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第4幕 悪魔に魅入られた少女と預言者の乙女
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パーティーも終わりに差し掛かった頃、シエナがおずおずとアヴェリアに近づいてきた。
「アヴェリア様、今日は本当にありがとうございました」
「特に感謝されるようなことはしておりませんわ」
「私が話の輪に加われるようにして下さったでしょう? 実は、寂しかったんです。自分の誕生日なのに、みんなアリア様の方に行ってしまうから」
魅力的な方ですから仕方ないのですけれど、とシエナは苦笑する。
「シエナ様、あなたはとても魅力的な方です。今日のあなたの立ち振る舞いを見て、よりそう感じました」
アヴェリアは真っ直ぐシエナの瞳を見つめる。
「えっ……そんな、私なんて……」
「謙遜なさらないでください。あなたの着ているドレスも上等なシルクが使われているものですし、デイモン男爵令嬢に目利きの才がなかっただけですわ。あなた自身の魅力を引き立てる、素晴らしいものだと思います」
嘘偽りない賞賛に、シエナは照れたように少し俯く。
「ありがとうございます。屋敷のみんなが、今日のためにと一生懸命準備してくれていたものなので……その言葉を聞けば、きっと喜んでくれるはずです」
「あなたのことをよく理解してくれる、素晴らしい人たちに囲まれているのですね」
人に恵まれるのも、ひとつの才能だ。シエナの周りには、きっと善い人が集まっているのだろう。
しかし、そんな彼女を貶めようとする輩が出てくるかもしれない。恵まれた環境にある彼女は、妬みの対象となりやすいだろう。
「何か困ったことがあれば、遠慮せずに相談してくださいませ。またお話ししましょう」
うっとりするような笑みを向けられたシエナは、思わず見惚れる。同年代とは思えない気品溢れる美しさ、そして勇敢さ。
「私の方こそ、ぜひまた我が家へ招待させてください。今度は、アヴェリア様と二人きりでゆっくりお話しさせて頂きたいです」
「ふふ、楽しみですわ。ブラウローゼ公爵家にも、近いうちに招待させて頂きますわね」
「ありがとうございます!」
アリアの一件はあったものの、シエナと親睦を深めるという目的は達成できた。
どこからか睨みつけてくる視線を感じたが、無視してアヴェリアは侯爵家を後にする。
去っていく後ろ姿を見送りながら、シエナはほぅと息を吐く。
「アヴェリア様……素敵な方だったわ」
自分を助けてくれただけでなく、また話そうと言ってくれた。
預言者だということしか知らなかったシエナだったが、今日一日ですっかり心を奪われてしまった。
招待客たちが全員帰ったのを見届けると、シエナは早速、個人的な招待状を書き綴るのだった。
「アヴェリア様、今日は本当にありがとうございました」
「特に感謝されるようなことはしておりませんわ」
「私が話の輪に加われるようにして下さったでしょう? 実は、寂しかったんです。自分の誕生日なのに、みんなアリア様の方に行ってしまうから」
魅力的な方ですから仕方ないのですけれど、とシエナは苦笑する。
「シエナ様、あなたはとても魅力的な方です。今日のあなたの立ち振る舞いを見て、よりそう感じました」
アヴェリアは真っ直ぐシエナの瞳を見つめる。
「えっ……そんな、私なんて……」
「謙遜なさらないでください。あなたの着ているドレスも上等なシルクが使われているものですし、デイモン男爵令嬢に目利きの才がなかっただけですわ。あなた自身の魅力を引き立てる、素晴らしいものだと思います」
嘘偽りない賞賛に、シエナは照れたように少し俯く。
「ありがとうございます。屋敷のみんなが、今日のためにと一生懸命準備してくれていたものなので……その言葉を聞けば、きっと喜んでくれるはずです」
「あなたのことをよく理解してくれる、素晴らしい人たちに囲まれているのですね」
人に恵まれるのも、ひとつの才能だ。シエナの周りには、きっと善い人が集まっているのだろう。
しかし、そんな彼女を貶めようとする輩が出てくるかもしれない。恵まれた環境にある彼女は、妬みの対象となりやすいだろう。
「何か困ったことがあれば、遠慮せずに相談してくださいませ。またお話ししましょう」
うっとりするような笑みを向けられたシエナは、思わず見惚れる。同年代とは思えない気品溢れる美しさ、そして勇敢さ。
「私の方こそ、ぜひまた我が家へ招待させてください。今度は、アヴェリア様と二人きりでゆっくりお話しさせて頂きたいです」
「ふふ、楽しみですわ。ブラウローゼ公爵家にも、近いうちに招待させて頂きますわね」
「ありがとうございます!」
アリアの一件はあったものの、シエナと親睦を深めるという目的は達成できた。
どこからか睨みつけてくる視線を感じたが、無視してアヴェリアは侯爵家を後にする。
去っていく後ろ姿を見送りながら、シエナはほぅと息を吐く。
「アヴェリア様……素敵な方だったわ」
自分を助けてくれただけでなく、また話そうと言ってくれた。
預言者だということしか知らなかったシエナだったが、今日一日ですっかり心を奪われてしまった。
招待客たちが全員帰ったのを見届けると、シエナは早速、個人的な招待状を書き綴るのだった。
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