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第3幕 社交界の華の乙女
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社交界デビューが決まった翌日、初対面時の謝罪のために、フォリオは再び公爵家を訪れていた。
アヴェリアの事情も知らず、婚約者になって欲しいなどと軽率なことを考えてしまったことを詫びた。
当のアヴェリアは気にしておらず、すぐに謝罪を受け入れる。しかし、その後ろに立って構えている兄グロウは、目が笑っていなかった。
謝罪を終えてから、フォリオは社交界デビューの話題を持ち出す。なぜ、本来ならば15歳にならなければ認められないはずのデビュタントが、5歳まで引き下げられたのか、その事情は国王である父から聞いていた。
パーティーは、王宮で行われる。当日は、アヴェリアが困ることのないように万全の準備をしておくつもりだ。
そして、できることなら、パーティー中は傍で彼女のことを守りたいと思っていた。
「アヴェリア、まだパートナーが決まっていなければ、僕にエスコートをーー」
「当日のエスコートは、私がすることになりました。初めてのパーティーですし、身内の方が安心できるでしょう」
食い気味に、兄グロウは答えた。
フォリオに口を挟む隙を与えず、グロウは続ける。
「今回は王宮でパーティーが行われるのですから、殿下は最初からご自分の席に座っていてください」
王太子であるフォリオには、もちろん王族の座る一番いい席が用意されている。しかし、一度座ってしまえば、貴族たちの挨拶が延々と続くばかりで、アヴェリアと顔を合わせることはほぼない。
「どうしてもパートナーが必要なら、他の令嬢を当たってください」
可愛い妹に悪い虫を近づけさせまいと、兄はいい笑顔を浮かべた。
しかし、そんな兄の想いと裏腹に、アヴェリアは言い放つ。
「お兄様、私は今回のエスコートをフォリオ様にお願いしようと思いますわ」
「えええっ!?」
まさか兄である自分のエスコートを断り、フォリオを選ぶとは思っていなかったグロウは、叫び声をあげた。
あたりにいた使用人たちが、何だ何だと駆けつけてくるくらいには、屋敷中に響く声だった。
「私も初めはお兄様にお願いするつもりでしたが、神託があったのです」
キンキンする耳を抑えながら、アヴェリアは冷静に答える。
「今回のデビュタントは、例外中の例外です。まだ婚約者の決まっていない殿下に寄ってくるご令嬢も多いことでしょう。私がパートナーであれば、いくらかふるいにかけることができるというものです」
今回のパーティーに参加する令嬢は多い。それは、王太子も参加すると聞きつけた彼女たちの親が、あわよくばお近づきになろうという意図も感じられた。
公爵令嬢にして預言者という、強いカードをもったアヴェリアがパートナーならば、寄ってこれる令嬢も限られる。
フォリオの運命の相手を見つけるという使命を負った彼女にとって、悪い虫がつかないように行動するのは至極当然のことだった。
「私がパートナーだというのに、身の程も知らずに寄ってくるご令嬢がいたならば、それは今後も警戒すべき相手となるはずです」
自分のデビュタントだというのに、ここでも預言者の使命に縛られるアヴェリアに対して、フォリオは胸が痛んだ。
アヴェリアの事情も知らず、婚約者になって欲しいなどと軽率なことを考えてしまったことを詫びた。
当のアヴェリアは気にしておらず、すぐに謝罪を受け入れる。しかし、その後ろに立って構えている兄グロウは、目が笑っていなかった。
謝罪を終えてから、フォリオは社交界デビューの話題を持ち出す。なぜ、本来ならば15歳にならなければ認められないはずのデビュタントが、5歳まで引き下げられたのか、その事情は国王である父から聞いていた。
パーティーは、王宮で行われる。当日は、アヴェリアが困ることのないように万全の準備をしておくつもりだ。
そして、できることなら、パーティー中は傍で彼女のことを守りたいと思っていた。
「アヴェリア、まだパートナーが決まっていなければ、僕にエスコートをーー」
「当日のエスコートは、私がすることになりました。初めてのパーティーですし、身内の方が安心できるでしょう」
食い気味に、兄グロウは答えた。
フォリオに口を挟む隙を与えず、グロウは続ける。
「今回は王宮でパーティーが行われるのですから、殿下は最初からご自分の席に座っていてください」
王太子であるフォリオには、もちろん王族の座る一番いい席が用意されている。しかし、一度座ってしまえば、貴族たちの挨拶が延々と続くばかりで、アヴェリアと顔を合わせることはほぼない。
「どうしてもパートナーが必要なら、他の令嬢を当たってください」
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しかし、そんな兄の想いと裏腹に、アヴェリアは言い放つ。
「お兄様、私は今回のエスコートをフォリオ様にお願いしようと思いますわ」
「えええっ!?」
まさか兄である自分のエスコートを断り、フォリオを選ぶとは思っていなかったグロウは、叫び声をあげた。
あたりにいた使用人たちが、何だ何だと駆けつけてくるくらいには、屋敷中に響く声だった。
「私も初めはお兄様にお願いするつもりでしたが、神託があったのです」
キンキンする耳を抑えながら、アヴェリアは冷静に答える。
「今回のデビュタントは、例外中の例外です。まだ婚約者の決まっていない殿下に寄ってくるご令嬢も多いことでしょう。私がパートナーであれば、いくらかふるいにかけることができるというものです」
今回のパーティーに参加する令嬢は多い。それは、王太子も参加すると聞きつけた彼女たちの親が、あわよくばお近づきになろうという意図も感じられた。
公爵令嬢にして預言者という、強いカードをもったアヴェリアがパートナーならば、寄ってこれる令嬢も限られる。
フォリオの運命の相手を見つけるという使命を負った彼女にとって、悪い虫がつかないように行動するのは至極当然のことだった。
「私がパートナーだというのに、身の程も知らずに寄ってくるご令嬢がいたならば、それは今後も警戒すべき相手となるはずです」
自分のデビュタントだというのに、ここでも預言者の使命に縛られるアヴェリアに対して、フォリオは胸が痛んだ。
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