ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第8幕 求婚される乙女

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 つい先日までパトリックが暮らしていた隣国、ルーデアス王国。ファシアス王国とは古くから縁がある。

「王子、もうすぐファシアス王国に到着しますぞー」
「うむ、分かったぞ、爺! はははっ! 俺に何も言わず王位継承権を取り戻すとは、リックの奴め、驚かせてくれる!!」

 船の上に大きな笑い声が響く。
 ハルサーシャ・ルーデアス。ルーデアス王国の第三王子。多くの兄姉に囲まれて育った。
 自分より年上の人間は多かったが、同い年の友人はパトリックだけだ。
 今回は、その友人が王太子候補になったと聞きつけ、急遽足を運んだのだった。

「突然くるなんて驚いたよ、ハル」
「王位継承の話を黙っていたお前が何を言う」

 腕組みをしながら、パトリックと会う時間を設けてもらったハルサーシャが鼻を鳴らす。
 茶色の短髪に小麦色の肌をもつハルサーシャと、銀の長髪に陶器のような肌をもつパトリック。並ぶと対照的な二人だ。
 態度も正反対だが馬は合うようで、ルーデアス王国にいた頃から仲がよかった。

「私だって、王位継承権を取り戻すなんて思ってなかったさ」
「ふむ……予言があったのだったな」

 預言があった話は、隣国まで届いていた。

「予言があった以上は仕方あるまい。神より力を授かりし姫巫女の言葉だ。ありがたく賜るのが筋であろう」

 ハルサーシャは、預言者を神格化する者のひとりだ。パトリックの父が預言者だったということもあり、それがきっかけで仲良くなった。

「ところで、せっかくファシアス王国に来たのだ。その姫巫女に俺も会ってみたいのだが」

 崇拝の対象である預言者がファシアス王国にいるとなれば、会ってみたいと思うのも無理はない。

「今の預言者は、公爵家のご令嬢なんだ。まずは手紙を送って確認してみないとね」
「そうだったのか。分かった、早速送るとしよう!」

 嬉々としてアヴェリアと会うのを楽しみにしている友人の姿を見れば、ここ最近あった彼女との確執については話す気になれなかった。
 少なくとも、隣国の第三王子であるハルサーシャが預言者の代償に関わってくることはないので、会っても問題はない。

「預言者のご令嬢は、どのような方なのだ?」
「私たちより二つ年下だけど、かなりしっかりされているよ。それに、とても綺麗な人だ」
「なるほど、年下との関わりには慣れていないが、しっかりされている方なら俺が粗相をしてしまっても、寛大に許して下さるだろう」

 預言者に対して夢を見ているハルサーシャは、まだ会ったことのないアヴェリアに期待を高めていくのだった。

 手紙を送って間もなくして。
 ブラウローゼ公爵家から、正式に招待状が届いた。跳び上がって彼が喜んだのは言うまでもない。
 公爵家訪問当日。万全の準備を整えて臨んだハルサーシャだったが、嵐を巻き起こすことになるとは、この時は誰も予想していなかった。
 面白がって、またしてもアヴェリアに教えなかった神を除いては。
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