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第9幕 狩人の乙女
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狩猟大会の晩。
アヴェリアは国王主催の晩餐会に招待されていた。
参加者の多くは、狩猟大会で活躍した狩人たち。フォリオやパトリック、そして王子であるハルサーシャももちろん参加している。
「はっはっは! アヴェリア嬢、実によいものを見せてもらった!!」
朗らかに、ルーデアス国王は笑う。
「巨大猪の居場所を教えるのみならず、我が国の大事な騎士の命も救ってくれたと聞いた。改めて礼を言わせてほしい」
「勿体ないお言葉ですわ」
優雅にぶどうジュースの注がれたグラスを傾けながら、アヴェリアは微笑んだ。
同席していた他の狩猟大会上位メンバーたちも、アヴェリアの姿に魅入っている。
預言者を信仰する国の民だからというだけでなく、今回見せつけられた狩猟の腕前。狩猟が盛んなこの国では、その技術の高さも魅力の一つとなる。
知らず知らずのうちに、着々と信徒を増やしているのだった。
「パトリックよ、環境が変わって困惑もしただろう。ファシアス王国では、上手くやっているか?」
元々、ルーデアス王国で暮らしていたパトリックだが、予言があったために、今は親元を離れて王太子候補としての指導を受けている。
未だそのことについて完全に受け入れきれているわけではないが、予言は絶対のものと考えるルーデアス王国でその相談はできないのだった。
「叔父上……ファシアス国王陛下には、よくしていただいています。私には、分不相応だと思いますが」
「予言があったのだ、自信を持つといい。フォリオ王子とパトリック王子、どちらが未来のファシアス王国を担うことになるのか、隣国の王として見守らせてもらうぞ」
すうっ、と見極めるように国王は二人を見た。動じないパトリックに対して、フォリオは少し怯んでしまう。
「父上、今日は狩猟大会の労いを兼ねた晩餐会です。楽しみませんと」
場の空気を変えようと、ハルサーシャが変わらぬ調子で声をかける。
「そうであったな。皆の者、今宵は楽しんでいってくれ!」
国王もそれに頷き、また賑やかな晩餐会が再開する。
どこか浮かない顔のフォリオとパトリックとは対照的に、国王はアヴェリアに告げる。
「我が息子が、そなたと仲良くなりたいと言っていてな。我儘だと分かってはいるが、聞いてやってはくれぬか?」
「我儘など、とんでもございません。友人として親睦を深めていきたいというお言葉は、ファシアス王国民としても、断る理由などありませんので」
そう答え、ハルサーシャに微笑みかける。突然のことに、彼は思わず頬を赤くした。
アヴェリアとしても、ハルサーシャと仲良くするのはよいことだと考えていた。協力関係にある隣国の王子であるし、預言者に対しても理解がある。
ハルサーシャ本人の人格も、相手のことを考えて発言できる思慮深さをもった相手だと感じていた。今この場で、婚約者にしたいと父に申し出ることもできたのに、それはしない様子である。
あくまでも友人として、まずは関係を築いていきたい、という謙虚な姿勢には好感がもてた。
その様子を見て、フォリオとパトリックは複雑な表情を浮かべるのだった。
アヴェリアは国王主催の晩餐会に招待されていた。
参加者の多くは、狩猟大会で活躍した狩人たち。フォリオやパトリック、そして王子であるハルサーシャももちろん参加している。
「はっはっは! アヴェリア嬢、実によいものを見せてもらった!!」
朗らかに、ルーデアス国王は笑う。
「巨大猪の居場所を教えるのみならず、我が国の大事な騎士の命も救ってくれたと聞いた。改めて礼を言わせてほしい」
「勿体ないお言葉ですわ」
優雅にぶどうジュースの注がれたグラスを傾けながら、アヴェリアは微笑んだ。
同席していた他の狩猟大会上位メンバーたちも、アヴェリアの姿に魅入っている。
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知らず知らずのうちに、着々と信徒を増やしているのだった。
「パトリックよ、環境が変わって困惑もしただろう。ファシアス王国では、上手くやっているか?」
元々、ルーデアス王国で暮らしていたパトリックだが、予言があったために、今は親元を離れて王太子候補としての指導を受けている。
未だそのことについて完全に受け入れきれているわけではないが、予言は絶対のものと考えるルーデアス王国でその相談はできないのだった。
「叔父上……ファシアス国王陛下には、よくしていただいています。私には、分不相応だと思いますが」
「予言があったのだ、自信を持つといい。フォリオ王子とパトリック王子、どちらが未来のファシアス王国を担うことになるのか、隣国の王として見守らせてもらうぞ」
すうっ、と見極めるように国王は二人を見た。動じないパトリックに対して、フォリオは少し怯んでしまう。
「父上、今日は狩猟大会の労いを兼ねた晩餐会です。楽しみませんと」
場の空気を変えようと、ハルサーシャが変わらぬ調子で声をかける。
「そうであったな。皆の者、今宵は楽しんでいってくれ!」
国王もそれに頷き、また賑やかな晩餐会が再開する。
どこか浮かない顔のフォリオとパトリックとは対照的に、国王はアヴェリアに告げる。
「我が息子が、そなたと仲良くなりたいと言っていてな。我儘だと分かってはいるが、聞いてやってはくれぬか?」
「我儘など、とんでもございません。友人として親睦を深めていきたいというお言葉は、ファシアス王国民としても、断る理由などありませんので」
そう答え、ハルサーシャに微笑みかける。突然のことに、彼は思わず頬を赤くした。
アヴェリアとしても、ハルサーシャと仲良くするのはよいことだと考えていた。協力関係にある隣国の王子であるし、預言者に対しても理解がある。
ハルサーシャ本人の人格も、相手のことを考えて発言できる思慮深さをもった相手だと感じていた。今この場で、婚約者にしたいと父に申し出ることもできたのに、それはしない様子である。
あくまでも友人として、まずは関係を築いていきたい、という謙虚な姿勢には好感がもてた。
その様子を見て、フォリオとパトリックは複雑な表情を浮かべるのだった。
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