32 / 94
第6幕 つゆ知らぬ乙女
31
しおりを挟む
アヴェリアたち三人のお茶会を見守る影が二つ。
「ねー、キリー。お嬢様のところに行かなくていいのー?」
無邪気に尋ねるのは、スモッグの子どものひとり。少年は、キリーに言われるまま着いてきたのだった。
アヴェリアお嬢様に会いに行こう、と。
「今は忙しそうだ。また後にしよう」
「ふーん、分かったー」
お茶会のことを知らなかったわけではない。あえて、この時間を狙って影から様子を窺っていた。
(もし、王子があの嬢ちゃんに惚れそうなら、邪魔してやろうと思ってたが……)
アヴェリアの使命が果たされてしまうことを危惧したキリーは、いざとなったら子どもを突撃させてお茶会を阻止しようと考えていた。
もしフォリオがシエナを気に入り、すぐにでも婚約者に決めてしまったら。まだ幼いアヴェリアの未来は閉ざされてしまう。
そう考えたら、いてもたってもいられず、近くにいた子どもを連れて息を潜めていたのだった。
(王子も、あの嬢ちゃんも、お嬢のことが気になって仕方ないんだな。お互いの話なんてほとんどしないじゃねぇか)
気を利かせてアヴェリアが席を外したというのに、二人はアヴェリア関連の話に華を咲かせるばかり。共通の話題で盛り上がってはいるものの、お互いのことを知ろうという気は感じられなかった。
これは、婚約者どうこうではなく、友達止まりだな、と安堵したキリーは様子を見るだけに留めた。
しばらくして、満足げな顔でアヴェリアが戻ってきたところに遭遇したが、彼女が思っているような話題で盛り上がっていたわけではないのだった。
(お嬢は、あの嬢ちゃんを婚約者に勧めたいようだったが……そう上手くはいかないみたいだぜ)
にやり、とキリーは口の端を歪める。
「キリー、うれしそう。何かいいことあったのー?」
きょとん、とした顔で見上げてくる子どもに、何でもないと答えて口元を隠す。
主人のために動くのが、従者としての務めだ。
しかし、アヴェリアがもう少し成長するまでは、主人を守るために使命とやらを妨害してやろうと考えていた。
それで天罰が下るのなら、やってみろという気持ちだった。
(神も、お嬢も、そう簡単にあんたらの思い通りにいくと思うなよ?)
元・煙霧盗賊団の首領。善の心を持ちつつも、悪党だった彼は、公爵家の犬になると決めてからも、従順に動いてやる気など毛頭なかった。
フォリオの動向を監視しながら、影からひっそりとアヴェリアを守るために、彼は行動する。
「ねー、キリー。お嬢様のところに行かなくていいのー?」
無邪気に尋ねるのは、スモッグの子どものひとり。少年は、キリーに言われるまま着いてきたのだった。
アヴェリアお嬢様に会いに行こう、と。
「今は忙しそうだ。また後にしよう」
「ふーん、分かったー」
お茶会のことを知らなかったわけではない。あえて、この時間を狙って影から様子を窺っていた。
(もし、王子があの嬢ちゃんに惚れそうなら、邪魔してやろうと思ってたが……)
アヴェリアの使命が果たされてしまうことを危惧したキリーは、いざとなったら子どもを突撃させてお茶会を阻止しようと考えていた。
もしフォリオがシエナを気に入り、すぐにでも婚約者に決めてしまったら。まだ幼いアヴェリアの未来は閉ざされてしまう。
そう考えたら、いてもたってもいられず、近くにいた子どもを連れて息を潜めていたのだった。
(王子も、あの嬢ちゃんも、お嬢のことが気になって仕方ないんだな。お互いの話なんてほとんどしないじゃねぇか)
気を利かせてアヴェリアが席を外したというのに、二人はアヴェリア関連の話に華を咲かせるばかり。共通の話題で盛り上がってはいるものの、お互いのことを知ろうという気は感じられなかった。
これは、婚約者どうこうではなく、友達止まりだな、と安堵したキリーは様子を見るだけに留めた。
しばらくして、満足げな顔でアヴェリアが戻ってきたところに遭遇したが、彼女が思っているような話題で盛り上がっていたわけではないのだった。
(お嬢は、あの嬢ちゃんを婚約者に勧めたいようだったが……そう上手くはいかないみたいだぜ)
にやり、とキリーは口の端を歪める。
「キリー、うれしそう。何かいいことあったのー?」
きょとん、とした顔で見上げてくる子どもに、何でもないと答えて口元を隠す。
主人のために動くのが、従者としての務めだ。
しかし、アヴェリアがもう少し成長するまでは、主人を守るために使命とやらを妨害してやろうと考えていた。
それで天罰が下るのなら、やってみろという気持ちだった。
(神も、お嬢も、そう簡単にあんたらの思い通りにいくと思うなよ?)
元・煙霧盗賊団の首領。善の心を持ちつつも、悪党だった彼は、公爵家の犬になると決めてからも、従順に動いてやる気など毛頭なかった。
フォリオの動向を監視しながら、影からひっそりとアヴェリアを守るために、彼は行動する。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる