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第6幕 つゆ知らぬ乙女
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アヴェリアが二人への贈り物を持って戻ってきた時、フォリオとシエナはとても楽しそうにお喋りしていた。
(やはり、殿下もシエナ様を気に入ったご様子ですね)
満足げにアヴェリアは微笑む。
アヴェリアが戻ってきたことに気がつくと、二人ともほぼ同時に彼女の方を向いた。
「「おかえり(なさいませ)!」」
息ぴったりな二人に、思わず声が漏れる。
「ふふ、仲がよろしいようで安心しましたわ」
そう言われ、フォリオとシエナは顔を見合わせる。
「共通の話題で盛り上がっていてね」
「とても興味深かったです」
一体何の話をしていたのだろうと少しばかり気になったが、二人の邪魔をしては申し訳ない。そう思い、あえて聞くことはしなかった。
「それはよかったですわ」
「アヴェリア様は、何を取りに行かれていたのですか?」
公爵家執事長のセバスチャンが持つ、二つの小さな箱に目をやり、シエナは目を瞬かせた。
丁寧にラッピングされているそれらを、アヴェリアはフォリオとシエナに手渡した。
「お二人のお近づきの印として。これを使って文通でもして頂けないかと」
二人が箱を開けてみれば、そこにはシンプルながらも上等な羽根ペンがしまわれていた。
「ほ、本当にこんなに素晴らしい物を頂いてよろしいのですか?」
シエナが遠慮がちに聞いてくる。
「もちろん。これでお二人の仲がさらに深まれば、今回のお茶会の主催者として、私も嬉しいですわ」
大事そうに羽根ペンを胸に当てると、シエナは満面の笑みで答えた。
「大切に使わせて頂きます! アヴェリア様にもお手紙を書かせて頂きますね!!」
(私はいいので、殿下に書いてあげてくださいませ)
ちらりとフォリオの方に目をやったアヴェリアは、じとりと目を細めた。
「プ、プレゼント……アヴェリアから初めて貰っちゃった……家宝にしなきゃ」
(こちらは話すら聞いていませんわね。ちゃんとシエナ様へ手紙を書くために使ってくださいませ)
きちんと目的通りに使ってくれればいいのだが、いくらか不安が残る結果となってしまった。
しかし、何にせよ、二人が仲良くなったことは事実。話す回数を重ねていくうちに、互いを意識し始めるだろう。
公爵家でのお茶会がお開きになり、各々自宅へと帰っていった。
それから程なくして、フォリオとシエナからお礼の手紙が届く。もらった羽根ペンで手紙を書いているということと、またアヴェリアに会いたいという内容だった。二人とも、考えることが似ている。
(きちんと使ってくれているようで安心しましたわ。話が合うのはよいことですから、内容が私についてということには目を瞑りましょう)
フォリオとシエナは、その後、文通友達となる。そのことが耳に入ってきたアヴェリアは喜んだが、その内容がアヴェリアに関する情報交換でほぼ占められていることまでは知る由もなかった。
(やはり、殿下もシエナ様を気に入ったご様子ですね)
満足げにアヴェリアは微笑む。
アヴェリアが戻ってきたことに気がつくと、二人ともほぼ同時に彼女の方を向いた。
「「おかえり(なさいませ)!」」
息ぴったりな二人に、思わず声が漏れる。
「ふふ、仲がよろしいようで安心しましたわ」
そう言われ、フォリオとシエナは顔を見合わせる。
「共通の話題で盛り上がっていてね」
「とても興味深かったです」
一体何の話をしていたのだろうと少しばかり気になったが、二人の邪魔をしては申し訳ない。そう思い、あえて聞くことはしなかった。
「それはよかったですわ」
「アヴェリア様は、何を取りに行かれていたのですか?」
公爵家執事長のセバスチャンが持つ、二つの小さな箱に目をやり、シエナは目を瞬かせた。
丁寧にラッピングされているそれらを、アヴェリアはフォリオとシエナに手渡した。
「お二人のお近づきの印として。これを使って文通でもして頂けないかと」
二人が箱を開けてみれば、そこにはシンプルながらも上等な羽根ペンがしまわれていた。
「ほ、本当にこんなに素晴らしい物を頂いてよろしいのですか?」
シエナが遠慮がちに聞いてくる。
「もちろん。これでお二人の仲がさらに深まれば、今回のお茶会の主催者として、私も嬉しいですわ」
大事そうに羽根ペンを胸に当てると、シエナは満面の笑みで答えた。
「大切に使わせて頂きます! アヴェリア様にもお手紙を書かせて頂きますね!!」
(私はいいので、殿下に書いてあげてくださいませ)
ちらりとフォリオの方に目をやったアヴェリアは、じとりと目を細めた。
「プ、プレゼント……アヴェリアから初めて貰っちゃった……家宝にしなきゃ」
(こちらは話すら聞いていませんわね。ちゃんとシエナ様へ手紙を書くために使ってくださいませ)
きちんと目的通りに使ってくれればいいのだが、いくらか不安が残る結果となってしまった。
しかし、何にせよ、二人が仲良くなったことは事実。話す回数を重ねていくうちに、互いを意識し始めるだろう。
公爵家でのお茶会がお開きになり、各々自宅へと帰っていった。
それから程なくして、フォリオとシエナからお礼の手紙が届く。もらった羽根ペンで手紙を書いているということと、またアヴェリアに会いたいという内容だった。二人とも、考えることが似ている。
(きちんと使ってくれているようで安心しましたわ。話が合うのはよいことですから、内容が私についてということには目を瞑りましょう)
フォリオとシエナは、その後、文通友達となる。そのことが耳に入ってきたアヴェリアは喜んだが、その内容がアヴェリアに関する情報交換でほぼ占められていることまでは知る由もなかった。
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