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第5幕 天使に愛された少女と預言者の乙女
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「それで、その時はーー」
「お嬢様、そろそろお時間でございます」
シエナの従者が、アヴェリアが帰らなくてはならない時間だと伝える。
「あら、もうそんな時間ですのね」
アヴェリアも、いつの間にやら時間を忘れて話し込んでいた。
「楽しい時間をありがとうございます。今度は、私が招待いたしますね」
「ありがとうございます。楽しみにしております」
「そこでご提案なのですが、フォリオ殿下もお茶会の席に同席してもよろしいでしょうか?」
「殿下がですか?」
驚いたように、シエナが目を見開く。
「フォリオ殿下とのお約束があるのでしたら、そちらを優先してください。私はいつでも大丈夫ですから」
「いいえ、シエナ様にもぜひ同席して頂きたいのです。フォリオ殿下にも、私以外の話し相手が必要ですから」
躊躇う様子を見せたが、アヴェリアの説得でついに折れた。
「分かりました。私などが恐れ多いですが、よろしくお願い致します」
その返答に満足したアヴェリアは、帰宅してから早速フォリオへと手紙を送った。
◇◇◇◇
「えっ、アヴェリアから手紙!?」
手紙を受け取り、飛び上がって喜ぶフォリオだったが、その内容に肩を落とす。
(このまえ言っていたやつかぁ……)
それは、ブラウローゼ公爵家で開かれるお茶会への招待状だった。そこには、シエナも参加する旨が記されている。
「ねぇ、ニア。本当に預言者の枷を外す方法はないのかな?」
側近に尋ねれば、分かりかねると首を横に振る。
「以前にも申し上げました通り、預言者に関する資料は、禁じられた書庫に保管されております。私に見る術はありません」
その話を以前聞いたフォリオは、父に見せてもらえないかと頼み込んでいた。
だが、正式に王位を継ぐことが決まるまではーー結婚相手が決まるまでは立ち入りを許さないとキッパリ断られてしまったのだ。
「代々、国王のみが閲覧を許されるということは、僕の知らない情報が隠されているはず」
そこに、アヴェリアを救う手がかりがないだろうか。
「でも、書庫に入るためには結婚しないといけないし、結婚したらアヴェリアは……」
ああ、もう、とフォリオは頭を抱える。
(こんな時、アヴェリアだったらどうするだろう)
行動力溢れる彼女ならば、この困難すら可能にしてしまうのだろうか。
「殿下が、それほどまでに預言者様を救いたいと願っておられるのは、どうしてですか?」
「それは、僕のせいで彼女が死んでしまうなんて嫌だから。それに……」
「それに?」
やはり、アヴェリアのことが諦めきれないから。
口に出さずとも、ニアはそんな王子の心の内を読み取った。あえて追求はせず、手元の手紙へと視線を移す。
「公爵家へは、何とお返事するのですか?」
「お茶会へは参加するよ。手紙を書く準備を」
シエナに会えば、アヴェリアへの想いも変わるのだろうか。
複雑な気持ちのまま、フォリオはペンを走らせた。
「お嬢様、そろそろお時間でございます」
シエナの従者が、アヴェリアが帰らなくてはならない時間だと伝える。
「あら、もうそんな時間ですのね」
アヴェリアも、いつの間にやら時間を忘れて話し込んでいた。
「楽しい時間をありがとうございます。今度は、私が招待いたしますね」
「ありがとうございます。楽しみにしております」
「そこでご提案なのですが、フォリオ殿下もお茶会の席に同席してもよろしいでしょうか?」
「殿下がですか?」
驚いたように、シエナが目を見開く。
「フォリオ殿下とのお約束があるのでしたら、そちらを優先してください。私はいつでも大丈夫ですから」
「いいえ、シエナ様にもぜひ同席して頂きたいのです。フォリオ殿下にも、私以外の話し相手が必要ですから」
躊躇う様子を見せたが、アヴェリアの説得でついに折れた。
「分かりました。私などが恐れ多いですが、よろしくお願い致します」
その返答に満足したアヴェリアは、帰宅してから早速フォリオへと手紙を送った。
◇◇◇◇
「えっ、アヴェリアから手紙!?」
手紙を受け取り、飛び上がって喜ぶフォリオだったが、その内容に肩を落とす。
(このまえ言っていたやつかぁ……)
それは、ブラウローゼ公爵家で開かれるお茶会への招待状だった。そこには、シエナも参加する旨が記されている。
「ねぇ、ニア。本当に預言者の枷を外す方法はないのかな?」
側近に尋ねれば、分かりかねると首を横に振る。
「以前にも申し上げました通り、預言者に関する資料は、禁じられた書庫に保管されております。私に見る術はありません」
その話を以前聞いたフォリオは、父に見せてもらえないかと頼み込んでいた。
だが、正式に王位を継ぐことが決まるまではーー結婚相手が決まるまでは立ち入りを許さないとキッパリ断られてしまったのだ。
「代々、国王のみが閲覧を許されるということは、僕の知らない情報が隠されているはず」
そこに、アヴェリアを救う手がかりがないだろうか。
「でも、書庫に入るためには結婚しないといけないし、結婚したらアヴェリアは……」
ああ、もう、とフォリオは頭を抱える。
(こんな時、アヴェリアだったらどうするだろう)
行動力溢れる彼女ならば、この困難すら可能にしてしまうのだろうか。
「殿下が、それほどまでに預言者様を救いたいと願っておられるのは、どうしてですか?」
「それは、僕のせいで彼女が死んでしまうなんて嫌だから。それに……」
「それに?」
やはり、アヴェリアのことが諦めきれないから。
口に出さずとも、ニアはそんな王子の心の内を読み取った。あえて追求はせず、手元の手紙へと視線を移す。
「公爵家へは、何とお返事するのですか?」
「お茶会へは参加するよ。手紙を書く準備を」
シエナに会えば、アヴェリアへの想いも変わるのだろうか。
複雑な気持ちのまま、フォリオはペンを走らせた。
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