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第9幕 狩人の乙女
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ルーデアス王国では、狩猟が盛んだ。
老若男女問わず、誰もが生活の一部としている。
それは王族であっても同じで、アヴェリアたちがルーデアス王国に足を踏み入れたのは、ちょうど狩猟大会が開かれる時期だった。
ルーデアス国王に謁見する場を設けられたアヴェリアは、貴賓として歓迎された。
「隣国からはるばる足を運んでくれたこと、誠に喜ばしく思う。ファシアス王国とは古くからよい関係を築いている。これから先も、それが永く続くよう互いに努力していこうではないか」
国王は、温かな眼差しで迎えてくれた。
「アヴェリア嬢は今代の預言者だと聞いている。我が国では預言者を大切にしている故、滞在中不便なことがあれば、些細なことでも申し出てほしい」
「お心遣い感謝いたします」
美しいカーテシーで、アヴェリアはそれに応じた。
預言者を神格化しているためか、その場に居合わせた人間たちがアヴェリアを見る目は、どこか羨望に満ちたものだった。
「近く、この国伝統の狩猟大会が開かれる。ぜひ、見ていってほしい」
その言葉に、アヴェリアはにっこり笑って答える。
「その狩猟大会、見学ではなく、私も参加してよろしいですか?」
「アヴェリア嬢自ら、か?」
その提案には、国王も目を丸くした。
ルーデアス王国の人間ならば、幼くとも大会に参加することはある。
しかし、他国の令嬢が参加するなど前代未聞。危険ではないかと、国王は慌てた。
「そなたは、貴賓である。預言者にもしものことがあれば、ファシアス王国に申し訳が立たない」
そんな心配をよそに、アヴェリアは続ける。
「予言をいたします。今回の狩猟大会で、長年ルーデアス王国の農民たちを苦しめてきた巨大猪が現れます。その場所までご案内いたしますわ」
「なんと。それはありがたいことだが、場所を教えて頂ければ、我々で対処できる。わざわざ、そなたの身を危険に晒すことは……」
「言葉で説明するより、案内した方が早いので」
口ではそう答えたものの、実際のところ、面白そうだからというのが本心だった。
せっかくその場に立ち会える状況にあるというのに、安全な場所で待っているなどつまらない。
「それに、私、弓も嗜んでおります。腕前を確認してから、参加の可否を決めてくださいませ」
小さな体に似合わず有無を言わさぬ迫力に、国王も折れるしかなかった。
後でそのことを聞かされたフォリオやパトリック、ハルサーシャも驚きを隠せなかった。
その中でフォリオだけは、また面白いことを見せてくれるのではないかと、心配すると同時に期待もしているのだった。
老若男女問わず、誰もが生活の一部としている。
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「隣国からはるばる足を運んでくれたこと、誠に喜ばしく思う。ファシアス王国とは古くからよい関係を築いている。これから先も、それが永く続くよう互いに努力していこうではないか」
国王は、温かな眼差しで迎えてくれた。
「アヴェリア嬢は今代の預言者だと聞いている。我が国では預言者を大切にしている故、滞在中不便なことがあれば、些細なことでも申し出てほしい」
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美しいカーテシーで、アヴェリアはそれに応じた。
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「近く、この国伝統の狩猟大会が開かれる。ぜひ、見ていってほしい」
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「その狩猟大会、見学ではなく、私も参加してよろしいですか?」
「アヴェリア嬢自ら、か?」
その提案には、国王も目を丸くした。
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しかし、他国の令嬢が参加するなど前代未聞。危険ではないかと、国王は慌てた。
「そなたは、貴賓である。預言者にもしものことがあれば、ファシアス王国に申し訳が立たない」
そんな心配をよそに、アヴェリアは続ける。
「予言をいたします。今回の狩猟大会で、長年ルーデアス王国の農民たちを苦しめてきた巨大猪が現れます。その場所までご案内いたしますわ」
「なんと。それはありがたいことだが、場所を教えて頂ければ、我々で対処できる。わざわざ、そなたの身を危険に晒すことは……」
「言葉で説明するより、案内した方が早いので」
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小さな体に似合わず有無を言わさぬ迫力に、国王も折れるしかなかった。
後でそのことを聞かされたフォリオやパトリック、ハルサーシャも驚きを隠せなかった。
その中でフォリオだけは、また面白いことを見せてくれるのではないかと、心配すると同時に期待もしているのだった。
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