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第10幕 お茶会の乙女
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「もう、もうっ! アリア様は何て失礼な方なのかしら!!」
久しぶりにエインズワース侯爵家に呼ばれたアヴェリアは、シエナに先日の一件を話した。
一連の出来事を聞いたシエナは、本気で怒ってくれているようだった。
「もう終わったことです。それに、デイモン男爵令嬢の思うようにはさせませんでしたから」
「流石はアヴェリア様です。もしかして、今着ていらっしゃるドレスは……」
「ええ。デイモン男爵から、特別に頂いた新商品です」
「アリア様は別として、デイモン商会の商品は確かにいいものですからね。とてもよくお似合いです」
ほぅ、とシエナは見惚れる。
約束通り、各方面で呼ばれるパーティーには、デイモン男爵から贈られたドレスを身につけて行っている。
先日、アヴェリアが自分で仕立てさせた、ルーデアス王国伝統の刺繍が施されたものと種類は同じだが、柄や細かなデザインは変更されていた。
子ども用に仕立て直してあるとはいえ、元は大人用のデザイン。アヴェリアであれば見事に着こなせるが、人を選ぶものではあった。
だが、令嬢と同伴している保護者たちには、その真新しいデザインがうけた。聞いた話では、アヴェリアがデイモン商会の新商品を着るようになってから、あっという間に売り切れ続出だとか。
元々、数は売れないだろうと踏んでいた子ども用については、限定品というプレミアをつけたおかげか、こちらも好調なようである。
アリアの機嫌は直っただろうか、とアヴェリアは思う。
まだ幼いからか、アリアの力は完全なものではない。悪魔の魅了の力は、外部からの働きかけで解けることもあるようだ。先日のお茶会でも、そのおかげでアリアの思惑を叩き潰すことができた。
しかし、成長に伴ってその力は増していくだろう。そうなれば、厄介な相手であることは間違いない。
(やはり、今のうちからシエナ様とフォリオ殿下の仲を取り持っておきませんと。それに、パトリック殿下にもご紹介しておいた方がよさそうですわね)
じっ、と見つめられ、目の前で首を傾げるシエナ。
彼女の受ける天使の祝福。その力は、悪魔の魅了を掻き消すことができる。今はフォリオだけだが、いずれパトリックにもアリアの魔の手が伸びるかもしれない。
そうなる前に、シエナの協力を仰ぐ必要があった。
「シエナ様は、ご自身の力に気づいておられますか?」
急な問いかけに、シエナは戸惑う。
「私の力、ですか? いえ……思いつくことはありませんが」
祝福を受けている者は、生まれた時からそれが普通であるため、自分では祝福を受けていることすら気づかないことが多い。シエナもその類に漏れないようだった。
「シエナ様、あなたは天使の祝福を受けています」
その言葉に、シエナははっと息をのんだ。
久しぶりにエインズワース侯爵家に呼ばれたアヴェリアは、シエナに先日の一件を話した。
一連の出来事を聞いたシエナは、本気で怒ってくれているようだった。
「もう終わったことです。それに、デイモン男爵令嬢の思うようにはさせませんでしたから」
「流石はアヴェリア様です。もしかして、今着ていらっしゃるドレスは……」
「ええ。デイモン男爵から、特別に頂いた新商品です」
「アリア様は別として、デイモン商会の商品は確かにいいものですからね。とてもよくお似合いです」
ほぅ、とシエナは見惚れる。
約束通り、各方面で呼ばれるパーティーには、デイモン男爵から贈られたドレスを身につけて行っている。
先日、アヴェリアが自分で仕立てさせた、ルーデアス王国伝統の刺繍が施されたものと種類は同じだが、柄や細かなデザインは変更されていた。
子ども用に仕立て直してあるとはいえ、元は大人用のデザイン。アヴェリアであれば見事に着こなせるが、人を選ぶものではあった。
だが、令嬢と同伴している保護者たちには、その真新しいデザインがうけた。聞いた話では、アヴェリアがデイモン商会の新商品を着るようになってから、あっという間に売り切れ続出だとか。
元々、数は売れないだろうと踏んでいた子ども用については、限定品というプレミアをつけたおかげか、こちらも好調なようである。
アリアの機嫌は直っただろうか、とアヴェリアは思う。
まだ幼いからか、アリアの力は完全なものではない。悪魔の魅了の力は、外部からの働きかけで解けることもあるようだ。先日のお茶会でも、そのおかげでアリアの思惑を叩き潰すことができた。
しかし、成長に伴ってその力は増していくだろう。そうなれば、厄介な相手であることは間違いない。
(やはり、今のうちからシエナ様とフォリオ殿下の仲を取り持っておきませんと。それに、パトリック殿下にもご紹介しておいた方がよさそうですわね)
じっ、と見つめられ、目の前で首を傾げるシエナ。
彼女の受ける天使の祝福。その力は、悪魔の魅了を掻き消すことができる。今はフォリオだけだが、いずれパトリックにもアリアの魔の手が伸びるかもしれない。
そうなる前に、シエナの協力を仰ぐ必要があった。
「シエナ様は、ご自身の力に気づいておられますか?」
急な問いかけに、シエナは戸惑う。
「私の力、ですか? いえ……思いつくことはありませんが」
祝福を受けている者は、生まれた時からそれが普通であるため、自分では祝福を受けていることすら気づかないことが多い。シエナもその類に漏れないようだった。
「シエナ様、あなたは天使の祝福を受けています」
その言葉に、シエナははっと息をのんだ。
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