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第4幕 悪魔に魅入られた少女と預言者の乙女
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本日の主役は、エインズワース侯爵令嬢だ。
しかし、その主役は壁際でぽつりと飲み物の入ったグラスを片手に、令嬢たちの集まりを遠目で眺めている。
グラスの中の飲み物が減っている様子はなく、ただ時間を潰すためだけにそうしているようだった。
視線の先には、令嬢たちに囲まれたアリアの姿があった。
「私のドレス、素敵でしょう?」
ひらり、と見せつけるようにターンする。
まぁ、などと令嬢たちは感嘆の声を漏らした。
「皆さんにも譲って差し上げますから、これから私の家にいらしてください!」
人の誕生日パーティーに参加しておいて、早々に招待客たちを連れて帰ろうとするとは。呆れて声も出ない。
(でも、一番おかしいのは、彼女の周りにいる人たちが、こぞって同調していることですわね)
最初は、そんな馬鹿げた提案に乗るものなどいないと思っていた。しかし、そうしましょう、そうしましょうと、次々に賛同する声が聞こえてきた。
これも悪魔に魅入られた少女の力なのか。
輪から離れて様子を見守っていたアヴェリアだったが、耐えきれなくなってついに叫んだ。
「話は聞かせていただきましたわ!!」
その一声で、しん、と会場が静まり返る。みんなの視線が、一斉にアヴェリアに向いた。
「デイモン男爵令嬢、今日が誰のパーティーかお忘れですか?」
アリアを取り囲んでいた令嬢たちが、道を開ける。
アリアと対峙したアヴェリアは、ばっと扇子を広げて様子を伺う。
鋭い視線を向けられたアリアは、うるっと目を潤ませて、周りの令嬢たちに助けを求めようと口を開こうとした。
しかし、シエナが静かに歩み寄ってくると、周りの令嬢たちが先に話し出した。
「た、確かに、今日はシエナ様のお誕生日でしたわね」
「申し訳ありません、シエナ様」
我に返った令嬢たちが、シエナに対して次々と謝罪する。
その姿を見て、シエナは穏やかに微笑んだ。
「お気になさらないでください。でも、折角なら私ともお話ししていただけると嬉しいです」
相手に気を遣わせないように、それでいてパーティー本来の在り方を思い出させた。
(シエナ様、よい方ですわね)
彼女がいるだけで、辺りが一気に和やかな雰囲気になる。こうした性質をもつ人間は、ギスギスしがちな貴族社会においてとても貴重だ。
一方で、ちやほやされていたのも一変、主役が自分ではなくなったアリアは、あからさまに不満そうな顔をしている。
アヴェリアの方を睨んでいる様子からも、恨みを買ったのではないかと思われた。
矛先がシエナの方に向かなくてよかったと、アヴェリアは何食わぬ顔で考える。
このまま自分に対して不満を募らせていてもらった方が、今後動きやすくもなるだろう。
シエナをフォリオの婚約者候補として目をつけたアヴェリアは、アリアの魔の手が伸びないように全力で守ろうと決意した。
しかし、その主役は壁際でぽつりと飲み物の入ったグラスを片手に、令嬢たちの集まりを遠目で眺めている。
グラスの中の飲み物が減っている様子はなく、ただ時間を潰すためだけにそうしているようだった。
視線の先には、令嬢たちに囲まれたアリアの姿があった。
「私のドレス、素敵でしょう?」
ひらり、と見せつけるようにターンする。
まぁ、などと令嬢たちは感嘆の声を漏らした。
「皆さんにも譲って差し上げますから、これから私の家にいらしてください!」
人の誕生日パーティーに参加しておいて、早々に招待客たちを連れて帰ろうとするとは。呆れて声も出ない。
(でも、一番おかしいのは、彼女の周りにいる人たちが、こぞって同調していることですわね)
最初は、そんな馬鹿げた提案に乗るものなどいないと思っていた。しかし、そうしましょう、そうしましょうと、次々に賛同する声が聞こえてきた。
これも悪魔に魅入られた少女の力なのか。
輪から離れて様子を見守っていたアヴェリアだったが、耐えきれなくなってついに叫んだ。
「話は聞かせていただきましたわ!!」
その一声で、しん、と会場が静まり返る。みんなの視線が、一斉にアヴェリアに向いた。
「デイモン男爵令嬢、今日が誰のパーティーかお忘れですか?」
アリアを取り囲んでいた令嬢たちが、道を開ける。
アリアと対峙したアヴェリアは、ばっと扇子を広げて様子を伺う。
鋭い視線を向けられたアリアは、うるっと目を潤ませて、周りの令嬢たちに助けを求めようと口を開こうとした。
しかし、シエナが静かに歩み寄ってくると、周りの令嬢たちが先に話し出した。
「た、確かに、今日はシエナ様のお誕生日でしたわね」
「申し訳ありません、シエナ様」
我に返った令嬢たちが、シエナに対して次々と謝罪する。
その姿を見て、シエナは穏やかに微笑んだ。
「お気になさらないでください。でも、折角なら私ともお話ししていただけると嬉しいです」
相手に気を遣わせないように、それでいてパーティー本来の在り方を思い出させた。
(シエナ様、よい方ですわね)
彼女がいるだけで、辺りが一気に和やかな雰囲気になる。こうした性質をもつ人間は、ギスギスしがちな貴族社会においてとても貴重だ。
一方で、ちやほやされていたのも一変、主役が自分ではなくなったアリアは、あからさまに不満そうな顔をしている。
アヴェリアの方を睨んでいる様子からも、恨みを買ったのではないかと思われた。
矛先がシエナの方に向かなくてよかったと、アヴェリアは何食わぬ顔で考える。
このまま自分に対して不満を募らせていてもらった方が、今後動きやすくもなるだろう。
シエナをフォリオの婚約者候補として目をつけたアヴェリアは、アリアの魔の手が伸びないように全力で守ろうと決意した。
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