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第7幕 元預言者の息子と預言者の乙女
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「申し遅れました。私は、アヴェリア・ブラウローゼと申します」
美しいカーテシーを披露しながら、少女は名乗った。
「ブラウローゼ……公爵家のご令嬢だったんだね」
ファシアス王国の宰相、ブラウローゼ公爵に娘がいることは聞いていた。しかし、預言者だということは今日初めて知った。
「パトリック殿下にお会いできて光栄です」
「殿下なんて、堅苦しいのはやめてよ。私は王位継承権争いからは退いているんだから」
父が亡くなった後、隣国の令嬢だった母方の実家に移り住んだ。後ろ盾としては強くない家柄で、強く王位を望む親類もいない。
それならばと。幼いパトリックに余計な苦労をかけまいと、事前に王位継承権を放棄する誓約書が提出されていた。
「アヴェリア嬢は、なぜここに?」
預言者である彼女が国王に会いに来た理由が気になり、パトリックは尋ねる。
「使命について、陛下に進言すべきことがありまして」
使命。その言葉に、チクリと胸が痛む。
父を死に追いやった、預言者の使命の代償。それまで神のために力を尽くしてきたのいうのに、用済みになれば捨てられる。
何と身勝手なことだろう、とパトリックは怒りに打ち震えていた。
「気をお鎮めください」
そんな感情の変化を読み取ったアヴェリアは、パトリックに穏やかに語りかける。
「すまない……ちょっと、父と君を重ねてしまってね」
「私は、預言者として生まれたことを呪ったことはありません。この力のお陰で、ファシアス王国を繁栄に導き、何より面白い舞台に何度も立たせて頂けるのですから」
にっこり、とアヴェリアは妖艶な笑みを浮かべる。
その姿に、パトリックは虚をつかれてしまった。
「預言者が使命を果たしたらどうなるか、君は知らないの?」
「知っています。でも、その代償は人間誰しもいつかは訪れるもの。私は、力を得る代わりに、それが少し早まっただけですわ」
この少女は、分かった上でこう話している。死の恐怖を知らない子どもだからではない。きちんと理解した上で、そう言っているのだ。
子どもらしくない。幾度も、何人もが彼女に対して抱いたことを、パトリックも思う。
母が言っていた。亡くなった父上は、少し変わった方だったと。でも、そこが好きだったのだとも。
預言者というのは、みんな彼女のような人柄なのだろうか。今まで避けてきた預言者に、パトリックは興味を持った。
「君の使命を聞いてもいいかい?」
「ええ。パトリック様には、近々バレてしまうでしょうし」
預言者を代償から救うべくフォリオが動いていると、夢で神から聞いていた。その彼が、間もなく相談する相手がパトリックだということも。
父が預言者であり、使命を人に明かすことのリスクを知っている彼にならば、話しても大丈夫だと判断した。
「私に与えられた使命は、この国の王太子ーーつまり、フォリオ殿下の運命の相手を見つけること、ですわ」
そこで出てきた従兄弟の名前に、パトリックは息を呑んだ。
美しいカーテシーを披露しながら、少女は名乗った。
「ブラウローゼ……公爵家のご令嬢だったんだね」
ファシアス王国の宰相、ブラウローゼ公爵に娘がいることは聞いていた。しかし、預言者だということは今日初めて知った。
「パトリック殿下にお会いできて光栄です」
「殿下なんて、堅苦しいのはやめてよ。私は王位継承権争いからは退いているんだから」
父が亡くなった後、隣国の令嬢だった母方の実家に移り住んだ。後ろ盾としては強くない家柄で、強く王位を望む親類もいない。
それならばと。幼いパトリックに余計な苦労をかけまいと、事前に王位継承権を放棄する誓約書が提出されていた。
「アヴェリア嬢は、なぜここに?」
預言者である彼女が国王に会いに来た理由が気になり、パトリックは尋ねる。
「使命について、陛下に進言すべきことがありまして」
使命。その言葉に、チクリと胸が痛む。
父を死に追いやった、預言者の使命の代償。それまで神のために力を尽くしてきたのいうのに、用済みになれば捨てられる。
何と身勝手なことだろう、とパトリックは怒りに打ち震えていた。
「気をお鎮めください」
そんな感情の変化を読み取ったアヴェリアは、パトリックに穏やかに語りかける。
「すまない……ちょっと、父と君を重ねてしまってね」
「私は、預言者として生まれたことを呪ったことはありません。この力のお陰で、ファシアス王国を繁栄に導き、何より面白い舞台に何度も立たせて頂けるのですから」
にっこり、とアヴェリアは妖艶な笑みを浮かべる。
その姿に、パトリックは虚をつかれてしまった。
「預言者が使命を果たしたらどうなるか、君は知らないの?」
「知っています。でも、その代償は人間誰しもいつかは訪れるもの。私は、力を得る代わりに、それが少し早まっただけですわ」
この少女は、分かった上でこう話している。死の恐怖を知らない子どもだからではない。きちんと理解した上で、そう言っているのだ。
子どもらしくない。幾度も、何人もが彼女に対して抱いたことを、パトリックも思う。
母が言っていた。亡くなった父上は、少し変わった方だったと。でも、そこが好きだったのだとも。
預言者というのは、みんな彼女のような人柄なのだろうか。今まで避けてきた預言者に、パトリックは興味を持った。
「君の使命を聞いてもいいかい?」
「ええ。パトリック様には、近々バレてしまうでしょうし」
預言者を代償から救うべくフォリオが動いていると、夢で神から聞いていた。その彼が、間もなく相談する相手がパトリックだということも。
父が預言者であり、使命を人に明かすことのリスクを知っている彼にならば、話しても大丈夫だと判断した。
「私に与えられた使命は、この国の王太子ーーつまり、フォリオ殿下の運命の相手を見つけること、ですわ」
そこで出てきた従兄弟の名前に、パトリックは息を呑んだ。
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