ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第8幕 求婚される乙女

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 ルーデアス王国の第三王子から手紙を受け取ったアヴェリアは、承諾の返事をした。
 アヴェリアに送られてくる令息たちの手紙は、父と兄が処分してしまっているが、王族からの手紙は流石に無碍にできなかったようだ。そのくらいの自制心は持ち合わせてくれていたことに、少しばかり安堵する。

 数日後、ブラウローゼ公爵家にやってきた王子一行は、預言者を神格化しているだけあって、非常に礼儀正しくアヴェリアたちに接していた。

「ルーデアス王国第三王子、ハルサーシャ・ルーデアスと申します。本日は、急な申し出にも関わらず、応じて頂き、誠に感謝致します」

 膝をついて深々と礼をするハルサーシャたちに、アヴェリアは顔を上げるよう声をかけた。

「顔を上げてください。堅苦しいのは苦手ですので、どうぞ普通に接してくださいませ」

 顔を上げたハルサーシャは、初めてしっかりとアヴェリアの顔を見た。
 彼女と会った人間の多くがそうであるように、彼もまた例に漏れず、その美しさに心を奪われてしまう。

「私は、アヴェリア・ブラウローゼ。今代の預言者です」

 黄金色の瞳が、キラキラと輝きを放つ。預言者特有の瞳の色に加えて、アヴェリア本来がもつ眼力。
 ハルサーシャは、すっかり目が離せなくなっていた。

「何度も言われていることかと思うが、あなたは非常にお美しい」

 真剣な眼差しで伝えてくる王子に、アヴェリアも少しばかり照れ臭くなる。美しいと言われることは多々あっても、ここまで情熱的な視線を向けられるとむず痒い。

「ありがとうございます。嬉しいですわ」
「あなたのことを、もっとよく知りたい。よければ、教えてもらえないだろうか?」

 初めは、預言者だからこれほど興味をもっているのだと思った。
 しかし、話していくうちに、ハルサーシャが知りたがっているのはのことであると気づく。

「ほう、それでもうデビュタントを済ませているのか」
「お父様が暴走しまして」
「あなたに与えられた使命は、この国の王太子の運命の相手を見つけることだとは……リックも、そのひとりというわけだな」

 第一印象では、とてもおしゃべりな相手だと思っていたが、意外なほど聞き上手だった。気づけば、預言者の使命の内容も明かしていた。

 しばらく考え込んでいたハルサーシャだったが、何を思ったか突然立ち上がり、地面に膝をつく。
 何事かとそばに駆け寄ったアヴェリアの手を取ると、至って真剣な眼差しを向けた。

「アヴェリア・ブラウローゼ公爵令嬢。俺と結婚して頂けないだろうか?」
「何を寝ぼけたことを言っているのですか」

 目の前で恭しく膝をつく王子を前に、思わずそんな言葉が溢れた。
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