ここからは私の独壇場です

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
24 / 94
第4幕 悪魔に魅入られた少女と預言者の乙女

23

しおりを挟む
 本日の主役は、エインズワース侯爵令嬢だ。
 しかし、その主役は壁際でぽつりと飲み物の入ったグラスを片手に、令嬢たちの集まりを遠目で眺めている。
 グラスの中の飲み物が減っている様子はなく、ただ時間を潰すためだけにそうしているようだった。

 視線の先には、令嬢たちに囲まれたアリアの姿があった。

「私のドレス、素敵でしょう?」

 ひらり、と見せつけるようにターンする。
 まぁ、などと令嬢たちは感嘆の声を漏らした。

「皆さんにも譲って差し上げますから、これから私の家にいらしてください!」

 人の誕生日パーティーに参加しておいて、早々に招待客たちを連れて帰ろうとするとは。呆れて声も出ない。

(でも、一番おかしいのは、彼女の周りにいる人たちが、こぞって同調していることですわね)

 最初は、そんな馬鹿げた提案に乗るものなどいないと思っていた。しかし、そうしましょう、そうしましょうと、次々に賛同する声が聞こえてきた。
 これも悪魔に魅入られた少女の力なのか。
 輪から離れて様子を見守っていたアヴェリアだったが、耐えきれなくなってついに叫んだ。

「話は聞かせていただきましたわ!!」

 その一声で、しん、と会場が静まり返る。みんなの視線が、一斉にアヴェリアに向いた。

「デイモン男爵令嬢、今日が誰のパーティーかお忘れですか?」

 アリアを取り囲んでいた令嬢たちが、道を開ける。
 アリアと対峙したアヴェリアは、ばっと扇子を広げて様子を伺う。
 鋭い視線を向けられたアリアは、うるっと目を潤ませて、周りの令嬢たちに助けを求めようと口を開こうとした。

 しかし、シエナが静かに歩み寄ってくると、周りの令嬢たちが先に話し出した。

「た、確かに、今日はシエナ様のお誕生日でしたわね」
「申し訳ありません、シエナ様」

 我に返った令嬢たちが、シエナに対して次々と謝罪する。
 その姿を見て、シエナは穏やかに微笑んだ。

「お気になさらないでください。でも、折角なら私ともお話ししていただけると嬉しいです」

 相手に気を遣わせないように、それでいてパーティー本来の在り方を思い出させた。

(シエナ様、よい方ですわね)

 彼女がいるだけで、辺りが一気に和やかな雰囲気になる。こうした性質をもつ人間は、ギスギスしがちな貴族社会においてとても貴重だ。

 一方で、ちやほやされていたのも一変、主役が自分ではなくなったアリアは、あからさまに不満そうな顔をしている。
 アヴェリアの方を睨んでいる様子からも、恨みを買ったのではないかと思われた。

 矛先がシエナの方に向かなくてよかったと、アヴェリアは何食わぬ顔で考える。
 このまま自分に対して不満を募らせていてもらった方が、今後動きやすくもなるだろう。

 シエナをフォリオの婚約者候補として目をつけたアヴェリアは、アリアの魔の手が伸びないように全力で守ろうと決意した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...