45 / 94
第8幕 求婚される乙女
44
しおりを挟む
「どうしてそんな話に……」
ハルサーシャを送り出したパトリックは、ブラウローゼ公爵家での話を聞いて頭を抱えていた。
「俺が求婚したんだ。アヴェリア嬢に惹かれてしまってな」
「それは、彼女が預言者だから?」
「彼女にも同じことを聞かれたが、違う。彼女自身に強く心惹かれたんだ」
そう語る友の表情は真剣なものだった。
それなりに付き合いの長いパトリックは、一度決めたことはなかなか覆さないハルサーシャの一面を知っている。
確かに、パトリックも初対面でアヴェリアに視線を奪われた経験がある。預言者という肩書きがなくとも、彼女という存在そのものが、人を惹きつけるオーラを放っていた。
「とはいえ、無理矢理婚約者にするわけにはいかないからな。まずは友人として、仲を深めていくつもりだ」
ハルサーシャは、近くルーデアス王国に連れていく予定であることを話した。
「預言者の代償については、知っているのかい?」
「もちろんだ。アヴェリア嬢から、彼女に与えられた使命も聞いている。その先に待ち受ける運命も分かった上で、俺は彼女と共にありたいと思った」
表情を曇らせたパトリックに、ハルサーシャは眉を下げる。彼の父親も預言者で、残されたパトリックの家族がどんな思いをして過ごしてきたか知っているからだ。
「俺の心配をしてくれているのは分かっている。お前が彼女の予言に大きく関わっていることも」
王太子候補となったパトリックは、アヴェリアの運命を握る鍵の一つになってしまった。
元々、いついなくなってしまうか分からない預言者であることに加え、自分の存在がハルサーシャの想い人を奪ってしまう可能性を考えて、素直に応援はできなかった。
「高い確率で、ハルは早くに別れを経験することになるよ。第三とはいえ王子なんだから、他に婚約者候補だってたくさんいるだろうに」
「だが、俺はもう決めた」
何を言っても意思が変わらない友人に、パトリックは諦めるほかなかった。
「実は、私は預言者の代償を何とかする方法を探しているんだ。まだ手がかりすら掴めてないけど」
「預言者の代償は、神から力を与えられし者の運命。逃れる術はないだろう」
予知の神を信仰しているハルサーシャと、そうではないパトリックの間には考え方に差があった。
運命から逃れられなくともアヴェリアを愛するというのなら、信頼のおける相手かもしれない。
だが、パトリックは抗う術を貪欲に探し続けるつもりでいた。
「ハルとはたまに意見が割れるよね。まぁ、お互いにやりたいように動くことにしようか」
進む道が違ったとしても、お互いに否定はしない。かといって賛同もしない。
自分の考えを相手に左右されない。今までも、これからも、それがこの二人のやり方だった。
ハルサーシャを送り出したパトリックは、ブラウローゼ公爵家での話を聞いて頭を抱えていた。
「俺が求婚したんだ。アヴェリア嬢に惹かれてしまってな」
「それは、彼女が預言者だから?」
「彼女にも同じことを聞かれたが、違う。彼女自身に強く心惹かれたんだ」
そう語る友の表情は真剣なものだった。
それなりに付き合いの長いパトリックは、一度決めたことはなかなか覆さないハルサーシャの一面を知っている。
確かに、パトリックも初対面でアヴェリアに視線を奪われた経験がある。預言者という肩書きがなくとも、彼女という存在そのものが、人を惹きつけるオーラを放っていた。
「とはいえ、無理矢理婚約者にするわけにはいかないからな。まずは友人として、仲を深めていくつもりだ」
ハルサーシャは、近くルーデアス王国に連れていく予定であることを話した。
「預言者の代償については、知っているのかい?」
「もちろんだ。アヴェリア嬢から、彼女に与えられた使命も聞いている。その先に待ち受ける運命も分かった上で、俺は彼女と共にありたいと思った」
表情を曇らせたパトリックに、ハルサーシャは眉を下げる。彼の父親も預言者で、残されたパトリックの家族がどんな思いをして過ごしてきたか知っているからだ。
「俺の心配をしてくれているのは分かっている。お前が彼女の予言に大きく関わっていることも」
王太子候補となったパトリックは、アヴェリアの運命を握る鍵の一つになってしまった。
元々、いついなくなってしまうか分からない預言者であることに加え、自分の存在がハルサーシャの想い人を奪ってしまう可能性を考えて、素直に応援はできなかった。
「高い確率で、ハルは早くに別れを経験することになるよ。第三とはいえ王子なんだから、他に婚約者候補だってたくさんいるだろうに」
「だが、俺はもう決めた」
何を言っても意思が変わらない友人に、パトリックは諦めるほかなかった。
「実は、私は預言者の代償を何とかする方法を探しているんだ。まだ手がかりすら掴めてないけど」
「預言者の代償は、神から力を与えられし者の運命。逃れる術はないだろう」
予知の神を信仰しているハルサーシャと、そうではないパトリックの間には考え方に差があった。
運命から逃れられなくともアヴェリアを愛するというのなら、信頼のおける相手かもしれない。
だが、パトリックは抗う術を貪欲に探し続けるつもりでいた。
「ハルとはたまに意見が割れるよね。まぁ、お互いにやりたいように動くことにしようか」
進む道が違ったとしても、お互いに否定はしない。かといって賛同もしない。
自分の考えを相手に左右されない。今までも、これからも、それがこの二人のやり方だった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる