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第5幕 天使に愛された少女と預言者の乙女
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「あまり殿下に悪戯をしてはいけませんよ」
子どもたちと遊び疲れ、木陰に腰を下ろして休憩しながら、隣に立つキリーに優しく忠告する。
「悪かったよ。つい、な」
二人だけの時は、砕けた話し方になる。アヴェリアも、それをよしとしていた。
ずっと大人のように振る舞っていたアヴェリアにとって、キリーは兄のような存在になっている。実際には主従関係にあるものの、彼との距離感は心地いいものだった。
変に気をつかう必要もないし、新しい視点を教えてくれる。そんな彼のことを、アヴェリアは好ましく思っていた。
「……王子様の運命の相手が見つかったのか?」
相変わらず耳がいいのか、あるいは近くで様子を窺っていたのか。
「まだ分かりません。でも、彼女ならばよいなと思うご令嬢には出会いました」
そう答えるアヴェリアの顔は、ひどく穏やかだった。
「ったく……お貴族様は、どうしてそんなに結婚を急ぐのかねぇ」
「家門の存続のため、仕方のないことなのです」
「でも、お前は結婚を考えていないんだろ?」
「次期ブラウローゼ公爵は、私のお兄様ですもの。家門の存続は、心配ありませんから」
あくまでも、家のため。使命のため。
アヴェリア自身の考えはどうなのか。
「本当に興味がないならいいけどよ。もし、結婚したいって少しでも考えたことがあるなら、いつもの行動力で何とかすればいいんじゃねぇか?」
「すぐにいなくなる花嫁を、誰が欲しがるというのです?」
そう微笑むアヴェリアからは、悲しみも、怒りも感じられない。自分の運命を受け入れているのだ。
子どもにこんな顔をさせる神のことが、キリーは許せなかった。
「少なくとも俺は、最期までお前の側にいると誓った」
一緒に過ごすうちに、側にいたいと思った。
「お前に限らず、人はいつ死ぬかなんて分からねぇ。だから、時間とかは関係ない。一生一緒にいたいと思うやつがいたら、結婚してもいいだろ」
「ふふ、キリーは優しいですね」
運命を受け入れた相手に、こんなことを言うのは残酷かもしれないとキリーは考える。それでも、言わずにはいられなかった。
「そうですね……そんな人が現れたのなら、頑張ってみてもよいかもしれません」
まだ運命に囚われたままの表情で、アヴェリアは遊んでいる子どもたちを眺める。
「もし、そんな相手が見つからなかったら」
視線をキリーの方に移し、アヴェリアは美しく微笑む。
「あなただけは、ずっと私の側にいてくださいね」
一瞬だけ虚をつかれたような顔をしたが、片腕で顔を隠してそっぽを向く。
「だから……そう誓ったって言ってるだろ」
子ども相手に、何を照れているのやら。キリーは恥ずかしさで、しばらく顔を合わせられなかった。
子どもたちと遊び疲れ、木陰に腰を下ろして休憩しながら、隣に立つキリーに優しく忠告する。
「悪かったよ。つい、な」
二人だけの時は、砕けた話し方になる。アヴェリアも、それをよしとしていた。
ずっと大人のように振る舞っていたアヴェリアにとって、キリーは兄のような存在になっている。実際には主従関係にあるものの、彼との距離感は心地いいものだった。
変に気をつかう必要もないし、新しい視点を教えてくれる。そんな彼のことを、アヴェリアは好ましく思っていた。
「……王子様の運命の相手が見つかったのか?」
相変わらず耳がいいのか、あるいは近くで様子を窺っていたのか。
「まだ分かりません。でも、彼女ならばよいなと思うご令嬢には出会いました」
そう答えるアヴェリアの顔は、ひどく穏やかだった。
「ったく……お貴族様は、どうしてそんなに結婚を急ぐのかねぇ」
「家門の存続のため、仕方のないことなのです」
「でも、お前は結婚を考えていないんだろ?」
「次期ブラウローゼ公爵は、私のお兄様ですもの。家門の存続は、心配ありませんから」
あくまでも、家のため。使命のため。
アヴェリア自身の考えはどうなのか。
「本当に興味がないならいいけどよ。もし、結婚したいって少しでも考えたことがあるなら、いつもの行動力で何とかすればいいんじゃねぇか?」
「すぐにいなくなる花嫁を、誰が欲しがるというのです?」
そう微笑むアヴェリアからは、悲しみも、怒りも感じられない。自分の運命を受け入れているのだ。
子どもにこんな顔をさせる神のことが、キリーは許せなかった。
「少なくとも俺は、最期までお前の側にいると誓った」
一緒に過ごすうちに、側にいたいと思った。
「お前に限らず、人はいつ死ぬかなんて分からねぇ。だから、時間とかは関係ない。一生一緒にいたいと思うやつがいたら、結婚してもいいだろ」
「ふふ、キリーは優しいですね」
運命を受け入れた相手に、こんなことを言うのは残酷かもしれないとキリーは考える。それでも、言わずにはいられなかった。
「そうですね……そんな人が現れたのなら、頑張ってみてもよいかもしれません」
まだ運命に囚われたままの表情で、アヴェリアは遊んでいる子どもたちを眺める。
「もし、そんな相手が見つからなかったら」
視線をキリーの方に移し、アヴェリアは美しく微笑む。
「あなただけは、ずっと私の側にいてくださいね」
一瞬だけ虚をつかれたような顔をしたが、片腕で顔を隠してそっぽを向く。
「だから……そう誓ったって言ってるだろ」
子ども相手に、何を照れているのやら。キリーは恥ずかしさで、しばらく顔を合わせられなかった。
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