ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第6幕 つゆ知らぬ乙女

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 シエナとのやり取りを何度か繰り返したアヴェリアは、ついに国王との謁見を決めた。

「殿下の婚約者候補として、エインズワース侯爵家のシエナ様を推薦させて頂きます」

 預言者として、この国の王太子の運命の相手を見つけるという使命を授かったアヴェリアは、それを全うすべく進言したのだった。
 シエナの性格や、天使に祝福されている可能性があることなど、王太子の婚約者として相応しい人物であることをアピールした。

「ありがとう、アヴェリア嬢。候補として、シエナ嬢を検討しよう。だが、あくまで候補。まだ正式な婚約者として認めることはできない」
「ええ、分かっております。他にも候補となるご令嬢が見つかりましたら、ご報告させていただきますわ」

 未来の国母を決める、重大な選択。慎重になるのも無理はない。
 アヴェリアも、他にもっと相応しい令嬢がいないか、もう少し時間をかけて探すつもりでいた。

「それともう一つ。デイモン男爵令嬢ですが、悪魔に魅入られているようです。神からも肯定の言葉をいただきました」

 その報告に、国王は頭を悩ませる。

「なんと……デイモン男爵は、我が国の経済発展に一躍買った男。その娘が、悪魔の力を持っていると?」
「はい。しかも、かなり強い悪魔に憑かれているようです。フォリオ殿下に興味を抱いている様子でした」

 その言葉に、さらに国王は眉間に深い皺を刻んだ。

「高い功績を認めて、男爵の地位を授けたが、まさかそんなことになっているとは……」
「デイモン男爵令嬢は、まだ大きな悪事を働いたわけではありません。男爵も、娘が悪魔に魅入られていることまでは知らないでしょう」
「しばらくは様子を見るしかあるまいな」

 アヴェリアは頷く。
 まだ大きな事件こそ起こしていないが、この先アリアは嵐を巻き起こすことになるだろう。二人は同じことを考えていた。

 しかし、まだ子どものアリアに出来ることは多くない。何か起こるとしても、もう少し先の話だろう。
 それよりも、目先の問題に国王は話題を移した。

「愚息が迷惑をかける。どうにも、預言者について嗅ぎ回っているようでな」
「殿下が?」
「禁じられた書庫へ入れてほしいと頼んできたのだ」
「預言者に関する文献を探しているのですね」

 禁じられた書庫には、国王のみが閲覧を許された文献が収められている。
 そこには、重要機密である預言者の情報も含まれていた。

「無論、フォリオが正式に王位を継ぐことになるまで、見せるつもりはない。そなたにとっても、その方がいいだろう」
「お気遣い感謝いたします。ぜひ、今後もそのようにしてくださいませ」

 預言者にまつわる情報には、国王とアヴェリアのみが知るものも存在する。そしてそれは、あまり人に知られない方がいい内容だ。

(使命の代償から救おうと奔走してくださっているのでしょうが、もっと有意義なことに時間を割いていただきたいですわね)

 気持ちは嬉しいが、無駄なことなのに、とアヴェリアは困ったようにため息をついた。

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