上は、使命を果たして亡くなったのではないのかもしれない」
「えっ、それはどういう……」
「今までずっと、父上は預言者の代償のせいで命を落としたのだと思っていた。だが、誰かの魔の手にかかった可能性が出てきたんだ」
パトリックが王位継承権を取り戻し、ファシアス王家に戻ってきた。その頃、城ではその話題で持ちきりだった。
王弟の息子であることは誰もが知るところであり、当然のようにリヒターの噂も流れた。
噂話はすぐに広がる。中には、王弟の死にまつわる噂を知っている者もいた。
曰く、側近の手にかかって殺されたのだ、と。
「その犯人は、今も地下牢の中にいるという話だ。あくまで噂話だが、父上の周辺の人間たちが一掃されたのも、それなら説明がつく」
「なぜ……慕われていたのではなかったのですか?」
震える声で、フォリオが尋ねる。
「そう見せかけて、反発する人間もいたのかもしれない。父上は王弟、そして預言者と、重い肩書きを背負っていたから」
慕う者が多いと同時に、敵も隠れていたのかもしれない。
噂話に流されるのはよくないが、嫌な可能性が浮上してきた。
「地下牢といえば、アヴェリアの予言で捕まえることができた赤獅子盗賊団も地下牢に閉じ込められているはずです」
それを聞いたパトリックは、思案する素振りを見せた。
人望の厚かった彼の周囲は、彼を慕う者たちで溢れていた。しかし、彼亡き後、側近たちもことごとく姿を消している。
自分の敬愛する主人がいなくなったのだから、それも必然だろうーーそう多くの人間は考えているが、息子のパトリックはその点を怪しんでいた。
「いくら父上が亡くなったとはいえ、その側近がことごとく城からいなくなるというのはおかしいと思わないか?」
「それだけ慕われていた、ということではないのですか?」
パトリックの疑問に、フォリオは首を傾げる。
慕っていたリヒターがいなくなったのなら、城に残る必要もない。そう思って皆辞めていったのではないのか。
「父上に人望があったのは確かだ。だが、優秀な人材を一斉に手放すなんて、国の不利益になることをわざわざするだろうか?」
そう言われて、フォリオは考え込む。
王弟の、しかも預言者の側近ともなれば、優秀な人材があてられていたことが予想できる。
一気にその人たちがいなくなっては、また優秀な人材を探す時間も、労力もかかるだろう。
「調べてみたが、引き継ぎもなく、ほぼ全ての側近たちが父上亡き後、一斉に姿を消している」
「それは、確かにおかしいかもしれませんね……。その側近は、もう誰も残ってはいないのですか?」
「いや、一人だけ見つけた。今は、私の世話係を務めてくれている」
その言葉に、フォリオは目を丸くした。
パトリックが王位継承権を再び持つようになってから、城での生活に困らないよう、世話係がつけられていた。
その一人が、かつて自分の父である王弟を補佐していた初老の男性なのだという。
「では、その人に聞けば謎が解けるのでは?」
「何か知っているはずだとは思うんだが、口が固くてな。これといって分かった情報はない」
父から子の代まで側に仕えているのだ。信頼が厚い人物に違いはないだろう。その口を割らせるのは簡単なことではない。
しかし、まったく糸口がないよりはましだ。
それに、この城に来てから、気になる噂話を耳にしたのだとパトリックは続ける。
「メイドたちが話しているのを聞いたんだが……父上は、使命を果たして亡くなったのではないのかもしれない」
「えっ、それはどういう……」
「今までずっと、父上は預言者の代償のせいで命を落としたのだと思っていた。だが、誰かの魔の手にかかった可能性が出てきたんだ」
パトリックが王位継承権を取り戻し、ファシアス王家に戻ってきた。その頃、城ではその話題で持ちきりだった。
王弟の息子であることは誰もが知るところであり、当然のようにリヒターの噂も流れた。
噂話はすぐに広がる。中には、王弟の死にまつわる噂を知っている者もいた。
曰く、側近の手にかかって殺されたのだ、と。
「その犯人は、今も地下牢の中にいるという話だ。あくまで噂話だが、父上の周辺の人間たちが一掃されたのも、それなら説明がつく」
「なぜ……慕われていたのではなかったのですか?」
震える声で、フォリオが尋ねる。
「そう見せかけて、反発する人間もいたのかもしれない。父上は王弟、そして預言者と、重い肩書きを背負っていたから」
慕う者が多いと同時に、敵も隠れていたのかもしれない。
噂話に流されるのはよくないが、嫌な可能性が浮上してきた。
「地下牢といえば、アヴェリアの予言で捕まえることができた赤獅子盗賊団も地下牢に閉じ込められているはずです」
それを聞いたパトリックは、思案する素振りを見せた。
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