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第2幕 白馬に乗った乙女
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「私に与えられた使命は、この国の王太子の運命の相手を見つけること。あなたの年齢まで生きられるかも分かりませんわ」
何でもないことのように、アヴェリアは言ってのける。
幼いが故に、生死の概念が薄いわけではない。生まれてから神と対話してきた彼女は、大人顔負けの思考力を持っている。
ただ、自分に与えられた使命を呪うでもなく、運命を悲観するでもなく、真っ向から対峙する精神力を備えているだけだ。
貴族や王族が婚約者を定めるのは、遅くても15歳くらいまで。それよりも早く、幼少の頃に決まることも珍しくない。
王太子であるフォリオに婚約者ができれば、アヴェリアは使命を果たしたことになる。
なるほど、時間がないという彼女の言葉にキリーは納得した。それと同時に、煙霧盗賊団で面倒を見ていた子どもたちと変わらない年齢のアヴェリアに、憐れみを感じるのだった。
「だったら、あの時、俺たちのことを止めなければよかったじゃねぇか」
フォリオがいなくなれば、アヴェリアの寿命は伸びるだろう。その絶好のチャンスだったというのに。
しかし、アヴェリアは穏やかに微笑む。
「使命には逆らえない。それが、預言者の運命ですから。それに、あなたたちは金品を盗むことはあっても、人の命までは奪わない。そうでしょう?」
すべてを見透かされているような黄金の瞳。
最初こそ気味の悪さを感じていたキリーだったが、今はアヴェリアを縛る見えない鎖以外の何物にも思えなかった。
「あなたたちのような子どもがこれ以上増えないように、私はフォリオ殿下に相応しい、聡明なパートナーを見つけるつもりです」
十分お前も子どもだろう。
根本的に面倒見の良い兄貴肌であるキリーは、すっかりアヴェリアに対する敵対心が薄れていた。
自分よりも幼い子どもが、生まれた時から定められた運命に縛られ、自由に生きることも許されない。
それなのに、他人のために生きることが当然のように振る舞っている。
子どもらしい子どもになれなかった少女。大人びた態度も、そうせざるを得なかっただけ。
「お前も、うちのガキどもくらい可愛げがあればな」
子どもたちに我儘を言われても、最初は突っぱねる。だが、最終的に折れるのはキリーだった。
「分かった。どうせ俺たちの運命はお前の手にかかってるんだ。犬にでも何でもなってやるよ」
「よいお返事が聞けて安心しましたわ」
「危ない仕事は、全部俺に回せ。他のガキどもよりかは上手くやる」
「心配せずとも、あなたのお仲間たちを悪いようにはいたしません」
「それと」
キリーは続ける。
「俺の前では、もう少し子どもらしく振る舞ってくれないか?」
その言葉に、アヴェリアは首を傾げる。
「それに意味があるのですか?」
「生き急ぐことと、早く大人になることは違う。今しかできないこともあるんだぜ?」
幼少期から年下の子どもたちの面倒を見てきたキリーは、アヴェリアのことを人事だとは思えなかった。
自分はもう子どもには戻れないところまできてしまったが、アヴェリアはまだ間に合う。
「それなら、あなたが教えてくださいませ。子どもらしいとは何なのか」
しばらく考えていたアヴェリアだが、少し興味を持ったようだった。
「仕方ねぇなぁ。とりあえず、俺たちの処遇がはっきり決まったら、ガキどもと一緒に遊んでやるよ」
その後、キリーたち元・煙霧盗賊団は、ブラウローゼ公爵家の隠密部隊スモッグとして生まれ変わった。
そして、たびたび隠密部隊の子どもたちと一緒に遊ぶ令嬢の姿が見かけられるようになったという。
何でもないことのように、アヴェリアは言ってのける。
幼いが故に、生死の概念が薄いわけではない。生まれてから神と対話してきた彼女は、大人顔負けの思考力を持っている。
ただ、自分に与えられた使命を呪うでもなく、運命を悲観するでもなく、真っ向から対峙する精神力を備えているだけだ。
貴族や王族が婚約者を定めるのは、遅くても15歳くらいまで。それよりも早く、幼少の頃に決まることも珍しくない。
王太子であるフォリオに婚約者ができれば、アヴェリアは使命を果たしたことになる。
なるほど、時間がないという彼女の言葉にキリーは納得した。それと同時に、煙霧盗賊団で面倒を見ていた子どもたちと変わらない年齢のアヴェリアに、憐れみを感じるのだった。
「だったら、あの時、俺たちのことを止めなければよかったじゃねぇか」
フォリオがいなくなれば、アヴェリアの寿命は伸びるだろう。その絶好のチャンスだったというのに。
しかし、アヴェリアは穏やかに微笑む。
「使命には逆らえない。それが、預言者の運命ですから。それに、あなたたちは金品を盗むことはあっても、人の命までは奪わない。そうでしょう?」
すべてを見透かされているような黄金の瞳。
最初こそ気味の悪さを感じていたキリーだったが、今はアヴェリアを縛る見えない鎖以外の何物にも思えなかった。
「あなたたちのような子どもがこれ以上増えないように、私はフォリオ殿下に相応しい、聡明なパートナーを見つけるつもりです」
十分お前も子どもだろう。
根本的に面倒見の良い兄貴肌であるキリーは、すっかりアヴェリアに対する敵対心が薄れていた。
自分よりも幼い子どもが、生まれた時から定められた運命に縛られ、自由に生きることも許されない。
それなのに、他人のために生きることが当然のように振る舞っている。
子どもらしい子どもになれなかった少女。大人びた態度も、そうせざるを得なかっただけ。
「お前も、うちのガキどもくらい可愛げがあればな」
子どもたちに我儘を言われても、最初は突っぱねる。だが、最終的に折れるのはキリーだった。
「分かった。どうせ俺たちの運命はお前の手にかかってるんだ。犬にでも何でもなってやるよ」
「よいお返事が聞けて安心しましたわ」
「危ない仕事は、全部俺に回せ。他のガキどもよりかは上手くやる」
「心配せずとも、あなたのお仲間たちを悪いようにはいたしません」
「それと」
キリーは続ける。
「俺の前では、もう少し子どもらしく振る舞ってくれないか?」
その言葉に、アヴェリアは首を傾げる。
「それに意味があるのですか?」
「生き急ぐことと、早く大人になることは違う。今しかできないこともあるんだぜ?」
幼少期から年下の子どもたちの面倒を見てきたキリーは、アヴェリアのことを人事だとは思えなかった。
自分はもう子どもには戻れないところまできてしまったが、アヴェリアはまだ間に合う。
「それなら、あなたが教えてくださいませ。子どもらしいとは何なのか」
しばらく考えていたアヴェリアだが、少し興味を持ったようだった。
「仕方ねぇなぁ。とりあえず、俺たちの処遇がはっきり決まったら、ガキどもと一緒に遊んでやるよ」
その後、キリーたち元・煙霧盗賊団は、ブラウローゼ公爵家の隠密部隊スモッグとして生まれ変わった。
そして、たびたび隠密部隊の子どもたちと一緒に遊ぶ令嬢の姿が見かけられるようになったという。
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