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第3幕 社交界の華の乙女
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時はあっという間に過ぎ、社交界デビュー当日の朝。
「まぁ……本当に美しいわ」
アヴェリアの身支度の総指揮を務めていた母が、感嘆の声を漏らす。我が娘ながら、女神さえも霞む輝きを放っているわ、などと大それたことを口にしている。
デビュタントということで、普段は着る機会のほとんどない純白のドレスに身を包み、ベールこそないものの、まるで花嫁のようだ。
うちの娘は嫁にはやらん……と、複雑な思いを抱きながら、父は涙ぐむ。
「お父様、お母様、落ち着いてくださいませ。そろそろ殿下がいらっしゃいます」
その言葉に、父と兄がピキリと青筋をたてる。
「あの小僧……」
「本当なら、私がエスコートするはずだったのに、あの野郎……」
どす黒いオーラが、2人の後ろに見えるようだった。
どうにか2人を宥めているうちに、フォリオを乗せた馬車が公爵家の前に到着する。
「アヴェリア、待たせて申し訳な……」
挨拶にやってきたフォリオは、思わず見惚れてしまい言葉が出なくなった。
「時間ぴったりですわ。殿下? どうされました?」
「とても綺麗だ……」
反射的にそう言葉に出すと、小動物を狙う猛獣のような視線が2つ、アヴェリアの後方から突き刺さった。
慌てて咳払いし、アヴェリアに手を差し出す。
「き、今日のエスコートは任せてよ!」
「ありがとうございます。では、参りましょうか」
フォリオの手をとって、アヴェリアは王宮へ向かう馬車に乗り込む。両親と兄は、別の馬車で後から向かうことになっているので、しばらくお別れだ。
父と兄は、アヴェリアの乗った馬車が見えなくなるまで、怯みあがるような視線を送り続けていた。
◇◇◇◇
アヴェリアと同じ馬車に乗ったフォリオは、ドキドキと高鳴る胸を抑えられなかった。
(こんなに綺麗なんじゃ、色々な令息たちが寄ってきそうだな。邪なやつらからは、僕が守らないと!)
いつも美しいアヴェリアだが、今日はいつにも増して磨きがかかっていた。緊張して、汗が止まらない。
「そういえば、煙霧盗賊団ですけれど」
王宮に着くまで時間ができたので、アヴェリアは王太子の馬車を襲った盗賊団のその後を話した。
思考が逸れたことで、フォリオも少し落ち着きを取り戻す。
「今は公爵家の影として、立派に教育を受けていますわ」
「君の役に立ちそうかい?」
「ええ。今日も、実は一人だけ連れて行くつもりですの。後から合流するはずですわ」
まだ信頼がおけないからと、最初は連れて行くことを渋られた。しかし、フォリオに今後付きまとう悪い虫を見極めるには、人手が多いに越したことはない。
夢の中で神と対話し、キリーであれば信頼しても大丈夫だというお墨付きをもらったこともあり、彼を今回のパーティーに同行させることにしていた。
もちろん、彼は影の人間であり、表立ってアヴェリアたちの前に姿を表すことはない。
「彼がいるなら、心強いですから」
「出会ったばかりなのに、随分と信頼しているんだね」
少しばかり、フォリオは複雑な気持ちになる。
「神託もありましたから。ふふ、彼よりも一緒に過ごした時間の短い殿下のことも、私は信頼しているのですけれど?」
そう微笑まれれば、少しの不安など些細なこと。
顔を真っ赤にするフォリオを面白そうに眺めながら、アヴェリアは王宮までの道中を楽しんでいた。
「まぁ……本当に美しいわ」
アヴェリアの身支度の総指揮を務めていた母が、感嘆の声を漏らす。我が娘ながら、女神さえも霞む輝きを放っているわ、などと大それたことを口にしている。
デビュタントということで、普段は着る機会のほとんどない純白のドレスに身を包み、ベールこそないものの、まるで花嫁のようだ。
うちの娘は嫁にはやらん……と、複雑な思いを抱きながら、父は涙ぐむ。
「お父様、お母様、落ち着いてくださいませ。そろそろ殿下がいらっしゃいます」
その言葉に、父と兄がピキリと青筋をたてる。
「あの小僧……」
「本当なら、私がエスコートするはずだったのに、あの野郎……」
どす黒いオーラが、2人の後ろに見えるようだった。
どうにか2人を宥めているうちに、フォリオを乗せた馬車が公爵家の前に到着する。
「アヴェリア、待たせて申し訳な……」
挨拶にやってきたフォリオは、思わず見惚れてしまい言葉が出なくなった。
「時間ぴったりですわ。殿下? どうされました?」
「とても綺麗だ……」
反射的にそう言葉に出すと、小動物を狙う猛獣のような視線が2つ、アヴェリアの後方から突き刺さった。
慌てて咳払いし、アヴェリアに手を差し出す。
「き、今日のエスコートは任せてよ!」
「ありがとうございます。では、参りましょうか」
フォリオの手をとって、アヴェリアは王宮へ向かう馬車に乗り込む。両親と兄は、別の馬車で後から向かうことになっているので、しばらくお別れだ。
父と兄は、アヴェリアの乗った馬車が見えなくなるまで、怯みあがるような視線を送り続けていた。
◇◇◇◇
アヴェリアと同じ馬車に乗ったフォリオは、ドキドキと高鳴る胸を抑えられなかった。
(こんなに綺麗なんじゃ、色々な令息たちが寄ってきそうだな。邪なやつらからは、僕が守らないと!)
いつも美しいアヴェリアだが、今日はいつにも増して磨きがかかっていた。緊張して、汗が止まらない。
「そういえば、煙霧盗賊団ですけれど」
王宮に着くまで時間ができたので、アヴェリアは王太子の馬車を襲った盗賊団のその後を話した。
思考が逸れたことで、フォリオも少し落ち着きを取り戻す。
「今は公爵家の影として、立派に教育を受けていますわ」
「君の役に立ちそうかい?」
「ええ。今日も、実は一人だけ連れて行くつもりですの。後から合流するはずですわ」
まだ信頼がおけないからと、最初は連れて行くことを渋られた。しかし、フォリオに今後付きまとう悪い虫を見極めるには、人手が多いに越したことはない。
夢の中で神と対話し、キリーであれば信頼しても大丈夫だというお墨付きをもらったこともあり、彼を今回のパーティーに同行させることにしていた。
もちろん、彼は影の人間であり、表立ってアヴェリアたちの前に姿を表すことはない。
「彼がいるなら、心強いですから」
「出会ったばかりなのに、随分と信頼しているんだね」
少しばかり、フォリオは複雑な気持ちになる。
「神託もありましたから。ふふ、彼よりも一緒に過ごした時間の短い殿下のことも、私は信頼しているのですけれど?」
そう微笑まれれば、少しの不安など些細なこと。
顔を真っ赤にするフォリオを面白そうに眺めながら、アヴェリアは王宮までの道中を楽しんでいた。
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