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第7幕 元預言者の息子と預言者の乙女
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「話は聞かせていただきましたわ!」
アヴェリアが予知を聞いた翌日。
玉座の間に呼び出されたフォリオとパトリックは、国王の隣で高らかに叫ぶ少女に対して、呆気に取られていた。
「あの……話についていけないのですが」
パトリックが困惑したように口を開く。それもそのはず、まだ予知の内容が現実になる前なのだから。
王位継承権を取り戻そうなど考えていない今のパトリックには、呼び出された理由が分からないはずだ。
「アヴェリア嬢の予言があった。パトリック、お前に王位継承権を再び与えることになった。母君の元へも、今朝文書を送ったところだ」
至って真面目な顔で、国王はそう告げた。
「は……えっ!?」
驚きを隠せないパトリック。その隣には、思考停止して固まっているフォリオが。
「それに伴い、アヴェリア嬢には今後、フォリオの婚約者候補と並行して、パトリックの婚約者候補も探してもらうことになった」
「ち、ちょっと待ってください! 私は王位継承権の復活など望んでおりません!!」
流石にまずいと思ったのか、パトリックが拒否を示す。
「予言があった以上、真の王太子がどちらか見極めねばならぬ。預言者は、時として王族よりも強い発言力をもつのだ。これも、ファシアス王国の未来のため。受け入れよ」
「より王として相応しいのはどちらか、神は明言を避けられました。ですので、私は王太子候補であるお二人の運命の相手を探さなくてはならないのです」
国王の言葉に、アヴェリアは続けた。
「パトリック様の身の安全については保障いたします」
「預言があった以上、パトリックの王位継承権復活に異を唱えるものはいまい。いても、我が許さぬ」
預言者の発言がもたらす影響の大きさを、この時フォリオたちは改めて実感した。
王であっても無視できない力。預言者の言葉とは、神の意志の代弁でもある。逆らえば、今後いかなる不利益を被ることになるか分からない。
「パトリックの今後については追って知らせる。フォリオも、パトリックに負けぬよう、より一層励むように」
フォリオとパトリック、そしてアヴェリアは、国王の話が終わると一緒に退室した。
人気のないところまで移動してから、パトリックがアヴェリアに詰め寄る。
「どういうこと? 私の王位継承権が復活するなんて、意味がわからない」
「このまま放置しておけば、パトリック様自ら、王位継承権を取り戻そうとなさる未来が視えました。預言者の代償を何とかするために」
そして、アヴェリアは予知の内容を話した。
最後まで聞き終わると、神妙な面持ちでパトリックが口を開く。
「君は、代償が怖くないのかい?」
「受け入れております」
「私のせいで、君が命を落とすことになるかもしれない。それでも、私が望まない運命の相手を探すのか?」
「それが、私に与えられた使命です。王国をよき方向に導くために、私は動くだけですわ」
さっ、とアヴェリアは二人の隣を歩き去る。
「どうか、お二人共。預言者という存在を詮索することはおやめ下さい」
振り返った少女の瞳が、黄金色に怪しく光った。
アヴェリアが予知を聞いた翌日。
玉座の間に呼び出されたフォリオとパトリックは、国王の隣で高らかに叫ぶ少女に対して、呆気に取られていた。
「あの……話についていけないのですが」
パトリックが困惑したように口を開く。それもそのはず、まだ予知の内容が現実になる前なのだから。
王位継承権を取り戻そうなど考えていない今のパトリックには、呼び出された理由が分からないはずだ。
「アヴェリア嬢の予言があった。パトリック、お前に王位継承権を再び与えることになった。母君の元へも、今朝文書を送ったところだ」
至って真面目な顔で、国王はそう告げた。
「は……えっ!?」
驚きを隠せないパトリック。その隣には、思考停止して固まっているフォリオが。
「それに伴い、アヴェリア嬢には今後、フォリオの婚約者候補と並行して、パトリックの婚約者候補も探してもらうことになった」
「ち、ちょっと待ってください! 私は王位継承権の復活など望んでおりません!!」
流石にまずいと思ったのか、パトリックが拒否を示す。
「予言があった以上、真の王太子がどちらか見極めねばならぬ。預言者は、時として王族よりも強い発言力をもつのだ。これも、ファシアス王国の未来のため。受け入れよ」
「より王として相応しいのはどちらか、神は明言を避けられました。ですので、私は王太子候補であるお二人の運命の相手を探さなくてはならないのです」
国王の言葉に、アヴェリアは続けた。
「パトリック様の身の安全については保障いたします」
「預言があった以上、パトリックの王位継承権復活に異を唱えるものはいまい。いても、我が許さぬ」
預言者の発言がもたらす影響の大きさを、この時フォリオたちは改めて実感した。
王であっても無視できない力。預言者の言葉とは、神の意志の代弁でもある。逆らえば、今後いかなる不利益を被ることになるか分からない。
「パトリックの今後については追って知らせる。フォリオも、パトリックに負けぬよう、より一層励むように」
フォリオとパトリック、そしてアヴェリアは、国王の話が終わると一緒に退室した。
人気のないところまで移動してから、パトリックがアヴェリアに詰め寄る。
「どういうこと? 私の王位継承権が復活するなんて、意味がわからない」
「このまま放置しておけば、パトリック様自ら、王位継承権を取り戻そうとなさる未来が視えました。預言者の代償を何とかするために」
そして、アヴェリアは予知の内容を話した。
最後まで聞き終わると、神妙な面持ちでパトリックが口を開く。
「君は、代償が怖くないのかい?」
「受け入れております」
「私のせいで、君が命を落とすことになるかもしれない。それでも、私が望まない運命の相手を探すのか?」
「それが、私に与えられた使命です。王国をよき方向に導くために、私は動くだけですわ」
さっ、とアヴェリアは二人の隣を歩き去る。
「どうか、お二人共。預言者という存在を詮索することはおやめ下さい」
振り返った少女の瞳が、黄金色に怪しく光った。
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