ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第11幕 父の面影

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 ファシアス王国が寝静まるのと反対に、血気盛んに行動を開始する組織があった。

「さぁ、派手に頂いていこうぜ!!」

 国の主要な食糧庫を狙い、赤獅子盗賊団レッド・リオンが襲いかかる。
 全体的に10代後半から20代後半までと、煙霧盗賊団スモッグ・ギャングと比べて年齢層は高い。
 この組織に属している人間は、目立つことや暴れることが好きな者ばかりだった。

 ファシアス王国の国民がどうなろうと知ったことではない。
 彼らは自分たちが明日の新聞の一面を飾るであろうことを思い、口角を上げた。
 最も主要な食糧庫の前で、赤獅子盗賊団レッド・リオンの首領ライガは、仲間たちに突撃の指示を出そうとしていた。

 しかし、そこに音もなく割って入る影がある。
 立場上、彼とは顔を合わせる機会が何度もあった。主に、襲撃場所が被って様子を見合っていた時に。

好敵手ライバルだと思ってたんだがな。今じゃ公爵家の犬とは、期待はずれもいいとこだぜ」

 その相手が元煙霧盗賊団スモッグ・ギャングの首領キリーであると知るや否や、嘲るようにライガは鼻を鳴らした。
 キリーたちが足を洗い、ブラウローゼ公爵家に引き入れられたことは、ライガたちも知るところだった。

 自分たちよりも若いのに実績を重ねてきたキリーたちのことを、少しはライガも認めていた。
 しかし、あっさりと盗賊をやめた彼らに、所詮はこんなものかとすぐに興味を失った。

「ただの犬は引っ込んでな!!」

 武力行使において、自分の右に出るものはいない。キリーなど簡単にねじ伏せられる、とライガは自分よりも随分と小柄な青年に襲いかかる。
 だが、次の瞬間、ライガの目に飛び込んできたのは、自分を見下すキリーの顔だった。

「どうだ、公爵家の犬に噛まれた気分は」

 力をいなされ、ライガは簡単にひっくり返されてしまう。
 その状況を理解すると、強かに打ちつけた背中が痛み出す。

「なんっ……で」
「俺たちには、接近戦はできないと思ってたか?」

 確かに、ブラウローゼ公爵家に来るまでは、姿を隠して、戦闘を避け続けてきた。接近戦が苦手というのも、嘘ではない。
 しかし、ブラウローゼ公爵家で働くからには、アヴェリアの護衛も兼ねる必要がある。あのアヴェリアの護衛ともなれば、生半可な技術では許されない。
 影としてアヴェリアを守るために、それはそれは厳しく、接近戦の術も叩き込まれたのだった。

 キリーがライガの相手をしているうちに、仲間たちも元煙霧盗賊団スモッグ・ギャングの団員たちに取り押さえられていく。
 この出来事は、翌日の新聞の一面を飾ることとなる。

『ブラウローゼ公爵家の隠密部隊スモッグ、赤獅子盗賊団レッド・リオンを捕らえる!!』
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