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第5幕 天使に愛された少女と預言者の乙女
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この先、アリアの件を片付けたとしても、この国の頂点に立つフォリオには常に危険が付き纏うだろう。
天使の祝福を受けた少女ならば、フォリオにもいい影響を与えるはずだ。見た目も性格も文句なしであれば尚更。
「シエナ様は、個人的にも仲よくしたい方です。久しぶりに、本当によい方だと思いましたもの」
「君がそれほどまでに言うのなら、素晴らしいご令嬢なんだろうね」
「ええ。きっと、殿下にも気に入って頂けると思います」
ここまでアヴェリアが推すのだから、悪い相手だとは思わない。
しかし、友人としてならいいが、婚約者ともなれば簡単にそうかとは頷けないのだった。
「実際に会ってみないことには何とも言えないよ」
「おっしゃる通りです。楽しみにしておいてくださいませ。それはそうとーー先程の反応からして大丈夫だとは思いますが、デイモン男爵令嬢のことはどうお考えですの?」
この先、長らくフォリオに付き纏う悪い虫であるアリア。彼女のことをどう思っているのか、アヴェリアは尋ねた。本人の意思は尊重したいが、彼女だけはいただけない。
「アリア嬢のこと? いや、特に何も考えてなかったけど」
「それなら安心です。殿下の意思は尊重したいですが、悪魔に魅入られた彼女はいけません。そうでなくとも、性格が最悪ですわ」
「心配しなくても、本当に何も考えてないよ。君に言われるまで忘れていたくらいだし」
デビュタントの日のことは、フォリオにとって忘れられない思い出になった。しかしそれは、アヴェリアのパートナーとしてパーティーに参加できたという嬉しさから。
今後、もう巡ってこないかもしれない機会を前にして、他のことなど些事に過ぎなかった。
「今後も注意してくださいませ。彼女とは、長い付き合いになりそうですから」
そんなことを話していると、何やらアヴェリアの背後から騒がしい声が聞こえてくる。
「アヴェリア様~!!」
「あら、木の葉を頭に乗せて。また木登りをしていたのかしら?」
現れたのは、元気いっぱいの元煙霧盗賊団の一員だった子どもたち。
その後ろから、額に手を当てたキリーが現れる。
「すみません、お嬢。止めきれませんでした」
「いいのよ、キリー。もうすぐお茶会も終わるところだったから、一緒に遊びましょうか」
子どもたちとさほど変わらない年齢であるはずなのに、アヴェリアが随分とお姉さんのように見えた。
その様子をどこか寂しそうに見守っていたキリーと目が合う。
「君は、あの時の……」
「先日の非礼、心からお詫び申し上げます」
フォリオの存在に気がつくと、キリーは深々と頭を下げて謝罪した。本当に同一人物かと疑いたくなる変貌ぶりに、驚きつつも頭を上げるよう命じた。
煙霧盗賊団の首領だった彼は、今やブラウローゼ公爵家お抱えの特殊部隊、スモッグの隊長である。
頭を上げたキリーは、少し考えてから口を開く。
「今後は、影としてアヴェリアお嬢様をお守りさせて頂きます」
殺気。
一瞬ではあったが、キリーから放たれたそれは、フォリオを震え上がらせた。
側についていた護衛も思わず剣に手をかけたが、それを抜く前にキリーは子どもたちを連れてその場を後にする。
「申し訳ありません、殿下。これから子どもたちと遊ぶので、お茶会はここでお開きと致しましょう」
「う、うん。楽しんできてね」
帰りの馬車の中で、フォリオは羨ましく思う。
(彼は、アヴェリアのことを守れるんだ)
少し前までは敵だった彼を懐柔できたのは、アヴェリアだったからだろう。
キリーの反応から考えるに、彼もまたアヴェリアに心惹かれるひとりなのだろうと、フォリオはため息をついた。
天使の祝福を受けた少女ならば、フォリオにもいい影響を与えるはずだ。見た目も性格も文句なしであれば尚更。
「シエナ様は、個人的にも仲よくしたい方です。久しぶりに、本当によい方だと思いましたもの」
「君がそれほどまでに言うのなら、素晴らしいご令嬢なんだろうね」
「ええ。きっと、殿下にも気に入って頂けると思います」
ここまでアヴェリアが推すのだから、悪い相手だとは思わない。
しかし、友人としてならいいが、婚約者ともなれば簡単にそうかとは頷けないのだった。
「実際に会ってみないことには何とも言えないよ」
「おっしゃる通りです。楽しみにしておいてくださいませ。それはそうとーー先程の反応からして大丈夫だとは思いますが、デイモン男爵令嬢のことはどうお考えですの?」
この先、長らくフォリオに付き纏う悪い虫であるアリア。彼女のことをどう思っているのか、アヴェリアは尋ねた。本人の意思は尊重したいが、彼女だけはいただけない。
「アリア嬢のこと? いや、特に何も考えてなかったけど」
「それなら安心です。殿下の意思は尊重したいですが、悪魔に魅入られた彼女はいけません。そうでなくとも、性格が最悪ですわ」
「心配しなくても、本当に何も考えてないよ。君に言われるまで忘れていたくらいだし」
デビュタントの日のことは、フォリオにとって忘れられない思い出になった。しかしそれは、アヴェリアのパートナーとしてパーティーに参加できたという嬉しさから。
今後、もう巡ってこないかもしれない機会を前にして、他のことなど些事に過ぎなかった。
「今後も注意してくださいませ。彼女とは、長い付き合いになりそうですから」
そんなことを話していると、何やらアヴェリアの背後から騒がしい声が聞こえてくる。
「アヴェリア様~!!」
「あら、木の葉を頭に乗せて。また木登りをしていたのかしら?」
現れたのは、元気いっぱいの元煙霧盗賊団の一員だった子どもたち。
その後ろから、額に手を当てたキリーが現れる。
「すみません、お嬢。止めきれませんでした」
「いいのよ、キリー。もうすぐお茶会も終わるところだったから、一緒に遊びましょうか」
子どもたちとさほど変わらない年齢であるはずなのに、アヴェリアが随分とお姉さんのように見えた。
その様子をどこか寂しそうに見守っていたキリーと目が合う。
「君は、あの時の……」
「先日の非礼、心からお詫び申し上げます」
フォリオの存在に気がつくと、キリーは深々と頭を下げて謝罪した。本当に同一人物かと疑いたくなる変貌ぶりに、驚きつつも頭を上げるよう命じた。
煙霧盗賊団の首領だった彼は、今やブラウローゼ公爵家お抱えの特殊部隊、スモッグの隊長である。
頭を上げたキリーは、少し考えてから口を開く。
「今後は、影としてアヴェリアお嬢様をお守りさせて頂きます」
殺気。
一瞬ではあったが、キリーから放たれたそれは、フォリオを震え上がらせた。
側についていた護衛も思わず剣に手をかけたが、それを抜く前にキリーは子どもたちを連れてその場を後にする。
「申し訳ありません、殿下。これから子どもたちと遊ぶので、お茶会はここでお開きと致しましょう」
「う、うん。楽しんできてね」
帰りの馬車の中で、フォリオは羨ましく思う。
(彼は、アヴェリアのことを守れるんだ)
少し前までは敵だった彼を懐柔できたのは、アヴェリアだったからだろう。
キリーの反応から考えるに、彼もまたアヴェリアに心惹かれるひとりなのだろうと、フォリオはため息をついた。
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