ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第9幕 狩人の乙女

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 狩猟大会当日。
 精鋭の護衛を引き連れて、アヴェリア、フォリオ、パトリック、ハルサーシャは共に行動していた。
 何だかんだ、全員が狩猟大会にエントリーすることになり、アヴェリアたちの集団は超重要人物大集合となった。

 護衛する騎士たちも、これまでにないくらい緊張していた。下手をすれば、自分たちの首が飛ぶ恐れもあるのだ。
 しかも、今回は確実に長らくルーデアス王国の農民たちを悩ませてきた巨大猪ビッグ・ボアが出現すると予言されている。
 精鋭が選ばれてはいるものの、その表情は堅かった。

 狩猟に慣れているパトリックとハルサーシャとは異なり、まったくの素人であるフォリオは、エントリーこそしているものの、見学に徹することになっている。

「暗い顔をするなよ、フォリオ。私とハルは前から狩猟に親しんでいるだけだし、アヴェリア嬢に至っては想定外なんだから」

 一人だけ戦力外なことを気にして落ち込んでいたフォリオに、パトリックが声をかける。

「それは分かっているのですが……」

 アヴェリアの腕前を披露された時は、流石としか言いようがなく、フォリオはすっかり目も心も奪われていた。
 しかし、我に返ってみると、自分は何もできないのだなと思い知らされてしまう。
 預言者の代償をなんとかするどころか、彼女の足手まといになってしまっているのではないか。

「ファシアス王国に帰ったら、武術の稽古をつけてもらおうと思います……」

 今の自分には足りない力が多すぎる。守りたい相手がアヴェリアならば、なおさらそれを感じざるを得ない。
 まだ幼いフォリオにできることは限られているが、足掻かなければアヴェリアを救うなど夢のまた夢だろう。


 アヴェリアを挟むように騎馬兵たちが守備につき、先導する彼女を危険に晒さないように細心の注意を払っている。
 巨大猪ビッグ・ボアが出現する場所までの案内は、彼女がすることになっていた。説明するよりも行ったほうが早いと、自ら申し出たのだった。

 山道の木々が赤や黄色に色づき、動物たちは冬支度のために食料をため込む。
 山の主、巨大猪ビッグ・ボアもその例に漏れず、活動が活発化していた。
 しかし、いつも突然現れ、嵐のように田畑を荒らして去っていくため、危険すぎて手がつけられずにいた。
 ルーデアス王国も討伐に乗り出したが、巨大猪ビッグ・ボアは賢く、自分の居場所を悟られないように動いている。

 だが、今回はアヴェリアの予言により、巨大猪ビッグ・ボアの不意をつくことができるはずだ。
 ルーデアス王国の民たちも困り果てていたため、この予言はとてもありがたかった。

「我が国の民も、アヴェリア嬢の予言に感謝している。ありがとう」

 アヴェリアの乗る馬の隣に自分の馬を近づけて、ハルサーシャは礼を述べた。

「預言者として、友好国の貴族として、すべきことをしているだけですわ」

 当然のことのように、アヴェリアは答える。
 自分よりも年下なのに、自分の立場をしっかり分かっているのだと、ハルサーシャは感心した。

 しばらく雑談を交わしながら進んでいると、突然ぴたりとアヴェリアは馬の歩を止めた。
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