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第10幕 お茶会の乙女
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「シエナ嬢は、君の使命について知っているのか?」
シエナの見送りが済んだ後、パトリックはアヴェリアに尋ねる。その問いに、彼女は首を横に振った。
「いいえ、話しておりませんわ」
「これだけ親しくなっても、教える気はないの?」
フォリオは、アヴェリア本人が教えるまで、シエナには話さないつもりでいた。デリケートな問題であるため、他人が伝えるべきことではないだろう。
「親しくなったからこそ、教えられないんだろう」
パトリックは難しい顔をする。
「どういうことですか、兄上?」
「私たちどちらかの婚約者にしたいのなら、使命については黙っていた方がいい。今日見た様子だと、知れば絶対に婚約者になることを拒むだろう」
アヴェリアのことを、とても慕っている様子だったシエナ。
もし、王太子の運命の相手を見つけることが使命であると知れば、婚約者になどなるはずがない。
「このまま黙っているのは、あまりにも残酷だぞ。君の使命について知らせずに、私たちの婚約者にしようとするのは」
何も知らないまま、シエナが婚約者になったらどうなるか。
気づいたらアヴェリアがいなくなっていた、などという状況になれば、驚くだろう。
そして、あとから使命を知って、自分のせいでアヴェリアがいなくなってしまったのだと、自分を責め続けるかもしれない。
パトリックには話していないのに、婚約者にしようとしていることがバレてしまったようだ。
隠すのは無駄だと、アヴェリアも諦める。
「私たちが勝手に伝えるようなことはしない。自分の口から話した方がいいだろう」
「確かに、話さないわけにはいきませんわね。シエナ様を苦しませるのは、私も望みません」
パトリックの言葉に納得したのか、アヴェリアも素直に受け入れた。
(使命を知ったとしても、それ以上に、お二人のどちらかと添い遂げたいと強く思って頂かなくてはなりませんね)
その代わり、より一層、親睦を深めてもらわなくてはと気合いを入れ直す。
「ところで、お二人とも。まだ、代償をなくす方法を探しておられるのですか?」
その問いに、フォリオとパトリックは答えなかった。だが、それが何よりの肯定だ。
「いい加減、諦めてください。そんなもの、ないのですから。時間の無駄ですわ」
やれやれ、とアヴェリアはため息をつく。
しかし、二人の目はまったく諦めるなど考えもしていないようだ。
「言うだけ無駄、ですわね」
呆れたように呟き、それ以上は口を噤んだ。
シエナが帰ってから少しして、王宮からの迎えの馬車が到着する。
揃って乗り込んだ王子たちを見送りながら、アヴェリアは次はいつシエナと会えるか考えていた。
シエナの見送りが済んだ後、パトリックはアヴェリアに尋ねる。その問いに、彼女は首を横に振った。
「いいえ、話しておりませんわ」
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フォリオは、アヴェリア本人が教えるまで、シエナには話さないつもりでいた。デリケートな問題であるため、他人が伝えるべきことではないだろう。
「親しくなったからこそ、教えられないんだろう」
パトリックは難しい顔をする。
「どういうことですか、兄上?」
「私たちどちらかの婚約者にしたいのなら、使命については黙っていた方がいい。今日見た様子だと、知れば絶対に婚約者になることを拒むだろう」
アヴェリアのことを、とても慕っている様子だったシエナ。
もし、王太子の運命の相手を見つけることが使命であると知れば、婚約者になどなるはずがない。
「このまま黙っているのは、あまりにも残酷だぞ。君の使命について知らせずに、私たちの婚約者にしようとするのは」
何も知らないまま、シエナが婚約者になったらどうなるか。
気づいたらアヴェリアがいなくなっていた、などという状況になれば、驚くだろう。
そして、あとから使命を知って、自分のせいでアヴェリアがいなくなってしまったのだと、自分を責め続けるかもしれない。
パトリックには話していないのに、婚約者にしようとしていることがバレてしまったようだ。
隠すのは無駄だと、アヴェリアも諦める。
「私たちが勝手に伝えるようなことはしない。自分の口から話した方がいいだろう」
「確かに、話さないわけにはいきませんわね。シエナ様を苦しませるのは、私も望みません」
パトリックの言葉に納得したのか、アヴェリアも素直に受け入れた。
(使命を知ったとしても、それ以上に、お二人のどちらかと添い遂げたいと強く思って頂かなくてはなりませんね)
その代わり、より一層、親睦を深めてもらわなくてはと気合いを入れ直す。
「ところで、お二人とも。まだ、代償をなくす方法を探しておられるのですか?」
その問いに、フォリオとパトリックは答えなかった。だが、それが何よりの肯定だ。
「いい加減、諦めてください。そんなもの、ないのですから。時間の無駄ですわ」
やれやれ、とアヴェリアはため息をつく。
しかし、二人の目はまったく諦めるなど考えもしていないようだ。
「言うだけ無駄、ですわね」
呆れたように呟き、それ以上は口を噤んだ。
シエナが帰ってから少しして、王宮からの迎えの馬車が到着する。
揃って乗り込んだ王子たちを見送りながら、アヴェリアは次はいつシエナと会えるか考えていた。
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