ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第6幕 つゆ知らぬ乙女

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 アヴェリアたち三人のお茶会を見守る影が二つ。

「ねー、キリー。お嬢様のところに行かなくていいのー?」

 無邪気に尋ねるのは、スモッグの子どものひとり。少年は、キリーに言われるまま着いてきたのだった。
 アヴェリアお嬢様に会いに行こう、と。

「今は忙しそうだ。また後にしよう」
「ふーん、分かったー」

 お茶会のことを知らなかったわけではない。あえて、この時間を狙って影から様子を窺っていた。

(もし、王子があの嬢ちゃんに惚れそうなら、邪魔してやろうと思ってたが……)

 アヴェリアの使命が果たされてしまうことを危惧したキリーは、いざとなったら子どもを突撃させてお茶会を阻止しようと考えていた。
 もしフォリオがシエナを気に入り、すぐにでも婚約者に決めてしまったら。まだ幼いアヴェリアの未来は閉ざされてしまう。
 そう考えたら、いてもたってもいられず、近くにいた子どもを連れて息を潜めていたのだった。

(王子も、あの嬢ちゃんも、お嬢のことが気になって仕方ないんだな。お互いの話なんてほとんどしないじゃねぇか)

 気を利かせてアヴェリアが席を外したというのに、二人はアヴェリア関連の話に華を咲かせるばかり。共通の話題で盛り上がってはいるものの、お互いのことを知ろうという気は感じられなかった。

 これは、婚約者どうこうではなく、友達止まりだな、と安堵したキリーは様子を見るだけに留めた。
 しばらくして、満足げな顔でアヴェリアが戻ってきたところに遭遇したが、彼女が思っているような話題で盛り上がっていたわけではないのだった。

(お嬢は、あの嬢ちゃんを婚約者に勧めたいようだったが……そう上手くはいかないみたいだぜ)

 にやり、とキリーは口の端を歪める。

「キリー、うれしそう。何かいいことあったのー?」

 きょとん、とした顔で見上げてくる子どもに、何でもないと答えて口元を隠す。

 主人のために動くのが、従者としての務めだ。
 しかし、アヴェリアがもう少し成長するまでは、主人をために使命とやらを妨害してやろうと考えていた。
 それで天罰が下るのなら、やってみろという気持ちだった。

(神も、お嬢も、そう簡単にあんたらの思い通りにいくと思うなよ?)

 元・煙霧盗賊団スモッグ・ギャングの首領。善の心を持ちつつも、悪党だった彼は、公爵家の犬になると決めてからも、従順に動いてやる気など毛頭なかった。
 フォリオの動向を監視しながら、影からひっそりとアヴェリアを守るために、彼は行動する。
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