41 / 94
第7幕 元預言者の息子と預言者の乙女
40
しおりを挟む
パトリックが王位継承権を取り戻したことは、ファシアス王国で一大ニュースとなった。
一度はその権利を放棄したものの、予言があったとなれば話は別だ。国民の多くが預言者ーーその後ろにいる神を崇拝しており、パトリックは王太子候補としてすぐに受け入れられた。
「詮索するなと言われても、そうはいかない」
正式に王太子候補として認められてすぐ、パトリックはブラウローゼ公爵家を訪れていた。
フォリオと話す時によく使っている庭先で、アヴェリアはパトリックとお茶をしている。
「父上も、君も、預言者というのは隠し事だらけなのか?」
「あら、よく分かっていらっしゃる」
優雅にティーカップを傾けながら、アヴェリアは淡々と応じた。
「君が望まなくとも、私は預言者を代償から救う方法を探し続ける。君だって、私が望んでいなかった王位継承権を復活させたんだ、諦めてくれ」
予言通りであれば、アヴェリアが動かなくとも、パトリック自ら王位継承権を復活させるために動いたはずだ。
しかし、まだ予言が現実のものとなる前に先手を打たれたことを根に持っていた。
「頑固な方ですわね。そこまでおっしゃるのなら、別に止めません。私がお話しすべきことは、お話ししましたし」
一体、何をそこまで人の事情に首を突っ込むのかと、アヴェリアは呆れてしまう。
「父のような人を、もう増やしたくないんだ。君がよくとも、置いて行かれる者の苦しみを知ってほしい。最期にも立ち会えず消えてしまうなんて、残された家族はどうなる?」
「王弟殿下のお話は伺っております。しかし、預言者の最期は皆それぞれ。私がどのような最期を迎えるかは分かりませんわ」
「歴代の預言者について調べてみたけど、そのほとんどが不可解な最期を遂げている。まるで消えたかのように」
預言者の最期を見た者がほとんどいないという事実から、パトリックは、預言者の最期は「存在の消滅」なのではないかと考えていた。
アヴェリアの顔色を窺うも、彼女は眉ひとつ動かさない。
「よくお調べになりましたこと。だからといって、私にどうしろと? 不安を煽って、私の顔が歪むところでも見たいのですか?」
くすり、とアヴェリアが呆れたように笑って見せれば、パトリックは言葉を詰まらせた。
「そんなつもりは……いや、私の言い方が悪かった。すまない」
熱くなるあまり、アヴェリアのことを困らせてしまったことを反省した。
心配しているだけであって、攻撃するつもりはなかったのだ。
「冗談ですわ。とにかく、止めはしませんけれど、忠告はいたしましたよ」
ブラウローゼ公爵家が遠ざかっていくのを、帰りの馬車の窓から眺める。
彼女には、父と同じ運命を辿らせたくない。その気持ちは変わらなかった。
王太子候補となってしまった以上、パトリック自身も彼女を縛る枷となってしまった。
預言者になったのは、彼女の意志ではない。
理不尽な運命に巻き込まれてしまい、受け入れるしかなかったのだ。
(必ず、君を救ってみせる)
パトリックは、遠ざかる邸宅を見つめながら、決意を固めるのだった。
一度はその権利を放棄したものの、予言があったとなれば話は別だ。国民の多くが預言者ーーその後ろにいる神を崇拝しており、パトリックは王太子候補としてすぐに受け入れられた。
「詮索するなと言われても、そうはいかない」
正式に王太子候補として認められてすぐ、パトリックはブラウローゼ公爵家を訪れていた。
フォリオと話す時によく使っている庭先で、アヴェリアはパトリックとお茶をしている。
「父上も、君も、預言者というのは隠し事だらけなのか?」
「あら、よく分かっていらっしゃる」
優雅にティーカップを傾けながら、アヴェリアは淡々と応じた。
「君が望まなくとも、私は預言者を代償から救う方法を探し続ける。君だって、私が望んでいなかった王位継承権を復活させたんだ、諦めてくれ」
予言通りであれば、アヴェリアが動かなくとも、パトリック自ら王位継承権を復活させるために動いたはずだ。
しかし、まだ予言が現実のものとなる前に先手を打たれたことを根に持っていた。
「頑固な方ですわね。そこまでおっしゃるのなら、別に止めません。私がお話しすべきことは、お話ししましたし」
一体、何をそこまで人の事情に首を突っ込むのかと、アヴェリアは呆れてしまう。
「父のような人を、もう増やしたくないんだ。君がよくとも、置いて行かれる者の苦しみを知ってほしい。最期にも立ち会えず消えてしまうなんて、残された家族はどうなる?」
「王弟殿下のお話は伺っております。しかし、預言者の最期は皆それぞれ。私がどのような最期を迎えるかは分かりませんわ」
「歴代の預言者について調べてみたけど、そのほとんどが不可解な最期を遂げている。まるで消えたかのように」
預言者の最期を見た者がほとんどいないという事実から、パトリックは、預言者の最期は「存在の消滅」なのではないかと考えていた。
アヴェリアの顔色を窺うも、彼女は眉ひとつ動かさない。
「よくお調べになりましたこと。だからといって、私にどうしろと? 不安を煽って、私の顔が歪むところでも見たいのですか?」
くすり、とアヴェリアが呆れたように笑って見せれば、パトリックは言葉を詰まらせた。
「そんなつもりは……いや、私の言い方が悪かった。すまない」
熱くなるあまり、アヴェリアのことを困らせてしまったことを反省した。
心配しているだけであって、攻撃するつもりはなかったのだ。
「冗談ですわ。とにかく、止めはしませんけれど、忠告はいたしましたよ」
ブラウローゼ公爵家が遠ざかっていくのを、帰りの馬車の窓から眺める。
彼女には、父と同じ運命を辿らせたくない。その気持ちは変わらなかった。
王太子候補となってしまった以上、パトリック自身も彼女を縛る枷となってしまった。
預言者になったのは、彼女の意志ではない。
理不尽な運命に巻き込まれてしまい、受け入れるしかなかったのだ。
(必ず、君を救ってみせる)
パトリックは、遠ざかる邸宅を見つめながら、決意を固めるのだった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる