31 / 94
第6幕 つゆ知らぬ乙女
30
しおりを挟む
あまり気は乗らないものの、アヴェリアが探してきてくれた相手を無碍にするわけにはいかない。
ブラウローゼ公爵家で開かれたお茶会のテーブルに、フォリオ、アヴェリア、そしてシエナが座っていた。
「本日はお招きいただきありがとうございます。今日という日を心待ちにしておりました」
満面の笑みでそう伝えるシエナ。
「ようこそお越しくださいました、シエナ様。今日は交流関係を広げる目的もありますので、フォリオ殿下にもご同席頂きました」
「招待状をありがとう。僕も今日を楽しみにしていたよ」
フォリオが同席していることで、シエナも緊張した面持ちだ。
しかし、そこはアヴェリアが仲介して二人の仲を取り持つ。
他愛のない会話を続けていたが、それなりに盛り上がりを見せる。
だが、その内容はほぼアヴェリアに関するものだった。
「アヴェリア様は、あの紅茶がお好きだそうなんです」
「へぇ、それは知らなかった! 今度、いい茶葉を準備して持ってこよう」
(殿下……私のことはいいですから、シエナ様が好きな紅茶でもお聞きになってくださいませ)
フォリオとシエナが仲良く話しているのはいいことだが、もっと互いのことについて話してほしいものである。
もしかして、自分がいるから話しにくいのでは、とアヴェリアは一旦席を外すことにした。
「そういえば、お二人に贈り物があるのです。取って参りますので、それまでごゆっくりお話しになってくださいませ」
アヴェリアが去って、ぽつんと残された二人。
先に口を開いたのは、シエナだった。
「殿下は、アヴェリア様と出会ってから長いのですか?」
「いいや、僕もまだ数ヶ月の付き合いだよ」
「私と同じですね」
本人がいなくても、やはり話題はアヴェリアのこと。お互いに、何だか似たものを感じていた。
「気になっていたことがあるのですが、預言者には必ず使命が与えられていると聞きます。アヴェリア様の使命が何か、ご存じですか?」
その言葉に、フォリオは口をつぐんだ。
シエナは、おそらく使命を果たした預言者がどうなるのかを知っていて聞いている。だが、本人の了承なしに話すわけにはいかなかった。
アヴェリアが信頼している相手とはいえ、使命の内容を知られることは弱点にもなる。彼女のことをよく思っていない人間なら、命を奪うために悪用するかもしれない。
「ごめんね、それは僕の口からは話せない。アヴェリアともっと親しくなったら、自分で聞いてみるといいよ」
「そう、ですか……分かりました」
シエナは、それ以上、預言者については聞いてこなかった。
代わりに、アヴェリアについて知っていることを、フォリオと情報交換することに。
アヴェリアが戻ってきた頃には、意気投合していた。それを見たアヴェリアは、親睦を無事に深められたのだと安堵していたが、若干方向性がずれていた事には気づく由もなかった。
ブラウローゼ公爵家で開かれたお茶会のテーブルに、フォリオ、アヴェリア、そしてシエナが座っていた。
「本日はお招きいただきありがとうございます。今日という日を心待ちにしておりました」
満面の笑みでそう伝えるシエナ。
「ようこそお越しくださいました、シエナ様。今日は交流関係を広げる目的もありますので、フォリオ殿下にもご同席頂きました」
「招待状をありがとう。僕も今日を楽しみにしていたよ」
フォリオが同席していることで、シエナも緊張した面持ちだ。
しかし、そこはアヴェリアが仲介して二人の仲を取り持つ。
他愛のない会話を続けていたが、それなりに盛り上がりを見せる。
だが、その内容はほぼアヴェリアに関するものだった。
「アヴェリア様は、あの紅茶がお好きだそうなんです」
「へぇ、それは知らなかった! 今度、いい茶葉を準備して持ってこよう」
(殿下……私のことはいいですから、シエナ様が好きな紅茶でもお聞きになってくださいませ)
フォリオとシエナが仲良く話しているのはいいことだが、もっと互いのことについて話してほしいものである。
もしかして、自分がいるから話しにくいのでは、とアヴェリアは一旦席を外すことにした。
「そういえば、お二人に贈り物があるのです。取って参りますので、それまでごゆっくりお話しになってくださいませ」
アヴェリアが去って、ぽつんと残された二人。
先に口を開いたのは、シエナだった。
「殿下は、アヴェリア様と出会ってから長いのですか?」
「いいや、僕もまだ数ヶ月の付き合いだよ」
「私と同じですね」
本人がいなくても、やはり話題はアヴェリアのこと。お互いに、何だか似たものを感じていた。
「気になっていたことがあるのですが、預言者には必ず使命が与えられていると聞きます。アヴェリア様の使命が何か、ご存じですか?」
その言葉に、フォリオは口をつぐんだ。
シエナは、おそらく使命を果たした預言者がどうなるのかを知っていて聞いている。だが、本人の了承なしに話すわけにはいかなかった。
アヴェリアが信頼している相手とはいえ、使命の内容を知られることは弱点にもなる。彼女のことをよく思っていない人間なら、命を奪うために悪用するかもしれない。
「ごめんね、それは僕の口からは話せない。アヴェリアともっと親しくなったら、自分で聞いてみるといいよ」
「そう、ですか……分かりました」
シエナは、それ以上、預言者については聞いてこなかった。
代わりに、アヴェリアについて知っていることを、フォリオと情報交換することに。
アヴェリアが戻ってきた頃には、意気投合していた。それを見たアヴェリアは、親睦を無事に深められたのだと安堵していたが、若干方向性がずれていた事には気づく由もなかった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。


悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる