ここからは私の独壇場です

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
54 / 94
第10幕 お茶会の乙女

53

しおりを挟む
 デイモン男爵家での、お茶会当日。
 客間に通されたアヴェリアは、他の令嬢たちが揃っているのを確認したあと、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
 予知通り、アヴェリア以外の令嬢たちは、多少色合いは異なるものの、同じ型のドレスに身を包んでいた。

 フリルがふんだんに使われた令嬢たちのドレスとは対照的に、アヴェリアが着ているのは、生地にこそ見事な金の刺繍が施されているが、他に装飾のないシンプルなものだった。
 一人だけ違うドレスに身を包んだアヴェリアを見て、令嬢たちはざわつく。

「皆さん、どうぞ今日は楽しんでいってくださいね!」

 主催者であるアリアは、満面の笑みである。

「あの……アヴェリア様は、アリア様から頂いたドレスを着てこなかったのですか?」

 同席していた令嬢の一人が、おずおずと尋ねる。

「あら、皆さんお揃いのドレスは、デイモン男爵令嬢から贈られたものだったのですか? 残念ながら、私は頂いておりません」
「きっと、私が思いもよらないような素敵なお姿を拝見できるだろうと思って、あえて贈りませんでしたの」

 でも、とアリアは蔑むような視線をアヴェリアに向ける。
 今日のアヴェリアの出立ちは、決して派手なものではない。落ち着いている、というのは言い換えれば地味ともとれる。

「やっぱり、ドレスをお贈りした方がよかったでしょうか? 今流行りのもので、なかなか手に入らないんですよ」

 自分は、デイモン男爵家が管理するブティックに顔がきくから、手に入れられるけれど、とアリアはにやりと笑った。

 流行遅れと馬鹿にしたいのだろう。周りの令嬢たちも、初めは戸惑っていたが、時間が経つにつれてアリアに感化されていったのか、クスクスと笑い始める。

「アヴェリア様がお願いするというのなら、特別にもう一着用意しないこともないですが……」
「お気遣いありがとうございます。ですが、必要ありませんわ」

 強がっていると思われているのだろう。だが、そうしていられるのも今のうちだ。

「娘がお茶会を開いていると聞いてね。楽しんでくれているかな?」

 しばらくしたところで、様子を見に来たのはアリアの父、デイモン男爵だった。その商才で男爵の地位を賜った、やり手である。
 娘には甘いが、男爵の力はアヴェリアも認めていた。

「お父様!」
「こらこら、人前ではしたないよ?」

 抱きついてくる娘に注意しながらも、その顔は緩み切っていた。

「おや、みんな我が社のドレスを着てくれているんだね。ありがとう」

 デイモン男爵家がプロデュースした揃いのドレスに身を包んでいる令嬢たちを見て、男爵は嬉しそうに目を細める。
 ぴたり、とアヴェリアの前で視線をとめると、男爵は驚いたように目を見開いた。

「アヴェリア嬢、そちらのドレスは……」
「お父様……ブラウローゼ公爵家の方なら、私が勧めなくても素敵なドレスを着てくると思っていたのです」

 父親が、アヴェリアだけ違う服装を、しかもこんなに質素なドレスを着てきたことに戸惑っているのだと思ったアリアが援護する。
 しかし、戸惑うどころか、男爵は目を輝かせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...