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第10幕 お茶会の乙女
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「我が社の新商品を手にとって下さるなんて!! ブラウローゼ公爵家のお嬢様も、我が社のブティックを利用してくださっているのですか?」
ぽかん、とわけのわからないアリアや他の令嬢たちをそっちのけで、男爵は詰め寄る。
「ええ、こちらは友好国であるルーデアス王国伝統の刺繍が施されていて、目を惹かれましたの。大人用しか置いていなかったので、子ども用に仕立て直して頂きました」
「伝統にも詳しいとは、噂に違わぬ博識ですな。子どもにはシンプルすぎるデザインかと思っていましたが、いやはや、アヴェリア嬢が着ると絵になります」
限定品で子ども用を作らせてもいいかも……と、男爵はぶつぶつ呟いている。
「よければ、今後のパーティーにも着て行ってもらえませんか? 他のデザインのものも何着かご用意いたしますので」
「宣伝も兼ねて、ですわね。その商魂逞しいところ、嫌いじゃありませんわ。引き受けましょう」
「ちょ、ちょっとお父様! 新作があるなんて、私聞いていないわ!!」
自分そっちのけで進む話に、アリアがついに割って入る。
「モデルにするなら、私の方が適任でしょ!? デイモン男爵家の娘は私だけなんだから」
「アリアには、もっと可愛らしいデザインのものが似合うよ。今着ているドレスだって、素敵じゃないか」
「どうして私に一番に教えてくれなかったのよ!」
「まだ一部店舗で、しかも大人用しか取り扱っていない商品なんだよ。アリアには、今度新しいドレスを買ってあげるから……」
しかし、アリアはアヴェリアに先を越されたことが許せないのか、男爵にずっと詰め寄っている。
その様子を見ていた他の令嬢たちは、アヴェリアのことを馬鹿にしていたこともあり、居心地が悪そうに俯いていた。
神託を受けて、アヴェリアはデイモン男爵家のブティックにおつかいを送った。
そこで、最も新しいデザインのドレスを見つけてくるように命じた。子ども用がないと知ると、これは好都合だと特別に仕立て直してもらえるよう頼んだ。
アリアも、まさか大人用のデザインのドレスは持っていないだろう。これで、最先端をいくのはどちらか、勝負しようじゃないかと臨んだ今日。
非常に清々しい気持ちで、アヴェリアはひとり優雅にティーカップを傾けていた。
その後は、主催者であるアリアが完全に機嫌を損ねてしまったため、自然とお茶会はお開きとなった。
怒って部屋に戻ってしまったアリアと代わり、男爵が謝罪する。娘は我儘であれ、男爵自身の人となりはちゃんとしているように見えた。
アヴェリアには後日、新作のドレスを贈る約束をして、その日は別れる。
(神は、しっかり見ているかしら?)
帰りの馬車の中で、アヴェリアは窓辺から、雲ひとつない青空を見上げた。
ぽかん、とわけのわからないアリアや他の令嬢たちをそっちのけで、男爵は詰め寄る。
「ええ、こちらは友好国であるルーデアス王国伝統の刺繍が施されていて、目を惹かれましたの。大人用しか置いていなかったので、子ども用に仕立て直して頂きました」
「伝統にも詳しいとは、噂に違わぬ博識ですな。子どもにはシンプルすぎるデザインかと思っていましたが、いやはや、アヴェリア嬢が着ると絵になります」
限定品で子ども用を作らせてもいいかも……と、男爵はぶつぶつ呟いている。
「よければ、今後のパーティーにも着て行ってもらえませんか? 他のデザインのものも何着かご用意いたしますので」
「宣伝も兼ねて、ですわね。その商魂逞しいところ、嫌いじゃありませんわ。引き受けましょう」
「ちょ、ちょっとお父様! 新作があるなんて、私聞いていないわ!!」
自分そっちのけで進む話に、アリアがついに割って入る。
「モデルにするなら、私の方が適任でしょ!? デイモン男爵家の娘は私だけなんだから」
「アリアには、もっと可愛らしいデザインのものが似合うよ。今着ているドレスだって、素敵じゃないか」
「どうして私に一番に教えてくれなかったのよ!」
「まだ一部店舗で、しかも大人用しか取り扱っていない商品なんだよ。アリアには、今度新しいドレスを買ってあげるから……」
しかし、アリアはアヴェリアに先を越されたことが許せないのか、男爵にずっと詰め寄っている。
その様子を見ていた他の令嬢たちは、アヴェリアのことを馬鹿にしていたこともあり、居心地が悪そうに俯いていた。
神託を受けて、アヴェリアはデイモン男爵家のブティックにおつかいを送った。
そこで、最も新しいデザインのドレスを見つけてくるように命じた。子ども用がないと知ると、これは好都合だと特別に仕立て直してもらえるよう頼んだ。
アリアも、まさか大人用のデザインのドレスは持っていないだろう。これで、最先端をいくのはどちらか、勝負しようじゃないかと臨んだ今日。
非常に清々しい気持ちで、アヴェリアはひとり優雅にティーカップを傾けていた。
その後は、主催者であるアリアが完全に機嫌を損ねてしまったため、自然とお茶会はお開きとなった。
怒って部屋に戻ってしまったアリアと代わり、男爵が謝罪する。娘は我儘であれ、男爵自身の人となりはちゃんとしているように見えた。
アヴェリアには後日、新作のドレスを贈る約束をして、その日は別れる。
(神は、しっかり見ているかしら?)
帰りの馬車の中で、アヴェリアは窓辺から、雲ひとつない青空を見上げた。
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