ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第7幕 元預言者の息子と預言者の乙女

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 本当の弟のように大切にしている従兄弟。
 フォリオから相談したいことがあると、パトリックはお茶に招待された。

 話しにくそうなフォリオに対し、事前にアヴェリアと会っていたパトリックは、先に切り出す。

「預言者の代償について聞きたいんだろう?」
「なぜそれを!?」

 ひとつ歳を重ねたとしても、フォリオはまだまだ子どもだった。ぽかんと、驚いた表情を浮かべる従兄弟に、パトリックは思わず笑いが溢れる。こういう表情が、まだ幼い子どもには似合っている。

「ここに来る前に、アヴェリア嬢に会ったんだ」

 アヴェリアという名前が出ると、フォリオはあからさまに食いついた。

「アヴェリアは、パトリック兄上に自分に与えられた使命をお話しになったのですか?」
「うん。こうしてお前と話すことになるのを、予知していたみたいだね」

 ひと呼吸おいて、パトリックは続ける。

「でも、あまり力にはなってやれないかもしれない。私も、母上も、父上の最期には立ち会えていないんだ」

 預言者だった父は、その使命を全うして亡くなったと、側近から聞かされていた。その亡骸は、使命を果たす過程で様々な事情が重なり、帰ってこなかった。
 多くの人々が父のことを探し回ってくれたが、結局見つけ出すことはできなかったのである。

「そう、だったのですか……」
「あまり落ち込まないでくれ。お前のせいではないのだから」

 見るからに表情が暗いフォリオに対して、パトリックは優しく声をかけた。

「アヴェリアも、僕のせいで同じ運命を辿ってしまうのでしょうか……?」

 弱々しく吐き出された言葉に、すぐには返答できなかった。
 パトリックの父の最期には、不可解な点が残っている。
 父の死を直接見た者がほとんどいないこと。いくら探しても、その亡骸が見つからなかったこと。遺品すらも、何一つ残さず、忽然と姿を消してしまった。

 預言者ゆえに、普通の人間の死とは異なるのではないか。
 パトリックの父に限らず、歴代の預言者の最期は謎に包まれていることがほとんどだ。誰の目にも留まらず、ひっそりと姿を消してしまうことも少なくない。
 世の中でも、預言者がいなくなったとなればしばらくは騒ぎになるが、新たな預言者の誕生と共に忘れ去られてしまう。

「そうならないように、お前は頑張っているんだろう?」

 フォリオがアヴェリアの運命を握っているのは紛れもない事実だ。父と同じ運命を辿らないとは、断言できなかった。

「私も協力する。父の死の真相を探るために、預言者については個人的に調べてきたから。少しでも役に立つといいのだけれど」
「ありがとうございます。心強いです」

 そう言いつつも、フォリオの表情からは不安が拭い去れていなかった。
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