ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第6幕 つゆ知らぬ乙女

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 あまり気は乗らないものの、アヴェリアが探してきてくれた相手を無碍にするわけにはいかない。
 ブラウローゼ公爵家で開かれたお茶会のテーブルに、フォリオ、アヴェリア、そしてシエナが座っていた。

「本日はお招きいただきありがとうございます。今日という日を心待ちにしておりました」

 満面の笑みでそう伝えるシエナ。

「ようこそお越しくださいました、シエナ様。今日は交流関係を広げる目的もありますので、フォリオ殿下にもご同席頂きました」
「招待状をありがとう。僕も今日を楽しみにしていたよ」

 フォリオが同席していることで、シエナも緊張した面持ちだ。
 しかし、そこはアヴェリアが仲介して二人の仲を取り持つ。

 他愛のない会話を続けていたが、それなりに盛り上がりを見せる。
 だが、その内容はほぼアヴェリアに関するものだった。

「アヴェリア様は、あの紅茶がお好きだそうなんです」
「へぇ、それは知らなかった! 今度、いい茶葉を準備して持ってこよう」

(殿下……私のことはいいですから、シエナ様が好きな紅茶でもお聞きになってくださいませ)

 フォリオとシエナが仲良く話しているのはいいことだが、もっと互いのことについて話してほしいものである。
 もしかして、自分がいるから話しにくいのでは、とアヴェリアは一旦席を外すことにした。

「そういえば、お二人に贈り物があるのです。取って参りますので、それまでごゆっくりお話しになってくださいませ」

 アヴェリアが去って、ぽつんと残された二人。
 先に口を開いたのは、シエナだった。

「殿下は、アヴェリア様と出会ってから長いのですか?」
「いいや、僕もまだ数ヶ月の付き合いだよ」
「私と同じですね」

 本人がいなくても、やはり話題はアヴェリアのこと。お互いに、何だか似たものを感じていた。

「気になっていたことがあるのですが、預言者には必ず使命が与えられていると聞きます。アヴェリア様の使命が何か、ご存じですか?」

 その言葉に、フォリオは口をつぐんだ。
 シエナは、おそらく使命を果たした預言者がどうなるのかを知っていて聞いている。だが、本人の了承なしに話すわけにはいかなかった。
 アヴェリアが信頼している相手とはいえ、使命の内容を知られることは弱点にもなる。彼女のことをよく思っていない人間なら、命を奪うために悪用するかもしれない。

「ごめんね、それは僕の口からは話せない。アヴェリアともっと親しくなったら、自分で聞いてみるといいよ」
「そう、ですか……分かりました」

 シエナは、それ以上、預言者については聞いてこなかった。
 代わりに、アヴェリアについて知っていることを、フォリオと情報交換することに。
 アヴェリアが戻ってきた頃には、意気投合していた。それを見たアヴェリアは、親睦を無事に深められたのだと安堵していたが、若干方向性がずれていた事には気づく由もなかった。



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