ここからは私の独壇場です

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
53 / 94
第10幕 お茶会の乙女

52

しおりを挟む
 その日、アヴェリアは可愛らしい便箋を片手に考えていた。
 差出人は、アリア・デイモン。因縁の男爵令嬢である。

(私をお茶会に招待してくるなんて、何を企んでいるのでしょうね)

 先日、エインズワース侯爵家で行われたシエナ侯爵令嬢の誕生日パーティーのことを忘れたわけではあるまい。
 主役であるはずのシエナを差し置いて、自分が主役になろうとでしゃばった。だが、上手くいかずに恥をかいただけである。
 おそらく、その腹いせに嫌がらせでもするつもりでいるのだろう。何を企んでいるかは分からないが、ただでやられてやるつもりはない。
 せいぜい楽しませてくれればいいが、とアヴェリアは口角を上げた。

 その晩、夢を見た。いつもの神託である。
 どこかウキウキしている様子だと思っていると、ルーデアス王国での出来事を覗き見していたのか、絡んでくる。

「ハルサーシャ王子とは、どうなんだい? いやぁ~、面白い展開になってるね」
「早く本題に入っていただけますか?」
「相変わらず冷たいな、もう」

 茶化してくる神を一蹴できるのも、アヴェリアくらいのものだろう。
 わざとらしく落ち込んでみせたあと、神はアリアの思惑を予知した。

「子どもらしい嫌がらせだよ。アヴェリア以外の招待客にはドレスを贈ってあって、当日着てくるように指示してある。流行りのもので、それを着ていない君のことを笑うつもりのようだよ」

 幼稚な考えだな、とアヴェリアはつまらなく思った。
 別に、その程度のことであれば無視しても構わない。だが、悪魔に魅入られたアリアの言葉に、周りの令嬢たちも同調してしまうだろう。それを放置するのは、些か気が引けた。

 それに、アリアが一生懸命考えたであろう悪巧みを潰してやるのも一興ではないか。

「では、私はさらに高みから嘲笑って差し上げましょう」
「どうする気だい?」
「見てからのお楽しみ、ですわ」

 未来が見える神にとって、わざわざ聞く必要などない。だが、あえて先のことを知らずにおきたい時は、わざと予知しないでいることもある。
 ただ神の暇つぶしに付き合うだけでは面白くない。自分も楽しませてもらわなくては、とアヴェリアは微笑む。
 歴代の預言者の中でも特異な彼女のことを、神は気に入っていた。

「では、楽しみに待っているとするよ」

 その一言のあと、ふっ、と現実世界に戻される感覚がした。
 夢から覚めたアヴェリアは、早速デイモン男爵家が手掛けるブティックに人を送り、とあるおつかいを頼んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...