52 / 94
第9幕 狩人の乙女
51
しおりを挟む
晩餐会が終わり、用意された個室に戻ったフォリオは、ベッドに横になって考え込んでいた。
(ハルサーシャ王子、いい人だったな……)
アヴェリアに好意をもっている相手がどんな人間か確かめについてきたが、想像以上にハルサーシャはできた子どもだった。
一見、軽そうな見た目とは裏腹に、相手の気持ちを重んじる人。それは、アヴェリアへの態度を見ていて明らかだった。
彼ならば、彼女のことを大切にしてくれるだろう。アヴェリアだって、彼のことは気にかけているようだった。お似合いの二人かもしれない。
本来ならば喜ぶべきことなのに、嬉しさよりも、悔しさの方が優ってしまう。
ーーコンコンコン。
考えに耽っていると、部屋の戸が叩かれた。側近のニアが確認すると、来客はパトリックだった。
部屋に招き入れると、パトリックはフォリオの悩みを見透かしたように話し出す。
「ハルは、いいやつだよ。それは保証する」
兄のように慕うパトリックの言葉に、フォリオはより表情を固くした。
でも、とパトリックは続ける。
「ハルは、預言者を心から崇拝している。それは、これから先も変わらないだろう。アヴェリア嬢のことを大切に思っていたとしても、預言者の代償までなんとかしようとは考えない」
それを聞いて、フォリオははっとする。
「ハルにとっては、預言者に代償があるのは当たり前のこと。何ら疑問は抱かない」
「……僕は、嫌です。アヴェリアがいなくなってしまうのは」
「私も同じ気持ちだ。いくらアヴェリア嬢が受け入れていても、父上のことを思い出すと、どうにか止めたいと考えてしまう」
「パトリック兄上……」
「私はこれからも、独自に代償から解放する方法を探す。お前はどうする?」
パトリックの強い眼差しに、フォリオも覚悟を決める。
「僕も、諦めたくありません。彼女のことが大切なのは、ハルサーシャ王子だけじゃないから」
正直なところ、まだアヴェリアのことは諦めきれていない。代償を何とかする術が見つかれば、今度こそ手順を踏んで想いを伝えるつもりだ。
もし、アヴェリアがハルサーシャや、他の誰かを選んだとしても。彼女の幸せが続くように、代償で若くして命を落とすことがないように。
パトリックと互いの意志を確認してからは、どこか頭の中がすっきりしていた。
帰国までの数日間、ルーデアス王国を案内してもらっている間も、以前のような焦りはなかった。
「フォリオ殿下、何だか調子がよさそうですわね」
そんな変化を感じ取ったのか、アヴェリアが声をかけてくる。
「君と一緒にいられるからじゃないかな」
今はまだ、恋心を向けられる相手ではないけれど。
アヴェリアと、その代償と、諦めずに向き合っていこうと、そう決めたから。
(ハルサーシャ王子、いい人だったな……)
アヴェリアに好意をもっている相手がどんな人間か確かめについてきたが、想像以上にハルサーシャはできた子どもだった。
一見、軽そうな見た目とは裏腹に、相手の気持ちを重んじる人。それは、アヴェリアへの態度を見ていて明らかだった。
彼ならば、彼女のことを大切にしてくれるだろう。アヴェリアだって、彼のことは気にかけているようだった。お似合いの二人かもしれない。
本来ならば喜ぶべきことなのに、嬉しさよりも、悔しさの方が優ってしまう。
ーーコンコンコン。
考えに耽っていると、部屋の戸が叩かれた。側近のニアが確認すると、来客はパトリックだった。
部屋に招き入れると、パトリックはフォリオの悩みを見透かしたように話し出す。
「ハルは、いいやつだよ。それは保証する」
兄のように慕うパトリックの言葉に、フォリオはより表情を固くした。
でも、とパトリックは続ける。
「ハルは、預言者を心から崇拝している。それは、これから先も変わらないだろう。アヴェリア嬢のことを大切に思っていたとしても、預言者の代償までなんとかしようとは考えない」
それを聞いて、フォリオははっとする。
「ハルにとっては、預言者に代償があるのは当たり前のこと。何ら疑問は抱かない」
「……僕は、嫌です。アヴェリアがいなくなってしまうのは」
「私も同じ気持ちだ。いくらアヴェリア嬢が受け入れていても、父上のことを思い出すと、どうにか止めたいと考えてしまう」
「パトリック兄上……」
「私はこれからも、独自に代償から解放する方法を探す。お前はどうする?」
パトリックの強い眼差しに、フォリオも覚悟を決める。
「僕も、諦めたくありません。彼女のことが大切なのは、ハルサーシャ王子だけじゃないから」
正直なところ、まだアヴェリアのことは諦めきれていない。代償を何とかする術が見つかれば、今度こそ手順を踏んで想いを伝えるつもりだ。
もし、アヴェリアがハルサーシャや、他の誰かを選んだとしても。彼女の幸せが続くように、代償で若くして命を落とすことがないように。
パトリックと互いの意志を確認してからは、どこか頭の中がすっきりしていた。
帰国までの数日間、ルーデアス王国を案内してもらっている間も、以前のような焦りはなかった。
「フォリオ殿下、何だか調子がよさそうですわね」
そんな変化を感じ取ったのか、アヴェリアが声をかけてくる。
「君と一緒にいられるからじゃないかな」
今はまだ、恋心を向けられる相手ではないけれど。
アヴェリアと、その代償と、諦めずに向き合っていこうと、そう決めたから。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
転生したら乙女ゲームのヒロインの幼馴染で溺愛されてるんだけど…(短編版)
凪ルナ
恋愛
転生したら乙女ゲームの世界でした。
って、何、そのあるある。
しかも生まれ変わったら美少女って本当に、何、そのあるあるな設定。
美形に転生とか面倒事な予感しかしないよね。
そして、何故か私、三咲はな(みさきはな)は乙女ゲームヒロイン、真中千夏(まなかちなつ)の幼馴染になってました。
(いやいや、何で、そうなるんだよ。私は地味に生きていきたいんだよ!だから、千夏、頼むから攻略対象者引き連れて私のところに来ないで!)
と、主人公が、内心荒ぶりながらも、乙女ゲームヒロイン千夏から溺愛され、そして、攻略対象者となんだかんだで関わっちゃう話、になる予定。
ーーーーー
とりあえず短編で、高校生になってからの話だけ書いてみましたが、小学生くらいからの長編を、短編の評価、まあ、つまりはウケ次第で書いてみようかなっと考え中…
長編を書くなら、主人公のはなちゃんと千夏の出会いくらいから、はなちゃんと千夏の幼馴染(攻略対象者)との出会い、そして、はなちゃんのお兄ちゃん(イケメンだけどシスコンなので残念)とはなちゃんのイチャイチャ(これ需要あるのかな…)とか、中学生になって、はなちゃんがモテ始めて、千夏、攻略対象者な幼馴染、お兄ちゃんが焦って…とかを書きたいな、と思ってます。
もし、読んでみたい!と、思ってくれた方がいるなら、よかったら、感想とか書いてもらって、そこに書いてくれたら…壁|ω・`)チラッ
婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる