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第3幕 社交界の華の乙女
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煙霧盗賊団改め、ブラウローゼ公爵家隠密部隊スモッグは、その道の専門家から指導を受け、着実に公爵家の影として育てられていた。
しかし、アヴェリアの前では、無邪気に遊ぶ子どもたちそのものである。
キリーの提案で、アヴェリアもその輪に加わっているが、少しずつ彼が幼少期に遊ぶことの大切さを説いていた理由を感じるようになっていた。
「不思議なものですね。子どもの遊びなんて、今更何の意味があるのかと思っていましたが、存外面白いものです」
かくれんぼや鬼ごっこ。木登り……は流石に令嬢にはさせられないと思っていたキリーだったが、子どもたちの誰より早くのぼりきってしまった。
「最初はどうなるかと思ったが、溶け込むのが早かったな」
木に登ったアヴェリアの隣に座り、キリーは頑張って登ってこようとする子どもたちが危なくないように見張っている。
「おかげで視野が広がりましたわ」
負けず嫌いなところのあるアヴェリアは、スモッグの子どもたちと一緒に本気で遊んでいた。
元々運動神経抜群な彼女は、普通の令嬢であれば到底しないであろう遊びにも、何食わぬ顔でついてきた。今では、スモッグの子どもたちからも一目置かれる存在になっている。
そうやって同年代の子どもたちと遊んでいる様子だけを見れば、アヴェリアも普通の少女と何ら変わらないように思えた。
「ただなぁ、ままごとに関してはリアリティが高すぎないか?」
「あら、その方が面白いでしょう?」
様々な遊びの中で、アヴェリアが特に気に入ったのは「おままごと」だった。
子どもらしくてよいではないかと最初は思っていたキリーだったが、そのあまりの迫真の演技ぶりには苦笑することも。
「おままごと」のきっかけは、スモッグの子どもたちが、アヴェリアのことを本物のお姫様のようだと言い、舞踏会ごっこを始めたことだ。
お姫様を演じるアヴェリアの姿は、まさしく姫そのものであり、様になっていた。しかし、だんだんと彼女は、召使いであったり、意地悪な継母であったりと、姫とはかけ離れた役を好んでやりたがった。
「自分とは違う自分になれるなんて、こういう機会でもないと無理でしょう?」
それが彼女の言い分だった。
しかし、その迫真の演技ぶりに、継母役を務めた時はスモッグの子どもたちが泣き喚いてなだめるのが大変だったこともある。
「楽しそうで何よりで」
子どもらしくしろと自分が言った手前、キリーはただ見守るしかなかった。
「今度、本当にお姫様になるんだろ?」
社交界デビューをするという話を聞いていたキリーは、アヴェリアに問いかける。
普段、特に着飾らずとも輝いているアヴェリアであれば、当日は間違いなく社交界の華となるだろう。その姿は、子どもたちが絵本で見るお姫様そのものに違いない。
「お父様が無理を通しましたからね。まぁ、神託もありましたし、参加しないわけにはいきませんわ」
「神はなんだって?」
アヴェリアを縛る使命という名の鎖。
「今後、フォリオ殿下に長らく付きまとう悪い虫が現れるそうです。その人物を見極めよ、と」
また王太子の話か、とキリーはため息をつく。
しかし、そんな彼とは裏腹に、アヴェリアは面白そうに口元を歪ませるのだった。
しかし、アヴェリアの前では、無邪気に遊ぶ子どもたちそのものである。
キリーの提案で、アヴェリアもその輪に加わっているが、少しずつ彼が幼少期に遊ぶことの大切さを説いていた理由を感じるようになっていた。
「不思議なものですね。子どもの遊びなんて、今更何の意味があるのかと思っていましたが、存外面白いものです」
かくれんぼや鬼ごっこ。木登り……は流石に令嬢にはさせられないと思っていたキリーだったが、子どもたちの誰より早くのぼりきってしまった。
「最初はどうなるかと思ったが、溶け込むのが早かったな」
木に登ったアヴェリアの隣に座り、キリーは頑張って登ってこようとする子どもたちが危なくないように見張っている。
「おかげで視野が広がりましたわ」
負けず嫌いなところのあるアヴェリアは、スモッグの子どもたちと一緒に本気で遊んでいた。
元々運動神経抜群な彼女は、普通の令嬢であれば到底しないであろう遊びにも、何食わぬ顔でついてきた。今では、スモッグの子どもたちからも一目置かれる存在になっている。
そうやって同年代の子どもたちと遊んでいる様子だけを見れば、アヴェリアも普通の少女と何ら変わらないように思えた。
「ただなぁ、ままごとに関してはリアリティが高すぎないか?」
「あら、その方が面白いでしょう?」
様々な遊びの中で、アヴェリアが特に気に入ったのは「おままごと」だった。
子どもらしくてよいではないかと最初は思っていたキリーだったが、そのあまりの迫真の演技ぶりには苦笑することも。
「おままごと」のきっかけは、スモッグの子どもたちが、アヴェリアのことを本物のお姫様のようだと言い、舞踏会ごっこを始めたことだ。
お姫様を演じるアヴェリアの姿は、まさしく姫そのものであり、様になっていた。しかし、だんだんと彼女は、召使いであったり、意地悪な継母であったりと、姫とはかけ離れた役を好んでやりたがった。
「自分とは違う自分になれるなんて、こういう機会でもないと無理でしょう?」
それが彼女の言い分だった。
しかし、その迫真の演技ぶりに、継母役を務めた時はスモッグの子どもたちが泣き喚いてなだめるのが大変だったこともある。
「楽しそうで何よりで」
子どもらしくしろと自分が言った手前、キリーはただ見守るしかなかった。
「今度、本当にお姫様になるんだろ?」
社交界デビューをするという話を聞いていたキリーは、アヴェリアに問いかける。
普段、特に着飾らずとも輝いているアヴェリアであれば、当日は間違いなく社交界の華となるだろう。その姿は、子どもたちが絵本で見るお姫様そのものに違いない。
「お父様が無理を通しましたからね。まぁ、神託もありましたし、参加しないわけにはいきませんわ」
「神はなんだって?」
アヴェリアを縛る使命という名の鎖。
「今後、フォリオ殿下に長らく付きまとう悪い虫が現れるそうです。その人物を見極めよ、と」
また王太子の話か、とキリーはため息をつく。
しかし、そんな彼とは裏腹に、アヴェリアは面白そうに口元を歪ませるのだった。
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