ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第3幕 社交界の華の乙女

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 可愛らしいデビュタントで、ひときわ輝きを放つアヴェリアだったが、もう一人、人々の視線を集める少女がいた。

 アリア・デイモン男爵令嬢。
 商人として成功を収め、ファシアス王国の経済発展に大きく貢献したとして、近年男爵位を授かったデイモン家の一人娘。
 莫大な資産をもつデイモン男爵家の威光を示すかのように、流行の最先端をいく最高級のドレスや装飾品を身に纏っている。

 その服装に負けず劣らず、アリア嬢の容姿も整ったもので、愛くるしさが溢れ出していた。
 アヴェリアが子どもらしからぬ美しさをもつのに対し、アリアは可愛らしさを武器に、会場の視線を集めている。

 アヴェリアは、アリアを一目見た瞬間から運命的なものを感じていた。

(彼女は、殿下の運命の相手? それとも、長らく付き纏う悪い虫かしら?)

 どこからか取り出した扇子で口元を隠し、アヴェリアはほくそ笑む。
 どちらにせよ、、と。

 対するフォリオは、着飾っていつにも増して美しいアヴェリアの隣に立っているだけで、頭がいっぱいだった。

(今日は完璧にエスコートするって決めてたのに、アヴェリアが近くにいるだけでドキドキが収まらない……)

 そんなフォリオの頭のことなどつゆ知らず、一人の少女が突然声をかけてきた。

「フォリオ殿下、私はアリアと申します! 私とダンスを踊っていただけませんか?」
「え? 僕はアヴェリアと踊るって決めてるから、ごめんね」
「そんな……どうしても駄目ですか?」

 うるっ、と目を潤ませてフォリオに懇願する。
 しかし、チラリとアヴェリアに向けた視線は愛らしさとはほど遠い、鋭いものだった。なるほど、とアヴェリアは納得する。

「二人目ならよろしいのでは? 他の方と踊ることも必要ですわよ」
「うーん……君がそう言うなら」

 幸いなことに、フォリオはアリアに興味を示していない様子だった。
 アリアはおそらくの方であろうと当たりをつけておく。しかし、ずっとアヴェリアとだけ踊っていたのでは、せっかく運命の相手がいるかもしれないというのに、出会わずに終わってしまうかもしれない。

「嬉しいです!」

 満面の笑みでアリアはフォリオを見つめた。
 今はまだ、礼儀知らずの幼い子どもだと言い訳もできる。しばらく泳がせて様子を見ようと、無邪気にはしゃいでいるように見えるアリアを、アヴェリアは冷ややかに眺めた。

 一曲目は、アヴェリアとフォリオが踊ることになった。
 相変わらずアヴェリアは完璧に踊ってみせる。フォリオのぎこちなさをカバーするように、上手くリードすらしてみせた。

(これじゃあ、僕がエスコートされてるみたいだな……でも、そんなカッコいいところも素敵だ)

 誰もが二人のダンスに見惚れる中、アリアだけは不満そうな表情を浮かべているのを、アヴェリアは見逃さなかった。

(やはり、彼女は危険ですわね)

 お辞儀をして、二曲目に変わる。
 アリアは、待ってましたとばかりにフォリオの元に駆け寄った。
 名残惜しそうなフォリオを横目に、アヴェリアは待ち構えていた兄とダンスを踊る。

「ああ、可愛らしく美しい妹よ。ようやく魔の手から解放されたね」

 相変わらずの兄の溺愛ぶりに、アヴェリアは苦笑する。
 その後のダンスは、曲ごとにパートナーが変わって踊っていった。もちろんフォリオも様々な少女たちと踊ることになったが、アリアが何度もフォリオと踊ろうと機会を窺っていた。
 しかし、まったく気のない様子のフォリオに惨敗したようだ。

 危険人物と遭遇しつつも、何とか無事にパーティーは終了した。
 アリア嬢に気を取られていたが、フォリオの運命の相手がいたかもしれない。そう思い、本人に聞いてみる。

「どうでしたか、今日のパーティーは。気になるご令嬢はいませんでしたか?」
「うーん、やっぱり今日の主役はアヴェリアだけだったね!!」

 本気でそう言っているフォリオを前に、アヴェリアは深いため息をつくのだった。
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