ここからは私の独壇場です

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
17 / 94
第3幕 社交界の華の乙女

16

しおりを挟む
 煙霧盗賊団スモッグ・ギャング改め、ブラウローゼ公爵家隠密部隊スモッグは、その道の専門家から指導を受け、着実に公爵家の影として育てられていた。
 しかし、アヴェリアの前では、無邪気に遊ぶ子どもたちそのものである。
 キリーの提案で、アヴェリアもその輪に加わっているが、少しずつ彼が幼少期に遊ぶことの大切さを説いていた理由を感じるようになっていた。

「不思議なものですね。子どもの遊びなんて、今更何の意味があるのかと思っていましたが、存外面白いものです」 

 かくれんぼや鬼ごっこ。木登り……は流石に令嬢にはさせられないと思っていたキリーだったが、子どもたちの誰より早くのぼりきってしまった。

「最初はどうなるかと思ったが、溶け込むのが早かったな」

 木に登ったアヴェリアの隣に座り、キリーは頑張って登ってこようとする子どもたちが危なくないように見張っている。

「おかげで視野が広がりましたわ」

 負けず嫌いなところのあるアヴェリアは、スモッグの子どもたちと一緒に本気で遊んでいた。
 元々運動神経抜群な彼女は、普通の令嬢であれば到底しないであろう遊びにも、何食わぬ顔でついてきた。今では、スモッグの子どもたちからも一目置かれる存在になっている。
 そうやって同年代の子どもたちと遊んでいる様子だけを見れば、アヴェリアも普通の少女と何ら変わらないように思えた。

「ただなぁ、ままごとに関してはリアリティが高すぎないか?」
「あら、その方が面白いでしょう?」

 様々な遊びの中で、アヴェリアが特に気に入ったのは「おままごと」だった。
 子どもらしくてよいではないかと最初は思っていたキリーだったが、そのあまりの迫真の演技ぶりには苦笑することも。
 「おままごと」のきっかけは、スモッグの子どもたちが、アヴェリアのことを本物のお姫様のようだと言い、舞踏会ごっこを始めたことだ。
 お姫様を演じるアヴェリアの姿は、まさしく姫そのものであり、様になっていた。しかし、だんだんと彼女は、召使いであったり、意地悪な継母であったりと、姫とはかけ離れた役を好んでやりたがった。

「自分とは違う自分になれるなんて、こういう機会でもないと無理でしょう?」

 それが彼女の言い分だった。
 しかし、その迫真の演技ぶりに、継母役を務めた時はスモッグの子どもたちが泣き喚いてなだめるのが大変だったこともある。

「楽しそうで何よりで」

 子どもらしくしろと自分が言った手前、キリーはただ見守るしかなかった。

「今度、本当にお姫様になるんだろ?」

 社交界デビューをするという話を聞いていたキリーは、アヴェリアに問いかける。
 普段、特に着飾らずとも輝いているアヴェリアであれば、当日は間違いなく社交界の華となるだろう。その姿は、子どもたちが絵本で見るお姫様そのものに違いない。

「お父様が無理を通しましたからね。まぁ、神託もありましたし、参加しないわけにはいきませんわ」
「神はなんだって?」

 アヴェリアを縛る使命という名の鎖。

「今後、フォリオ殿下に長らく付きまとうが現れるそうです。その人物を見極めよ、と」

 また王太子の話か、とキリーはため息をつく。
 しかし、そんな彼とは裏腹に、アヴェリアは面白そうに口元を歪ませるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

処理中です...