65 / 94
第11幕 父の面影
64
しおりを挟む
前代の預言者リヒターには、その補佐をする人間が複数存在した。
人望の厚かった彼の周囲は、彼を慕う者たちで溢れていた。しかし、彼亡き後、側近たちもことごとく姿を消している。
自分の敬愛する主人がいなくなったのだから、それも必然だろうーーそう多くの人間は考えているが、息子のパトリックはその点を怪しんでいた。
「いくら父上が亡くなったとはいえ、その側近がことごとく城からいなくなるというのはおかしいと思わないか?」
「それだけ慕われていた、ということではないのですか?」
パトリックの疑問に、フォリオは首を傾げる。
慕っていたリヒターがいなくなったのなら、城に残る必要もない。そう思って皆辞めていったのではないのか。
「父上に人望があったのは確かだ。だが、優秀な人材を一斉に手放すなんて、国の不利益になることをわざわざするだろうか?」
そう言われて、フォリオは考え込む。
王弟の、しかも預言者の側近ともなれば、優秀な人材があてられていたことが予想できる。
一気にその人たちがいなくなっては、また優秀な人材を探す時間も、労力もかかるだろう。
「調べてみたが、引き継ぎもなく、ほぼ全ての側近たちが父上亡き後、一斉に姿を消している」
「それは、確かにおかしいかもしれませんね……。その側近は、もう誰も残ってはいないのですか?」
「いや、一人だけ見つけた。今は、私の世話係を務めてくれている」
その言葉に、フォリオは目を丸くした。
パトリックが王位継承権を再び持つようになってから、城での生活に困らないよう、世話係がつけられていた。
その一人が、かつて自分の父である王弟を補佐していた初老の男性なのだという。
「では、その人に聞けば謎が解けるのでは?」
「何か知っているはずだとは思うんだが、口が固くてな。これといって分かった情報はない」
父から子の代まで側に仕えているのだ。信頼が厚い人物に違いはないだろう。その口を割らせるのは簡単なことではない。
しかし、まったく糸口がないよりはましだ。
それに、この城に来てから、気になる噂話を耳にしたのだとパトリックは続ける。
「メイドたちが話しているのを聞いたんだが……父上は、使命を果たして亡くなったのではないのかもしれない」
「えっ、それはどういう……」
「今までずっと、父上は預言者の代償のせいで命を落としたのだと思っていた。だが、誰かの魔の手にかかった可能性が出てきたんだ」
パトリックが王位継承権を取り戻し、ファシアス王家に戻ってきた。その頃、城ではその話題で持ちきりだった。
王弟の息子であることは誰もが知るところであり、当然のようにリヒターの噂も流れた。
噂話はすぐに広がる。中には、王弟の死にまつわる噂を知っている者もいた。
曰く、側近の手にかかって殺されたのだ、と。
「その犯人は、今も地下牢の中にいるという話だ。あくまで噂話だが、父上の周辺の人間たちが一掃されたのも、それなら説明がつく」
「なぜ……慕われていたのではなかったのですか?」
震える声で、フォリオが尋ねる。
「そう見せかけて、反発する人間もいたのかもしれない。父上は王弟、そして預言者と、重い肩書きを背負っていたから」
慕う者が多いと同時に、敵も隠れていたのかもしれない。
噂話に流されるのはよくないが、嫌な可能性が浮上してきた。
「地下牢といえば、アヴェリアの予言で捕まえることができた赤獅子盗賊団も地下牢に閉じ込められているはずです」
それを聞いたパトリックは、思案する素振りを見せた。
人望の厚かった彼の周囲は、彼を慕う者たちで溢れていた。しかし、彼亡き後、側近たちもことごとく姿を消している。
自分の敬愛する主人がいなくなったのだから、それも必然だろうーーそう多くの人間は考えているが、息子のパトリックはその点を怪しんでいた。
「いくら父上が亡くなったとはいえ、その側近がことごとく城からいなくなるというのはおかしいと思わないか?」
「それだけ慕われていた、ということではないのですか?」
パトリックの疑問に、フォリオは首を傾げる。
慕っていたリヒターがいなくなったのなら、城に残る必要もない。そう思って皆辞めていったのではないのか。
「父上に人望があったのは確かだ。だが、優秀な人材を一斉に手放すなんて、国の不利益になることをわざわざするだろうか?」
そう言われて、フォリオは考え込む。
王弟の、しかも預言者の側近ともなれば、優秀な人材があてられていたことが予想できる。
一気にその人たちがいなくなっては、また優秀な人材を探す時間も、労力もかかるだろう。
「調べてみたが、引き継ぎもなく、ほぼ全ての側近たちが父上亡き後、一斉に姿を消している」
「それは、確かにおかしいかもしれませんね……。その側近は、もう誰も残ってはいないのですか?」
「いや、一人だけ見つけた。今は、私の世話係を務めてくれている」
その言葉に、フォリオは目を丸くした。
パトリックが王位継承権を再び持つようになってから、城での生活に困らないよう、世話係がつけられていた。
その一人が、かつて自分の父である王弟を補佐していた初老の男性なのだという。
「では、その人に聞けば謎が解けるのでは?」
「何か知っているはずだとは思うんだが、口が固くてな。これといって分かった情報はない」
父から子の代まで側に仕えているのだ。信頼が厚い人物に違いはないだろう。その口を割らせるのは簡単なことではない。
しかし、まったく糸口がないよりはましだ。
それに、この城に来てから、気になる噂話を耳にしたのだとパトリックは続ける。
「メイドたちが話しているのを聞いたんだが……父上は、使命を果たして亡くなったのではないのかもしれない」
「えっ、それはどういう……」
「今までずっと、父上は預言者の代償のせいで命を落としたのだと思っていた。だが、誰かの魔の手にかかった可能性が出てきたんだ」
パトリックが王位継承権を取り戻し、ファシアス王家に戻ってきた。その頃、城ではその話題で持ちきりだった。
王弟の息子であることは誰もが知るところであり、当然のようにリヒターの噂も流れた。
噂話はすぐに広がる。中には、王弟の死にまつわる噂を知っている者もいた。
曰く、側近の手にかかって殺されたのだ、と。
「その犯人は、今も地下牢の中にいるという話だ。あくまで噂話だが、父上の周辺の人間たちが一掃されたのも、それなら説明がつく」
「なぜ……慕われていたのではなかったのですか?」
震える声で、フォリオが尋ねる。
「そう見せかけて、反発する人間もいたのかもしれない。父上は王弟、そして預言者と、重い肩書きを背負っていたから」
慕う者が多いと同時に、敵も隠れていたのかもしれない。
噂話に流されるのはよくないが、嫌な可能性が浮上してきた。
「地下牢といえば、アヴェリアの予言で捕まえることができた赤獅子盗賊団も地下牢に閉じ込められているはずです」
それを聞いたパトリックは、思案する素振りを見せた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる