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第9幕 狩人の乙女
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翌日、アヴェリアは演習場にやってきた。背に弓を携えて。
いつもは下ろしている髪も、今は邪魔にならないように頭の上でひとつに結えている。
彼女をより華やかにするドレスも脱ぎ捨て、男性が着る物と変わらないズボンの狩人姿だった。それはそれで凛々しさを纏い、魅力が溢れているなぁとフォリオは見惚れていた。
預言者の少女が弓の腕前を披露すると聞きつけ、城中の人間が集まった。フォリオをはじめとして、パトリックやハルサーシャもその場に居合わせている。
「アヴェリア嬢、本当に大丈夫なのか?」
そう心配の声をかけるのは、この国へ招待したハルサーシャだった。
観光目的で呼んだはずなのだが、いつの間にやら狩猟大会に参加する運びになっていた。いったいなぜ、とハルサーシャの頭の上には、幾つものハテナが並んでいた。
「ご心配なさらないでください。こう見えて、弓には自信がありますので」
余裕たっぷりに微笑むと、アヴェリアは用意されていた馬に跨った。
「ほう、アヴェリア嬢は乗馬もできるのか」
ハルサーシャは興味津々。隣に立っていたパトリックも目を丸くしていた。
少女の背丈に合わせた仔馬ではあるが、その様子から普段から乗り慣れているのが伺えた。
フォリオは以前、白馬に乗った彼女を見ている。その腕前は十分知っているので、安心して見ていることができた。
しかし、弓を扱っている姿を見るのは初めてである。どの程度の実力なのか。
令嬢が弓術を嗜む例は聞いたことがないため、想像し難かった。
その場にいた多くの人間が、少女の戯れだと微笑ましく眺めていたが、彼女が最初の一矢を放ったところで、表情が固まった。
迷いなく放たれたその矢は、狂いなく約30メートル離れた的の中心を射抜いた。
それだけでも驚きだが、馬に乗ったままなのである。
騎乗している状態で彼女は演習場を駆け抜け、残りの的全てに的中させていった。
「あら、一つだけ若干中心からズレてしまいましたわね」
残念そうに、スタート地点に戻ってきたアヴェリアは呟く。
誰もがぽかんとする中、フォリオは真っ先に駆け寄ってアヴェリアに手を差し出した。
「流石はアヴェリア! とても格好良かったよ」
やや興奮気味に褒めてくるフォリオの手をとって、アヴェリアは馬から降りた。
「ありがとうございます、フォリオ殿下」
「やっぱり君は最高だね!」
預言者の代償のことをしばし忘れて、フォリオはアヴェリアと言葉を交わした。
逃れられない試練はあるが、やっぱり自分はアヴェリアの傍にいたいと、ことあるごとにフォリオは思う。
「見事であった、アヴェリア嬢」
パチパチ、と国王が拍手するのに続いて、割れんばかりの歓声が演習場に響き渡る。
「そこまでの実力があるのなら、止めるわけにもいくまい。護衛はつけるが、くれぐれも無茶はしないように」
「感謝いたします、国王陛下」
こうしてアヴェリアは、無事に狩猟大会に参加する権利を得たのだった。
いつもは下ろしている髪も、今は邪魔にならないように頭の上でひとつに結えている。
彼女をより華やかにするドレスも脱ぎ捨て、男性が着る物と変わらないズボンの狩人姿だった。それはそれで凛々しさを纏い、魅力が溢れているなぁとフォリオは見惚れていた。
預言者の少女が弓の腕前を披露すると聞きつけ、城中の人間が集まった。フォリオをはじめとして、パトリックやハルサーシャもその場に居合わせている。
「アヴェリア嬢、本当に大丈夫なのか?」
そう心配の声をかけるのは、この国へ招待したハルサーシャだった。
観光目的で呼んだはずなのだが、いつの間にやら狩猟大会に参加する運びになっていた。いったいなぜ、とハルサーシャの頭の上には、幾つものハテナが並んでいた。
「ご心配なさらないでください。こう見えて、弓には自信がありますので」
余裕たっぷりに微笑むと、アヴェリアは用意されていた馬に跨った。
「ほう、アヴェリア嬢は乗馬もできるのか」
ハルサーシャは興味津々。隣に立っていたパトリックも目を丸くしていた。
少女の背丈に合わせた仔馬ではあるが、その様子から普段から乗り慣れているのが伺えた。
フォリオは以前、白馬に乗った彼女を見ている。その腕前は十分知っているので、安心して見ていることができた。
しかし、弓を扱っている姿を見るのは初めてである。どの程度の実力なのか。
令嬢が弓術を嗜む例は聞いたことがないため、想像し難かった。
その場にいた多くの人間が、少女の戯れだと微笑ましく眺めていたが、彼女が最初の一矢を放ったところで、表情が固まった。
迷いなく放たれたその矢は、狂いなく約30メートル離れた的の中心を射抜いた。
それだけでも驚きだが、馬に乗ったままなのである。
騎乗している状態で彼女は演習場を駆け抜け、残りの的全てに的中させていった。
「あら、一つだけ若干中心からズレてしまいましたわね」
残念そうに、スタート地点に戻ってきたアヴェリアは呟く。
誰もがぽかんとする中、フォリオは真っ先に駆け寄ってアヴェリアに手を差し出した。
「流石はアヴェリア! とても格好良かったよ」
やや興奮気味に褒めてくるフォリオの手をとって、アヴェリアは馬から降りた。
「ありがとうございます、フォリオ殿下」
「やっぱり君は最高だね!」
預言者の代償のことをしばし忘れて、フォリオはアヴェリアと言葉を交わした。
逃れられない試練はあるが、やっぱり自分はアヴェリアの傍にいたいと、ことあるごとにフォリオは思う。
「見事であった、アヴェリア嬢」
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「そこまでの実力があるのなら、止めるわけにもいくまい。護衛はつけるが、くれぐれも無茶はしないように」
「感謝いたします、国王陛下」
こうしてアヴェリアは、無事に狩猟大会に参加する権利を得たのだった。
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