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第7幕 元預言者の息子と預言者の乙女
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パトリックが王位継承権を取り戻したことは、ファシアス王国で一大ニュースとなった。
一度はその権利を放棄したものの、予言があったとなれば話は別だ。国民の多くが預言者ーーその後ろにいる神を崇拝しており、パトリックは王太子候補としてすぐに受け入れられた。
「詮索するなと言われても、そうはいかない」
正式に王太子候補として認められてすぐ、パトリックはブラウローゼ公爵家を訪れていた。
フォリオと話す時によく使っている庭先で、アヴェリアはパトリックとお茶をしている。
「父上も、君も、預言者というのは隠し事だらけなのか?」
「あら、よく分かっていらっしゃる」
優雅にティーカップを傾けながら、アヴェリアは淡々と応じた。
「君が望まなくとも、私は預言者を代償から救う方法を探し続ける。君だって、私が望んでいなかった王位継承権を復活させたんだ、諦めてくれ」
予言通りであれば、アヴェリアが動かなくとも、パトリック自ら王位継承権を復活させるために動いたはずだ。
しかし、まだ予言が現実のものとなる前に先手を打たれたことを根に持っていた。
「頑固な方ですわね。そこまでおっしゃるのなら、別に止めません。私がお話しすべきことは、お話ししましたし」
一体、何をそこまで人の事情に首を突っ込むのかと、アヴェリアは呆れてしまう。
「父のような人を、もう増やしたくないんだ。君がよくとも、置いて行かれる者の苦しみを知ってほしい。最期にも立ち会えず消えてしまうなんて、残された家族はどうなる?」
「王弟殿下のお話は伺っております。しかし、預言者の最期は皆それぞれ。私がどのような最期を迎えるかは分かりませんわ」
「歴代の預言者について調べてみたけど、そのほとんどが不可解な最期を遂げている。まるで消えたかのように」
預言者の最期を見た者がほとんどいないという事実から、パトリックは、預言者の最期は「存在の消滅」なのではないかと考えていた。
アヴェリアの顔色を窺うも、彼女は眉ひとつ動かさない。
「よくお調べになりましたこと。だからといって、私にどうしろと? 不安を煽って、私の顔が歪むところでも見たいのですか?」
くすり、とアヴェリアが呆れたように笑って見せれば、パトリックは言葉を詰まらせた。
「そんなつもりは……いや、私の言い方が悪かった。すまない」
熱くなるあまり、アヴェリアのことを困らせてしまったことを反省した。
心配しているだけであって、攻撃するつもりはなかったのだ。
「冗談ですわ。とにかく、止めはしませんけれど、忠告はいたしましたよ」
ブラウローゼ公爵家が遠ざかっていくのを、帰りの馬車の窓から眺める。
彼女には、父と同じ運命を辿らせたくない。その気持ちは変わらなかった。
王太子候補となってしまった以上、パトリック自身も彼女を縛る枷となってしまった。
預言者になったのは、彼女の意志ではない。
理不尽な運命に巻き込まれてしまい、受け入れるしかなかったのだ。
(必ず、君を救ってみせる)
パトリックは、遠ざかる邸宅を見つめながら、決意を固めるのだった。
一度はその権利を放棄したものの、予言があったとなれば話は別だ。国民の多くが預言者ーーその後ろにいる神を崇拝しており、パトリックは王太子候補としてすぐに受け入れられた。
「詮索するなと言われても、そうはいかない」
正式に王太子候補として認められてすぐ、パトリックはブラウローゼ公爵家を訪れていた。
フォリオと話す時によく使っている庭先で、アヴェリアはパトリックとお茶をしている。
「父上も、君も、預言者というのは隠し事だらけなのか?」
「あら、よく分かっていらっしゃる」
優雅にティーカップを傾けながら、アヴェリアは淡々と応じた。
「君が望まなくとも、私は預言者を代償から救う方法を探し続ける。君だって、私が望んでいなかった王位継承権を復活させたんだ、諦めてくれ」
予言通りであれば、アヴェリアが動かなくとも、パトリック自ら王位継承権を復活させるために動いたはずだ。
しかし、まだ予言が現実のものとなる前に先手を打たれたことを根に持っていた。
「頑固な方ですわね。そこまでおっしゃるのなら、別に止めません。私がお話しすべきことは、お話ししましたし」
一体、何をそこまで人の事情に首を突っ込むのかと、アヴェリアは呆れてしまう。
「父のような人を、もう増やしたくないんだ。君がよくとも、置いて行かれる者の苦しみを知ってほしい。最期にも立ち会えず消えてしまうなんて、残された家族はどうなる?」
「王弟殿下のお話は伺っております。しかし、預言者の最期は皆それぞれ。私がどのような最期を迎えるかは分かりませんわ」
「歴代の預言者について調べてみたけど、そのほとんどが不可解な最期を遂げている。まるで消えたかのように」
預言者の最期を見た者がほとんどいないという事実から、パトリックは、預言者の最期は「存在の消滅」なのではないかと考えていた。
アヴェリアの顔色を窺うも、彼女は眉ひとつ動かさない。
「よくお調べになりましたこと。だからといって、私にどうしろと? 不安を煽って、私の顔が歪むところでも見たいのですか?」
くすり、とアヴェリアが呆れたように笑って見せれば、パトリックは言葉を詰まらせた。
「そんなつもりは……いや、私の言い方が悪かった。すまない」
熱くなるあまり、アヴェリアのことを困らせてしまったことを反省した。
心配しているだけであって、攻撃するつもりはなかったのだ。
「冗談ですわ。とにかく、止めはしませんけれど、忠告はいたしましたよ」
ブラウローゼ公爵家が遠ざかっていくのを、帰りの馬車の窓から眺める。
彼女には、父と同じ運命を辿らせたくない。その気持ちは変わらなかった。
王太子候補となってしまった以上、パトリック自身も彼女を縛る枷となってしまった。
預言者になったのは、彼女の意志ではない。
理不尽な運命に巻き込まれてしまい、受け入れるしかなかったのだ。
(必ず、君を救ってみせる)
パトリックは、遠ざかる邸宅を見つめながら、決意を固めるのだった。
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