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第4幕 悪魔に魅入られた少女と預言者の乙女
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エインズワース侯爵令嬢の6歳の誕生日には、同世代の令嬢たちが集められた。
「エインズワース侯爵様、シエナ様。本日は、お招きいただきありがとうございます。そして、心よりお祝い申し上げます」
アヴェリアは美しいカーテシーを披露し、本日の主催者に挨拶する。
「娘の誕生日パーティーに参加してくれてありがとう、アヴェリア嬢。父君は元気にされているかい?」
人好きのする笑みを浮かべて、エインズワース侯爵は尋ねた。
「はい、お陰様で。侯爵様のお話は、父から伺っております。とても素晴らしい方だと」
「君のお父上には敵わないとも。ブラウローゼ公爵によろしく伝えておいて欲しい」
事前に聞いていた通り、エインズワース侯爵の第一印象は悪くなかった。
父親の隣で緊張しながら挨拶をしてくるのは、娘のシエナだ。フォリオの運命の相手候補である。
「アヴェリア様、本日はお越しいただきありがとうございます。今日は楽しんでいってください」
毛先まで手入れの行き届いた金髪、空よりも美しい青い瞳。シンプルなドレスを身に纏いながらも、それがかえってシエナの素の美しさを引き立てている。
「デビュタントではお話しできませんでしたが、よければ後でお時間をいただけませんこと?」
アヴェリアの申し出に、シエナは驚きつつも快諾する。
「私でよければ、ぜひ! 預言者としての噂はかねがね伺っておりましたが、直接お話ししたいと思っていたのです」
純粋に向けられる好意というのは、悪い気がしない。シエナの言葉からは、本当にアヴェリアと話すことを楽しみにしているのだと感じられた。
挨拶を済ませると、アヴェリアは次々とシエナたちに挨拶をしに行く令嬢たちの動きを観察し始めた。
そして、ひとりの少女に目が留まる。
(あら、彼女も招待されていたのですね)
艶やかな黒髪に、煌びやかな髪飾りをつけ、ドレスも最先端のものを身につけている。デイモン男爵家からすれば、彼女は歩く広告塔でもあるので、こうした格好であるのも頷ける。
「シエナ様はおしゃれに興味がないのですか? そうだ! 私のドレスをお譲りします!!」
アリア自身の性格には、非常に難ありだが。
まだ年端の行かない少女であることを鑑みても、随分と失礼な発言をする。
シンプルなドレスではあるが、シエナの着ているものは上等なシルクが使われている。それを見抜く力はないらしい。
「あ、ありがとうございます」
苦笑しながらも、笑顔で応じるシエナの心の広さには感心してしまった。
(私でしたら、嫌味の一つでも返してやるところですのに)
そういった性格の面でも、アヴェリアはシエナに信頼を寄せていった。
ひと通り参加者たちの挨拶が済むと、エインズワース侯爵の合図を皮切りに、パーティーがスタートした。
このまま、誕生日会は何事もなく進むかと思われた。
デイモン男爵令嬢が、このパーティーの主役が誰なのかも忘れたように振る舞い始めるまでは。
「エインズワース侯爵様、シエナ様。本日は、お招きいただきありがとうございます。そして、心よりお祝い申し上げます」
アヴェリアは美しいカーテシーを披露し、本日の主催者に挨拶する。
「娘の誕生日パーティーに参加してくれてありがとう、アヴェリア嬢。父君は元気にされているかい?」
人好きのする笑みを浮かべて、エインズワース侯爵は尋ねた。
「はい、お陰様で。侯爵様のお話は、父から伺っております。とても素晴らしい方だと」
「君のお父上には敵わないとも。ブラウローゼ公爵によろしく伝えておいて欲しい」
事前に聞いていた通り、エインズワース侯爵の第一印象は悪くなかった。
父親の隣で緊張しながら挨拶をしてくるのは、娘のシエナだ。フォリオの運命の相手候補である。
「アヴェリア様、本日はお越しいただきありがとうございます。今日は楽しんでいってください」
毛先まで手入れの行き届いた金髪、空よりも美しい青い瞳。シンプルなドレスを身に纏いながらも、それがかえってシエナの素の美しさを引き立てている。
「デビュタントではお話しできませんでしたが、よければ後でお時間をいただけませんこと?」
アヴェリアの申し出に、シエナは驚きつつも快諾する。
「私でよければ、ぜひ! 預言者としての噂はかねがね伺っておりましたが、直接お話ししたいと思っていたのです」
純粋に向けられる好意というのは、悪い気がしない。シエナの言葉からは、本当にアヴェリアと話すことを楽しみにしているのだと感じられた。
挨拶を済ませると、アヴェリアは次々とシエナたちに挨拶をしに行く令嬢たちの動きを観察し始めた。
そして、ひとりの少女に目が留まる。
(あら、彼女も招待されていたのですね)
艶やかな黒髪に、煌びやかな髪飾りをつけ、ドレスも最先端のものを身につけている。デイモン男爵家からすれば、彼女は歩く広告塔でもあるので、こうした格好であるのも頷ける。
「シエナ様はおしゃれに興味がないのですか? そうだ! 私のドレスをお譲りします!!」
アリア自身の性格には、非常に難ありだが。
まだ年端の行かない少女であることを鑑みても、随分と失礼な発言をする。
シンプルなドレスではあるが、シエナの着ているものは上等なシルクが使われている。それを見抜く力はないらしい。
「あ、ありがとうございます」
苦笑しながらも、笑顔で応じるシエナの心の広さには感心してしまった。
(私でしたら、嫌味の一つでも返してやるところですのに)
そういった性格の面でも、アヴェリアはシエナに信頼を寄せていった。
ひと通り参加者たちの挨拶が済むと、エインズワース侯爵の合図を皮切りに、パーティーがスタートした。
このまま、誕生日会は何事もなく進むかと思われた。
デイモン男爵令嬢が、このパーティーの主役が誰なのかも忘れたように振る舞い始めるまでは。
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