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第11幕 父の面影
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ルーデアス王国にある、パトリックの実家。父亡きあと、母親の実家に身を寄せていたパトリックが、つい最近まで住んでいた場所だ。
王位継承権が復活してからは、親元を離れてファシアス王国で暮らしていた。そんな彼だが、アヴェリアたちがハルサーシャの招待でルーデアス王国を訪れた際、一度帰省していた。
久しぶりの再会を喜んだあと、パトリックは自分の思いを打ち明ける。
預言者の代償を解決する方法を見つけたいーーその手がかりを知らないか、無理を承知で母に聞いてみた。
父の話題を出すのは、いつぶりのことだろう。黙っていた方がいいだろうと、幼いながらにパトリックは察していた。
だが、今となっては、どんなに些細な情報でも欲しい。
「それは、諦めた方がいいわ」
表情を曇らせながら、母は答えた。
「今代の預言者ーーアヴェリアさんだったかしら。彼女のことは、できることなら私も救いたいと思うわ」
夫とアヴェリアを重ね合わせ、これから先に待つ避けられない運命を憂う。
「でも、私たちにできるのは、その時まで側で支えることだけ。余計な介入は、預言者たちが望まないはずよ」
「それでも、私は救いたいと思うのです」
父を失ったパトリックは、アヴェリアまでも同じ目に遭わせたくはなかった。
しかし、母は真剣な表情で首を横に振る。
「余計なことはすべきではありません」
きっぱりと、そう忠告した。
母は、ハルサーシャほどではないにしても、預言者を崇拝している。だから、そんなことを言ったのかもしれない。
忠告を受けても、パトリックは簡単に諦めるわけにはいかなかった。
「パトリック、あなたは自分に与えられた運命と向き合いなさい」
「預言者の代償を解決するまでは、いくら母上の頼みといえど、約束できません」
「パトリック」
「人ひとりの命がかかっているのです。母上も、父上のことを忘れたわけではないでしょう!?」
そう声を荒げれば、母も黙ってしまった。
流石に言いすぎたか、とパトリックが謝罪する前に、母が口を開く。
「命がかかっているからこそ、余計な介入はしない方がいいのよ。それでもあなたのお父様のようにーー私に言えることは、これ以上ないわ」
何か続けようとしたが、言い終わる前に口を噤んだ。
他に知っていることがあるのではないか。そう思ったが、今日のところはこのくらいにしておこうと、母の表情を見て退くことにした。
ファシアス王国へ帰国する馬車の中で、アヴェリアとフォリオが談笑している。主に喋りかけているのは従兄弟の方だが。
アヴェリアに好意を寄せているフォリオ。弟のように可愛がっている彼を、悲しませたくはなかった。
朧げな記憶の中で笑う父。アヴェリアとは違う人間だが、どこか重なる部分があるように思えた。
ふと、黄金色の瞳と目が合う。
アヴェリアは目を細めて微笑んだ。思わず、パトリックは目を逸らす。どうにも、彼女にそうされると照れくさくなってしまう。
彼女のことを失いたくない。
預言者を代償から救う術を探すのは、やはり諦められなかった。
王位継承権が復活してからは、親元を離れてファシアス王国で暮らしていた。そんな彼だが、アヴェリアたちがハルサーシャの招待でルーデアス王国を訪れた際、一度帰省していた。
久しぶりの再会を喜んだあと、パトリックは自分の思いを打ち明ける。
預言者の代償を解決する方法を見つけたいーーその手がかりを知らないか、無理を承知で母に聞いてみた。
父の話題を出すのは、いつぶりのことだろう。黙っていた方がいいだろうと、幼いながらにパトリックは察していた。
だが、今となっては、どんなに些細な情報でも欲しい。
「それは、諦めた方がいいわ」
表情を曇らせながら、母は答えた。
「今代の預言者ーーアヴェリアさんだったかしら。彼女のことは、できることなら私も救いたいと思うわ」
夫とアヴェリアを重ね合わせ、これから先に待つ避けられない運命を憂う。
「でも、私たちにできるのは、その時まで側で支えることだけ。余計な介入は、預言者たちが望まないはずよ」
「それでも、私は救いたいと思うのです」
父を失ったパトリックは、アヴェリアまでも同じ目に遭わせたくはなかった。
しかし、母は真剣な表情で首を横に振る。
「余計なことはすべきではありません」
きっぱりと、そう忠告した。
母は、ハルサーシャほどではないにしても、預言者を崇拝している。だから、そんなことを言ったのかもしれない。
忠告を受けても、パトリックは簡単に諦めるわけにはいかなかった。
「パトリック、あなたは自分に与えられた運命と向き合いなさい」
「預言者の代償を解決するまでは、いくら母上の頼みといえど、約束できません」
「パトリック」
「人ひとりの命がかかっているのです。母上も、父上のことを忘れたわけではないでしょう!?」
そう声を荒げれば、母も黙ってしまった。
流石に言いすぎたか、とパトリックが謝罪する前に、母が口を開く。
「命がかかっているからこそ、余計な介入はしない方がいいのよ。それでもあなたのお父様のようにーー私に言えることは、これ以上ないわ」
何か続けようとしたが、言い終わる前に口を噤んだ。
他に知っていることがあるのではないか。そう思ったが、今日のところはこのくらいにしておこうと、母の表情を見て退くことにした。
ファシアス王国へ帰国する馬車の中で、アヴェリアとフォリオが談笑している。主に喋りかけているのは従兄弟の方だが。
アヴェリアに好意を寄せているフォリオ。弟のように可愛がっている彼を、悲しませたくはなかった。
朧げな記憶の中で笑う父。アヴェリアとは違う人間だが、どこか重なる部分があるように思えた。
ふと、黄金色の瞳と目が合う。
アヴェリアは目を細めて微笑んだ。思わず、パトリックは目を逸らす。どうにも、彼女にそうされると照れくさくなってしまう。
彼女のことを失いたくない。
預言者を代償から救う術を探すのは、やはり諦められなかった。
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