ここからは私の独壇場です

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
59 / 94
第10幕 お茶会の乙女

58

しおりを挟む
「シエナ嬢は、君の使命について知っているのか?」

 シエナの見送りが済んだ後、パトリックはアヴェリアに尋ねる。その問いに、彼女は首を横に振った。

「いいえ、話しておりませんわ」
「これだけ親しくなっても、教える気はないの?」

 フォリオは、アヴェリア本人が教えるまで、シエナには話さないつもりでいた。デリケートな問題であるため、他人が伝えるべきことではないだろう。

「親しくなったからこそ、教えられないんだろう」

 パトリックは難しい顔をする。

「どういうことですか、兄上?」
「私たちどちらかの婚約者にしたいのなら、使命については黙っていた方がいい。今日見た様子だと、知れば絶対に婚約者になることを拒むだろう」

 アヴェリアのことを、とても慕っている様子だったシエナ。
 もし、王太子の運命の相手を見つけることが使命であると知れば、婚約者になどなるはずがない。

「このまま黙っているのは、あまりにも残酷だぞ。君の使命について知らせずに、私たちの婚約者にしようとするのは」

 何も知らないまま、シエナが婚約者になったらどうなるか。
 気づいたらアヴェリアがいなくなっていた、などという状況になれば、驚くだろう。
 そして、あとから使命を知って、自分のせいでアヴェリアがいなくなってしまったのだと、自分を責め続けるかもしれない。

 パトリックには話していないのに、婚約者にしようとしていることがバレてしまったようだ。
 隠すのは無駄だと、アヴェリアも諦める。

「私たちが勝手に伝えるようなことはしない。自分の口から話した方がいいだろう」
「確かに、話さないわけにはいきませんわね。シエナ様を苦しませるのは、私も望みません」

 パトリックの言葉に納得したのか、アヴェリアも素直に受け入れた。

(使命を知ったとしても、それ以上に、お二人のどちらかと添い遂げたいと強く思って頂かなくてはなりませんね)

 その代わり、より一層、親睦を深めてもらわなくてはと気合いを入れ直す。

「ところで、お二人とも。まだ、代償をなくす方法を探しておられるのですか?」

 その問いに、フォリオとパトリックは答えなかった。だが、それが何よりの肯定だ。

「いい加減、諦めてください。そんなもの、ないのですから。時間の無駄ですわ」

 やれやれ、とアヴェリアはため息をつく。
 しかし、二人の目はまったく諦めるなど考えもしていないようだ。

「言うだけ無駄、ですわね」

 呆れたように呟き、それ以上は口を噤んだ。

 シエナが帰ってから少しして、王宮からの迎えの馬車が到着する。
 揃って乗り込んだ王子たちを見送りながら、アヴェリアは次はいつシエナと会えるか考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

陰で泣くとか無理なので

中田カナ
恋愛
婚約者である王太子殿下のご学友達に陰口を叩かれていたけれど、泣き寝入りなんて趣味じゃない。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...