60 / 94
第11幕 父の面影
59
しおりを挟む
ルーデアス王国にある、パトリックの実家。父亡きあと、母親の実家に身を寄せていたパトリックが、つい最近まで住んでいた場所だ。
王位継承権が復活してからは、親元を離れてファシアス王国で暮らしていた。そんな彼だが、アヴェリアたちがハルサーシャの招待でルーデアス王国を訪れた際、一度帰省していた。
久しぶりの再会を喜んだあと、パトリックは自分の思いを打ち明ける。
預言者の代償を解決する方法を見つけたいーーその手がかりを知らないか、無理を承知で母に聞いてみた。
父の話題を出すのは、いつぶりのことだろう。黙っていた方がいいだろうと、幼いながらにパトリックは察していた。
だが、今となっては、どんなに些細な情報でも欲しい。
「それは、諦めた方がいいわ」
表情を曇らせながら、母は答えた。
「今代の預言者ーーアヴェリアさんだったかしら。彼女のことは、できることなら私も救いたいと思うわ」
夫とアヴェリアを重ね合わせ、これから先に待つ避けられない運命を憂う。
「でも、私たちにできるのは、その時まで側で支えることだけ。余計な介入は、預言者たちが望まないはずよ」
「それでも、私は救いたいと思うのです」
父を失ったパトリックは、アヴェリアまでも同じ目に遭わせたくはなかった。
しかし、母は真剣な表情で首を横に振る。
「余計なことはすべきではありません」
きっぱりと、そう忠告した。
母は、ハルサーシャほどではないにしても、預言者を崇拝している。だから、そんなことを言ったのかもしれない。
忠告を受けても、パトリックは簡単に諦めるわけにはいかなかった。
「パトリック、あなたは自分に与えられた運命と向き合いなさい」
「預言者の代償を解決するまでは、いくら母上の頼みといえど、約束できません」
「パトリック」
「人ひとりの命がかかっているのです。母上も、父上のことを忘れたわけではないでしょう!?」
そう声を荒げれば、母も黙ってしまった。
流石に言いすぎたか、とパトリックが謝罪する前に、母が口を開く。
「命がかかっているからこそ、余計な介入はしない方がいいのよ。それでもあなたのお父様のようにーー私に言えることは、これ以上ないわ」
何か続けようとしたが、言い終わる前に口を噤んだ。
他に知っていることがあるのではないか。そう思ったが、今日のところはこのくらいにしておこうと、母の表情を見て退くことにした。
ファシアス王国へ帰国する馬車の中で、アヴェリアとフォリオが談笑している。主に喋りかけているのは従兄弟の方だが。
アヴェリアに好意を寄せているフォリオ。弟のように可愛がっている彼を、悲しませたくはなかった。
朧げな記憶の中で笑う父。アヴェリアとは違う人間だが、どこか重なる部分があるように思えた。
ふと、黄金色の瞳と目が合う。
アヴェリアは目を細めて微笑んだ。思わず、パトリックは目を逸らす。どうにも、彼女にそうされると照れくさくなってしまう。
彼女のことを失いたくない。
預言者を代償から救う術を探すのは、やはり諦められなかった。
王位継承権が復活してからは、親元を離れてファシアス王国で暮らしていた。そんな彼だが、アヴェリアたちがハルサーシャの招待でルーデアス王国を訪れた際、一度帰省していた。
久しぶりの再会を喜んだあと、パトリックは自分の思いを打ち明ける。
預言者の代償を解決する方法を見つけたいーーその手がかりを知らないか、無理を承知で母に聞いてみた。
父の話題を出すのは、いつぶりのことだろう。黙っていた方がいいだろうと、幼いながらにパトリックは察していた。
だが、今となっては、どんなに些細な情報でも欲しい。
「それは、諦めた方がいいわ」
表情を曇らせながら、母は答えた。
「今代の預言者ーーアヴェリアさんだったかしら。彼女のことは、できることなら私も救いたいと思うわ」
夫とアヴェリアを重ね合わせ、これから先に待つ避けられない運命を憂う。
「でも、私たちにできるのは、その時まで側で支えることだけ。余計な介入は、預言者たちが望まないはずよ」
「それでも、私は救いたいと思うのです」
父を失ったパトリックは、アヴェリアまでも同じ目に遭わせたくはなかった。
しかし、母は真剣な表情で首を横に振る。
「余計なことはすべきではありません」
きっぱりと、そう忠告した。
母は、ハルサーシャほどではないにしても、預言者を崇拝している。だから、そんなことを言ったのかもしれない。
忠告を受けても、パトリックは簡単に諦めるわけにはいかなかった。
「パトリック、あなたは自分に与えられた運命と向き合いなさい」
「預言者の代償を解決するまでは、いくら母上の頼みといえど、約束できません」
「パトリック」
「人ひとりの命がかかっているのです。母上も、父上のことを忘れたわけではないでしょう!?」
そう声を荒げれば、母も黙ってしまった。
流石に言いすぎたか、とパトリックが謝罪する前に、母が口を開く。
「命がかかっているからこそ、余計な介入はしない方がいいのよ。それでもあなたのお父様のようにーー私に言えることは、これ以上ないわ」
何か続けようとしたが、言い終わる前に口を噤んだ。
他に知っていることがあるのではないか。そう思ったが、今日のところはこのくらいにしておこうと、母の表情を見て退くことにした。
ファシアス王国へ帰国する馬車の中で、アヴェリアとフォリオが談笑している。主に喋りかけているのは従兄弟の方だが。
アヴェリアに好意を寄せているフォリオ。弟のように可愛がっている彼を、悲しませたくはなかった。
朧げな記憶の中で笑う父。アヴェリアとは違う人間だが、どこか重なる部分があるように思えた。
ふと、黄金色の瞳と目が合う。
アヴェリアは目を細めて微笑んだ。思わず、パトリックは目を逸らす。どうにも、彼女にそうされると照れくさくなってしまう。
彼女のことを失いたくない。
預言者を代償から救う術を探すのは、やはり諦められなかった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

そのご令嬢、婚約破棄されました。
玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。
婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。
その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。
よくある婚約破棄の、一幕。
※小説家になろう にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる