19 / 94
第3幕 社交界の華の乙女
18
しおりを挟む
社交界の華。
まだ幼い令嬢たちが集まる今日のデビュタントで、まさかそう呼ばれる少女が現れるとは、ほとんどの大人たちが思っていなかった。
ただ可愛らしい子どもの遊び場となるだけ、上手くいけば良家との繋がりが作れるだろうとしか考えていなかった保護者たちは、会場に舞い降りた乙女に目を奪われる。
「ブラウローゼ公爵家より、アヴェリア様のご入場です!」
ブラウローゼ公爵家の愛娘が預言者だという話は、どの貴族でも知っている。興味本位でそちらに視線を向けた大人たちは、言葉を失った。
隣にいるのが王太子であることが霞むくらい、アヴェリアは輝きを放っていた。間違いなく、今日の主役は彼女であると、誰もが理解した。
5歳とは思えぬ気品、完璧な所作。美しさの中に、幼さ特有の可愛らしさまでもを兼ね備えた彼女に、一瞬で心を奪われた令息が何人いたかなど、もはや分からない。
パートナーが王太子であることに気がついた時も、「あ、殿下いたんだ……」くらいの温度差があった。
国王陛下並びに王妃殿下の座る席まで移動すると、アヴェリアは完璧なカーテシーを披露する。国王と王妃ですら、その姿に、「ほぅ……」と見惚れていた。
「国王陛下、王妃殿下にご挨拶申し上げます」
「よく来てくれた、アヴェリア嬢。いつも我が愚息が迷惑をかけてすまないな。今日は記念すべき日だ。楽しんでいってくれ」
「恐れ入ります」
今回こそはちゃんとするのだぞ、とフォリオは父から鋭い視線を向けられる。
「ちゃんとエスコートなさいね、王子」
母からも念押しされ、フォリオは改めて気を引き締めた。
「アヴェリア、行こうか」
「ええ」
挨拶を終えると、フォリオの手を取りながら、アヴェリアは会場の端の方に移動する。移動中ですら、彼女は多くの視線を集めていた。
(この中に、フォリオ殿下に長らく付きまとう悪い虫がいるのですね)
(アヴェリアに寄ってくる邪なやつらから、絶対に守らないと!)
二人はそれぞれ互いのことを考えながら、令嬢、令息たちが陛下に挨拶をしていくのを眺めていた。
「アヴェリア嬢は、殿下の婚約者なのか?」
「いや、そんな話は聞いていないが……その可能性は高いだろうな」
アヴェリアが預言者だということは知っていても、課せられた使命まで知っている人間は多くない。今のところ、王族と家族、そしてキリーくらいだ。
何も知らない貴族たちの話が耳に入ってくると、フォリオは胸が締め付けられる思いだった。
(僕の婚約者だなんて、そんなことあり得ないのに)
そんなフォリオの気持ちに気づいてか、アヴェリアがそっと手を握る。
「殿下、お気になさらず。今日は私のエスコートを完璧にしてくださるのでしょう?」
こういうことをされると、余計に意識してしまうではないか。彼女への想いは捨て去らねばならないのに、彼女と一緒に過ごせば過ごすほど、実らない想いを募らせてしまう。
「うん。今日は君にとって素晴らしい日にしてみせるよ」
それを押し隠して、必死に笑顔を作るので精一杯だった。
まだ幼い令嬢たちが集まる今日のデビュタントで、まさかそう呼ばれる少女が現れるとは、ほとんどの大人たちが思っていなかった。
ただ可愛らしい子どもの遊び場となるだけ、上手くいけば良家との繋がりが作れるだろうとしか考えていなかった保護者たちは、会場に舞い降りた乙女に目を奪われる。
「ブラウローゼ公爵家より、アヴェリア様のご入場です!」
ブラウローゼ公爵家の愛娘が預言者だという話は、どの貴族でも知っている。興味本位でそちらに視線を向けた大人たちは、言葉を失った。
隣にいるのが王太子であることが霞むくらい、アヴェリアは輝きを放っていた。間違いなく、今日の主役は彼女であると、誰もが理解した。
5歳とは思えぬ気品、完璧な所作。美しさの中に、幼さ特有の可愛らしさまでもを兼ね備えた彼女に、一瞬で心を奪われた令息が何人いたかなど、もはや分からない。
パートナーが王太子であることに気がついた時も、「あ、殿下いたんだ……」くらいの温度差があった。
国王陛下並びに王妃殿下の座る席まで移動すると、アヴェリアは完璧なカーテシーを披露する。国王と王妃ですら、その姿に、「ほぅ……」と見惚れていた。
「国王陛下、王妃殿下にご挨拶申し上げます」
「よく来てくれた、アヴェリア嬢。いつも我が愚息が迷惑をかけてすまないな。今日は記念すべき日だ。楽しんでいってくれ」
「恐れ入ります」
今回こそはちゃんとするのだぞ、とフォリオは父から鋭い視線を向けられる。
「ちゃんとエスコートなさいね、王子」
母からも念押しされ、フォリオは改めて気を引き締めた。
「アヴェリア、行こうか」
「ええ」
挨拶を終えると、フォリオの手を取りながら、アヴェリアは会場の端の方に移動する。移動中ですら、彼女は多くの視線を集めていた。
(この中に、フォリオ殿下に長らく付きまとう悪い虫がいるのですね)
(アヴェリアに寄ってくる邪なやつらから、絶対に守らないと!)
二人はそれぞれ互いのことを考えながら、令嬢、令息たちが陛下に挨拶をしていくのを眺めていた。
「アヴェリア嬢は、殿下の婚約者なのか?」
「いや、そんな話は聞いていないが……その可能性は高いだろうな」
アヴェリアが預言者だということは知っていても、課せられた使命まで知っている人間は多くない。今のところ、王族と家族、そしてキリーくらいだ。
何も知らない貴族たちの話が耳に入ってくると、フォリオは胸が締め付けられる思いだった。
(僕の婚約者だなんて、そんなことあり得ないのに)
そんなフォリオの気持ちに気づいてか、アヴェリアがそっと手を握る。
「殿下、お気になさらず。今日は私のエスコートを完璧にしてくださるのでしょう?」
こういうことをされると、余計に意識してしまうではないか。彼女への想いは捨て去らねばならないのに、彼女と一緒に過ごせば過ごすほど、実らない想いを募らせてしまう。
「うん。今日は君にとって素晴らしい日にしてみせるよ」
それを押し隠して、必死に笑顔を作るので精一杯だった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる