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第11幕 父の面影
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煙霧盗賊団とは、対となる組織があった。
赤獅子盗賊団。隠密を得意とした煙霧盗賊団とは異なり、派手に暴れては金品を奪い、犠牲も厭わない組織だ。
やっていることはどちらも同じだが、暴れ出すと手がつけられないのは赤獅子盗賊団の方だろう。
動きが派手な分、煙霧盗賊団のような捕らえにくさはないが、事件が起こるたびに多くの被害者を出していた。
「俺たちが健在だったころはお互い様子を見合っていましたが、今はやつらが独占状態です」
煙霧盗賊団の元首領であるキリーは、自分の過去の罪を認めるとともに、国王にそう伝えた。
「赤獅子盗賊団が動く、それが今回の予言か?」
「左様でございます」
国王の問いに、アヴェリアは頷いた。
「一週間後の真夜中、ファシアス王国の城下町にある食糧庫を狙って彼らが動きます」
「冬を前にしてそんなことが起これば、国民の生活を守ることができぬ。場所は?」
「複数の食糧庫を、同時に狙うようです。場所は、こちらの地図に示しました」
それに目を通した国王は、深いため息をつく。
「どれも主要な食糧庫ばかりだ。これらを合わせれば、国の食糧の七割は支えているだろう」
予言通りの被害を受ければ、到底ファシアス王国の国民たちは冬を越すことができない。
「俺たちに行かせてもらえないでしょうか?」
そう声を上げたのはキリーだった。アヴェリア以外は、驚きと不安が入り混じった視線を向ける。
「俺たちは、元盗賊です。信用できないのも分かります。しかし、俺たちなら、やつらに気づかれずに不意をつくことができます」
隠密を得意とし、アヴェリアの予言がなければ今も逃げ仰せていたであろう煙霧盗賊団。
そんな彼らならば、赤獅子盗賊団に対抗できるかもしれない。だが、まだ信用しきれない部分もあった。
「彼らのことは、ブラウローゼ公爵家が責任をもちます。王国の騎士団も控えさせた上で、彼らにチャンスを与えては頂けないでしょうか?」
周囲の不安をかき消すように、そうアヴェリアは口添えした。
「彼らが、もし王国に仇なす行動をとった場合には、すぐに然るべき対処を。公爵家で保護している子どもたちも人質としましょう」
冷酷とも捉えられそうな条件を並べていく。しかし、一度は王国の敵だった彼らが今後認められるためには、確かな実績を残す必要があった。煙霧盗賊団の子どもたちの未来のためにも。
それを分かっているのか、キリーは何も言わなかった。
その覚悟を感じ取り、王国の騎士団も同行させるとの条件のもと、元煙霧盗賊団の出動が許可された。
「どんな者にも慈悲を与えようとするのは、リヒターと変わらぬな……」
退室するアヴェリアの背中を見つめながら、国王は今は亡き弟のことを思った。
赤獅子盗賊団。隠密を得意とした煙霧盗賊団とは異なり、派手に暴れては金品を奪い、犠牲も厭わない組織だ。
やっていることはどちらも同じだが、暴れ出すと手がつけられないのは赤獅子盗賊団の方だろう。
動きが派手な分、煙霧盗賊団のような捕らえにくさはないが、事件が起こるたびに多くの被害者を出していた。
「俺たちが健在だったころはお互い様子を見合っていましたが、今はやつらが独占状態です」
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「左様でございます」
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「冬を前にしてそんなことが起これば、国民の生活を守ることができぬ。場所は?」
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「俺たちに行かせてもらえないでしょうか?」
そう声を上げたのはキリーだった。アヴェリア以外は、驚きと不安が入り混じった視線を向ける。
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そんな彼らならば、赤獅子盗賊団に対抗できるかもしれない。だが、まだ信用しきれない部分もあった。
「彼らのことは、ブラウローゼ公爵家が責任をもちます。王国の騎士団も控えさせた上で、彼らにチャンスを与えては頂けないでしょうか?」
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「彼らが、もし王国に仇なす行動をとった場合には、すぐに然るべき対処を。公爵家で保護している子どもたちも人質としましょう」
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それを分かっているのか、キリーは何も言わなかった。
その覚悟を感じ取り、王国の騎士団も同行させるとの条件のもと、元煙霧盗賊団の出動が許可された。
「どんな者にも慈悲を与えようとするのは、リヒターと変わらぬな……」
退室するアヴェリアの背中を見つめながら、国王は今は亡き弟のことを思った。
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