ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第6幕 つゆ知らぬ乙女

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 ほぼ毎日のように、フォリオは羽根ペンを走らせていた。もちろん、アヴェリアから贈られたものだ。
 使わない時は、大事に宝箱の中に入れ、鍵のかかる引き出しにしまっている。

 公爵家でのお茶会以降、シエナとも手紙のやり取りをするようになった。
 主に、その内容はアヴェリアをどうすれば預言者の代償から救えるかということ。初めは婚約者候補として紹介された相手だったが、今では心強い味方になっている。
 もちろん、シエナは使命の内容については知らされていない。そのため、あくまでも調べられるのは代償から逃れる方法についてのみ。

 もし、使命にフォリオが関わっていると知れば、アヴェリアと仲良くしているシエナはどうするだろうか。
 アヴェリアの父や兄のように明確な嫌悪感こそ示さなくても、関わることを避けるようになるかもしれない。
 それを考えないアヴェリアではない。きっとあえて黙っているつもりなのだろう、とフォリオは思った。

 預言者ではないので、先のことは分からない。
 それでも、今は一人でも味方ができたことが嬉しかった。いつまで協力関係でいられるかは分からないが、アヴェリアを救いたいという気持ちは同じ。
 まだ幼い二人に出来ることは限られているが、できる範囲で情報収集を進めていた。

(どうにかして、禁じられた書庫の文献を見ることができればいいんだけど)

 王位を正式に受け継ぐことが決まらない限り、見ることを許されない文献。
 王太子であるフォリオであっても見せてもらえないということは、よほど重要なものなのだろう。

(怪しい……絶対に何か隠されているはず)

 預言者に関する情報は、予知ができることと、使命が与えられていること。そして、使命を果たせば予知の力を失って命を落とすことしか明らかになっていない。
 歴代の預言者たちがどのようにして亡くなったのか、分かるものもあれば、よく分からないものもあった。
 預言者にまつわる情報は、どんなものでも重要事項であるが故に、一般に出回る書物に書かれることはない。

「殿下、口を挟んで恐縮ですが」

 側に控えていたニアが、うんうん唸っているフォリオに助言する。

「文献を見ることはできなくとも、歴代の預言者の家族に話を聞くことは可能かもしれませんよ」

 その言葉に、ぱっとフォリオの表情が明るくなる。

「確かに、それなら僕でも調べられるかもしれない。家族の最期を思い出すのは辛いかもしれないけど……少しでも手がかりが掴めるなら、賭けてみたい」

 先代の預言者は誰だったのか、ニアに尋ねる。
 しかし、返ってきた答えは絶望的なものだった。

「一代前の預言者様は、国王陛下の弟君であらせられました。殿下がお生まれになる前にお亡くなりになっております」
「父上の……? そんなこと、一言も仰っていなかったのに。相手が父上だなんて、教えてもらうのは絶望的じゃないか」

 国王は、フォリオに預言者のことを詳しく話す気はない。
 肩を落とすフォリオに、ニアは続ける。

「家族は国王陛下だけではありませんよ。殿下とも親しい方がいるではありませんか」

 しばらく考えてから、あっ、と声を上げる。

「パトリック兄上か!」

 ふたつ年上の従兄弟、パトリック。今は隣国で暮らしているが、顔を合わせる機会は何度もあった。優しく面倒見の良い兄貴分に、フォリオはよく懐いている。
 早くに亡くなった父の弟の息子だとは聞いていたが、まさか叔父が預言者だったとは。

 教えてもらえるかは不明だが、聞いてみる価値はあるとフォリオは拳を握った。
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