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第10幕 お茶会の乙女
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その日、アヴェリアは可愛らしい便箋を片手に考えていた。
差出人は、アリア・デイモン。因縁の男爵令嬢である。
(私をお茶会に招待してくるなんて、何を企んでいるのでしょうね)
先日、エインズワース侯爵家で行われたシエナ侯爵令嬢の誕生日パーティーのことを忘れたわけではあるまい。
主役であるはずのシエナを差し置いて、自分が主役になろうとでしゃばった。だが、上手くいかずに恥をかいただけである。
おそらく、その腹いせに嫌がらせでもするつもりでいるのだろう。何を企んでいるかは分からないが、ただでやられてやるつもりはない。
せいぜい楽しませてくれればいいが、とアヴェリアは口角を上げた。
その晩、夢を見た。いつもの神託である。
どこかウキウキしている様子だと思っていると、ルーデアス王国での出来事を覗き見していたのか、絡んでくる。
「ハルサーシャ王子とは、どうなんだい? いやぁ~、面白い展開になってるね」
「早く本題に入っていただけますか?」
「相変わらず冷たいな、もう」
茶化してくる神を一蹴できるのも、アヴェリアくらいのものだろう。
わざとらしく落ち込んでみせたあと、神はアリアの思惑を予知した。
「子どもらしい嫌がらせだよ。アヴェリア以外の招待客にはドレスを贈ってあって、当日着てくるように指示してある。流行りのもので、それを着ていない君のことを笑うつもりのようだよ」
幼稚な考えだな、とアヴェリアはつまらなく思った。
別に、その程度のことであれば無視しても構わない。だが、悪魔に魅入られたアリアの言葉に、周りの令嬢たちも同調してしまうだろう。それを放置するのは、些か気が引けた。
それに、アリアが一生懸命考えたであろう悪巧みを潰してやるのも一興ではないか。
「では、私はさらに高みから嘲笑って差し上げましょう」
「どうする気だい?」
「見てからのお楽しみ、ですわ」
未来が見える神にとって、わざわざ聞く必要などない。だが、あえて先のことを知らずにおきたい時は、わざと予知しないでいることもある。
ただ神の暇つぶしに付き合うだけでは面白くない。自分も楽しませてもらわなくては、とアヴェリアは微笑む。
歴代の預言者の中でも特異な彼女のことを、神は気に入っていた。
「では、楽しみに待っているとするよ」
その一言のあと、ふっ、と現実世界に戻される感覚がした。
夢から覚めたアヴェリアは、早速デイモン男爵家が手掛けるブティックに人を送り、とあるおつかいを頼んだ。
差出人は、アリア・デイモン。因縁の男爵令嬢である。
(私をお茶会に招待してくるなんて、何を企んでいるのでしょうね)
先日、エインズワース侯爵家で行われたシエナ侯爵令嬢の誕生日パーティーのことを忘れたわけではあるまい。
主役であるはずのシエナを差し置いて、自分が主役になろうとでしゃばった。だが、上手くいかずに恥をかいただけである。
おそらく、その腹いせに嫌がらせでもするつもりでいるのだろう。何を企んでいるかは分からないが、ただでやられてやるつもりはない。
せいぜい楽しませてくれればいいが、とアヴェリアは口角を上げた。
その晩、夢を見た。いつもの神託である。
どこかウキウキしている様子だと思っていると、ルーデアス王国での出来事を覗き見していたのか、絡んでくる。
「ハルサーシャ王子とは、どうなんだい? いやぁ~、面白い展開になってるね」
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茶化してくる神を一蹴できるのも、アヴェリアくらいのものだろう。
わざとらしく落ち込んでみせたあと、神はアリアの思惑を予知した。
「子どもらしい嫌がらせだよ。アヴェリア以外の招待客にはドレスを贈ってあって、当日着てくるように指示してある。流行りのもので、それを着ていない君のことを笑うつもりのようだよ」
幼稚な考えだな、とアヴェリアはつまらなく思った。
別に、その程度のことであれば無視しても構わない。だが、悪魔に魅入られたアリアの言葉に、周りの令嬢たちも同調してしまうだろう。それを放置するのは、些か気が引けた。
それに、アリアが一生懸命考えたであろう悪巧みを潰してやるのも一興ではないか。
「では、私はさらに高みから嘲笑って差し上げましょう」
「どうする気だい?」
「見てからのお楽しみ、ですわ」
未来が見える神にとって、わざわざ聞く必要などない。だが、あえて先のことを知らずにおきたい時は、わざと予知しないでいることもある。
ただ神の暇つぶしに付き合うだけでは面白くない。自分も楽しませてもらわなくては、とアヴェリアは微笑む。
歴代の預言者の中でも特異な彼女のことを、神は気に入っていた。
「では、楽しみに待っているとするよ」
その一言のあと、ふっ、と現実世界に戻される感覚がした。
夢から覚めたアヴェリアは、早速デイモン男爵家が手掛けるブティックに人を送り、とあるおつかいを頼んだ。
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