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第3幕 社交界の華の乙女
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社交界の華。
まだ幼い令嬢たちが集まる今日のデビュタントで、まさかそう呼ばれる少女が現れるとは、ほとんどの大人たちが思っていなかった。
ただ可愛らしい子どもの遊び場となるだけ、上手くいけば良家との繋がりが作れるだろうとしか考えていなかった保護者たちは、会場に舞い降りた乙女に目を奪われる。
「ブラウローゼ公爵家より、アヴェリア様のご入場です!」
ブラウローゼ公爵家の愛娘が預言者だという話は、どの貴族でも知っている。興味本位でそちらに視線を向けた大人たちは、言葉を失った。
隣にいるのが王太子であることが霞むくらい、アヴェリアは輝きを放っていた。間違いなく、今日の主役は彼女であると、誰もが理解した。
5歳とは思えぬ気品、完璧な所作。美しさの中に、幼さ特有の可愛らしさまでもを兼ね備えた彼女に、一瞬で心を奪われた令息が何人いたかなど、もはや分からない。
パートナーが王太子であることに気がついた時も、「あ、殿下いたんだ……」くらいの温度差があった。
国王陛下並びに王妃殿下の座る席まで移動すると、アヴェリアは完璧なカーテシーを披露する。国王と王妃ですら、その姿に、「ほぅ……」と見惚れていた。
「国王陛下、王妃殿下にご挨拶申し上げます」
「よく来てくれた、アヴェリア嬢。いつも我が愚息が迷惑をかけてすまないな。今日は記念すべき日だ。楽しんでいってくれ」
「恐れ入ります」
今回こそはちゃんとするのだぞ、とフォリオは父から鋭い視線を向けられる。
「ちゃんとエスコートなさいね、王子」
母からも念押しされ、フォリオは改めて気を引き締めた。
「アヴェリア、行こうか」
「ええ」
挨拶を終えると、フォリオの手を取りながら、アヴェリアは会場の端の方に移動する。移動中ですら、彼女は多くの視線を集めていた。
(この中に、フォリオ殿下に長らく付きまとう悪い虫がいるのですね)
(アヴェリアに寄ってくる邪なやつらから、絶対に守らないと!)
二人はそれぞれ互いのことを考えながら、令嬢、令息たちが陛下に挨拶をしていくのを眺めていた。
「アヴェリア嬢は、殿下の婚約者なのか?」
「いや、そんな話は聞いていないが……その可能性は高いだろうな」
アヴェリアが預言者だということは知っていても、課せられた使命まで知っている人間は多くない。今のところ、王族と家族、そしてキリーくらいだ。
何も知らない貴族たちの話が耳に入ってくると、フォリオは胸が締め付けられる思いだった。
(僕の婚約者だなんて、そんなことあり得ないのに)
そんなフォリオの気持ちに気づいてか、アヴェリアがそっと手を握る。
「殿下、お気になさらず。今日は私のエスコートを完璧にしてくださるのでしょう?」
こういうことをされると、余計に意識してしまうではないか。彼女への想いは捨て去らねばならないのに、彼女と一緒に過ごせば過ごすほど、実らない想いを募らせてしまう。
「うん。今日は君にとって素晴らしい日にしてみせるよ」
それを押し隠して、必死に笑顔を作るので精一杯だった。
まだ幼い令嬢たちが集まる今日のデビュタントで、まさかそう呼ばれる少女が現れるとは、ほとんどの大人たちが思っていなかった。
ただ可愛らしい子どもの遊び場となるだけ、上手くいけば良家との繋がりが作れるだろうとしか考えていなかった保護者たちは、会場に舞い降りた乙女に目を奪われる。
「ブラウローゼ公爵家より、アヴェリア様のご入場です!」
ブラウローゼ公爵家の愛娘が預言者だという話は、どの貴族でも知っている。興味本位でそちらに視線を向けた大人たちは、言葉を失った。
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パートナーが王太子であることに気がついた時も、「あ、殿下いたんだ……」くらいの温度差があった。
国王陛下並びに王妃殿下の座る席まで移動すると、アヴェリアは完璧なカーテシーを披露する。国王と王妃ですら、その姿に、「ほぅ……」と見惚れていた。
「国王陛下、王妃殿下にご挨拶申し上げます」
「よく来てくれた、アヴェリア嬢。いつも我が愚息が迷惑をかけてすまないな。今日は記念すべき日だ。楽しんでいってくれ」
「恐れ入ります」
今回こそはちゃんとするのだぞ、とフォリオは父から鋭い視線を向けられる。
「ちゃんとエスコートなさいね、王子」
母からも念押しされ、フォリオは改めて気を引き締めた。
「アヴェリア、行こうか」
「ええ」
挨拶を終えると、フォリオの手を取りながら、アヴェリアは会場の端の方に移動する。移動中ですら、彼女は多くの視線を集めていた。
(この中に、フォリオ殿下に長らく付きまとう悪い虫がいるのですね)
(アヴェリアに寄ってくる邪なやつらから、絶対に守らないと!)
二人はそれぞれ互いのことを考えながら、令嬢、令息たちが陛下に挨拶をしていくのを眺めていた。
「アヴェリア嬢は、殿下の婚約者なのか?」
「いや、そんな話は聞いていないが……その可能性は高いだろうな」
アヴェリアが預言者だということは知っていても、課せられた使命まで知っている人間は多くない。今のところ、王族と家族、そしてキリーくらいだ。
何も知らない貴族たちの話が耳に入ってくると、フォリオは胸が締め付けられる思いだった。
(僕の婚約者だなんて、そんなことあり得ないのに)
そんなフォリオの気持ちに気づいてか、アヴェリアがそっと手を握る。
「殿下、お気になさらず。今日は私のエスコートを完璧にしてくださるのでしょう?」
こういうことをされると、余計に意識してしまうではないか。彼女への想いは捨て去らねばならないのに、彼女と一緒に過ごせば過ごすほど、実らない想いを募らせてしまう。
「うん。今日は君にとって素晴らしい日にしてみせるよ」
それを押し隠して、必死に笑顔を作るので精一杯だった。
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