ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第11幕 父の面影

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 スモッグの活躍により、各所に出没した赤獅子盗賊団レッド・リオンの団員たちは、一人残らず捕えられた。
 奇襲に成功した場所がほとんどだったようで、被害は無に等しかった。この功績をたたえ、スモッグには功労賞が授与されることとなる。

「此度はよくやってくれた。ブラウローゼ公爵家、隠密部隊スモッグよ。隊長キリー、これからも国のため、そして主人のために尽力してほしい」

 スモッグの代表として国王に呼び出され、直々に礼を言われたキリーは、居心地が悪そうにしながらも悪い気はしていないようだった。

「そして、アヴェリア嬢。預言者として、またもこの国の危機を救ってくれた。国を代表して、感謝する」

 時として、国王よりも権力をもつ預言者。アヴェリアの言葉は神の代弁でもあり、国王も深々と頭を下げた。

「顔をお上げください。私は、自分の役目を果たしたまでのこと」

 いつものように、凛とした声でアヴェリアは告げた。

「これから、彼らはどうなるのですか?」

 捕えた赤獅子盗賊団レッド・リオンの処遇を尋ねれば、国王は険しい顔をした。

「奴らには、反省の色が見えぬ。このままであれば、一生を牢の中で過ごすことになるやもしれぬな」

 少し違えば、自分たちがそうなっていたかもしれないと思い、キリーは唾を飲み込んだ。
 そんな彼を、アヴェリアは横目に見る。

「流石に、ブラウローゼ公爵家でも、彼らは手に余ります。後のことは、陛下にお任せいたしますわ」
「懸命な判断だ。お人好しが過ぎるのも問題だからな。預言者というのは、どうにもその傾向がある」

 を思い出したのか、国王は顔を曇らせる。

「ご心配なく。私は、自分がやりたいように生きているだけですので」

 見返りを求めない、ただの善意ではない。キリーたちに手を差し伸べたのも、自分の手足となる優秀な部下が欲しかっただけ。
 一つ前の代の預言者は、随分なお人好しだったらしいが。

 前代の預言者であり、現ファシアス王国国王の弟。パトリックの父、リヒター・ファシアスは、大層心の広い人格者として知られている。
 もし預言者でなければ、国王の座には彼が着いていたかもしれないとも囁かれていた。
 だが、彼はアヴェリアが生まれる前に使命を全うして亡くなっている。その最期には謎も多く、パトリックが躍起になって調べていることでもあった。

 アヴェリアたちが国王と謁見している頃、フォリオとパトリックはリヒターの周囲の人間に関する情報を収集していた。
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