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第5幕 天使に愛された少女と預言者の乙女
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あっという間に時は流れ、エインズワース侯爵家へとアヴェリアは足を運んでいた。
「アヴェリア様! 来てくださってありがとうございます」
「こちらこそ、招待していただき感謝しますわ」
満面の笑みで出迎えてくれたシエナ。この日が来るのを、彼女は心待ちにしていた。
誕生日パーティー以降、アヴェリアのことが頭から離れなかったシエナは、今日のために完璧に準備を整えていた。
(アヴェリア様の完璧さには敵わないけど、喜んでくれるといいな)
そんなことを考えながら迎えた今日。
お茶会の会場となる裏庭に案内し、パラソル付きのテーブルに腰を下ろす。
「素敵なお庭ですわね。よく手入れされていますわ」
「ありがとうございます。この庭は、彼がいつも綺麗に保ってくれているのです」
少し離れた場所で庭仕事をしている男性に目をやり、シエナは微笑む。
(しっかりと庭師の仕事も評価している。使用人たちのことを、日頃からよく見ているのですね)
シエナの周りにいる人たちは、みんな穏やかな表情をしていた。普段、彼女がどのように使用人たちに接しているかが分かる。
落ち着いた雰囲気の中、二人だけのお茶会が始まった。
「実は、こうして二人だけでお茶会をするのは初めてなんです」
シエナは緊張したように切り出した。
アヴェリアも、フォリオと度々顔を合わせるようになるまでは、同じような状況だった。
「デビュタントや誕生日会が、同世代の子どもたちと会うよい機会になりましたね」
「はい。でも、最初のお茶会には、アヴェリア様を招待したかったんです」
そう微笑むシエナを見て、自分に対して悪い印象は持たれていないことを察する。
「どうしてか、理由をお伺いしても?」
「誕生日会で私を助けてくださったことももちろんですが、アヴェリア様のことをもっと知りたいと思っていたんです」
最初は預言者として興味をもっていただけだったが、今はアヴェリア自身のことが知りたくて仕方がない。友達になりたい、というのが率直なところだろうか。
「それは、私が預言者だからですか?」
「最初はそれもありました。でも、今はアヴェリア様自身のことが知りたいんです。お好きな食べ物は何かとか、どんな本を読まれるのかとか……」
預言者として興味を持たれることには慣れているが、自分自身について知りたいと言われたことはあまりなかった。
純粋に、アヴェリア自身と話すことを望んでいる。それが何だか嬉しかった。
「何でもお答えいたしますよ。その代わり、私もシエナ様のことが知りたいですわ」
「ええ! 何でも聞いてください」
ぱあっ、と目を輝かせ、シエナは楽しそうに話し始める。
フォリオの婚約者候補として相応しいかどうか見極めるためのお茶会だったが、いつしかアヴェリア自身も話に花を咲かせるのだった。
「アヴェリア様! 来てくださってありがとうございます」
「こちらこそ、招待していただき感謝しますわ」
満面の笑みで出迎えてくれたシエナ。この日が来るのを、彼女は心待ちにしていた。
誕生日パーティー以降、アヴェリアのことが頭から離れなかったシエナは、今日のために完璧に準備を整えていた。
(アヴェリア様の完璧さには敵わないけど、喜んでくれるといいな)
そんなことを考えながら迎えた今日。
お茶会の会場となる裏庭に案内し、パラソル付きのテーブルに腰を下ろす。
「素敵なお庭ですわね。よく手入れされていますわ」
「ありがとうございます。この庭は、彼がいつも綺麗に保ってくれているのです」
少し離れた場所で庭仕事をしている男性に目をやり、シエナは微笑む。
(しっかりと庭師の仕事も評価している。使用人たちのことを、日頃からよく見ているのですね)
シエナの周りにいる人たちは、みんな穏やかな表情をしていた。普段、彼女がどのように使用人たちに接しているかが分かる。
落ち着いた雰囲気の中、二人だけのお茶会が始まった。
「実は、こうして二人だけでお茶会をするのは初めてなんです」
シエナは緊張したように切り出した。
アヴェリアも、フォリオと度々顔を合わせるようになるまでは、同じような状況だった。
「デビュタントや誕生日会が、同世代の子どもたちと会うよい機会になりましたね」
「はい。でも、最初のお茶会には、アヴェリア様を招待したかったんです」
そう微笑むシエナを見て、自分に対して悪い印象は持たれていないことを察する。
「どうしてか、理由をお伺いしても?」
「誕生日会で私を助けてくださったことももちろんですが、アヴェリア様のことをもっと知りたいと思っていたんです」
最初は預言者として興味をもっていただけだったが、今はアヴェリア自身のことが知りたくて仕方がない。友達になりたい、というのが率直なところだろうか。
「それは、私が預言者だからですか?」
「最初はそれもありました。でも、今はアヴェリア様自身のことが知りたいんです。お好きな食べ物は何かとか、どんな本を読まれるのかとか……」
預言者として興味を持たれることには慣れているが、自分自身について知りたいと言われたことはあまりなかった。
純粋に、アヴェリア自身と話すことを望んでいる。それが何だか嬉しかった。
「何でもお答えいたしますよ。その代わり、私もシエナ様のことが知りたいですわ」
「ええ! 何でも聞いてください」
ぱあっ、と目を輝かせ、シエナは楽しそうに話し始める。
フォリオの婚約者候補として相応しいかどうか見極めるためのお茶会だったが、いつしかアヴェリア自身も話に花を咲かせるのだった。
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