13 / 94
第2幕 白馬に乗った乙女
12
しおりを挟む
目を覚ましたキリーは、状況を把握するのに時間を要した。
突如として白馬に乗って現れた預言者が、崖を馬に乗ったまま駆け降りてきて、俺の首めがけてラリアットをかましてきた。
いや、何が起こったんだ。
改めて考えてみても、預言者の少女の行動は理解できなかった。
「やっと目が覚めましたか」
ベッドの脇を見ると、気配もなく例の少女が椅子に座っていた。
何かの本を読んでいたようだが、文字の読めないキリーには、それが何の本なのか分からなかった。
「ここは?」
「ブラウローゼ公爵家の一室です。あなたのお仲間たちも、我が公爵家で身柄を預からせてもらっていますわ」
本当に公爵家に連れてくるとは。数々の罪を犯してきた煙霧盗賊団を、どうやって王太子付きの騎士たちから掻っ攫ってきたのやら。
だが、ひとまず仲間たちは無事であるだろうと知り、キリーは胸を撫で下ろした。
部屋にはキリーとアヴェリアしかいなかったが、部屋の外には、何かあればすぐに駆けつけられるよう護衛たちが待ち構えていることだろう。
観念したキリーは、仕方なくアヴェリアと話をすることにした。
「これから俺たちをどうするつもりだ?」
「忠誠を誓うというのなら、我が家の隠密部隊として働いてもらおうと思っていますの」
「他には?」
「それだけですわ。すでに、あなた方が盗んだ金品は回収できるだけ回収させてもらいましたし」
犯してきた罪の割に、あまりにも軽い処罰だ。
信じられないとばかりに、目を見開く。
「あなたが捕まったことを知ったら、あの子たちは、自分から今まで盗んだ金品を差し出してきましたの。これは返すから、あなたの命だけは助けてほしいと」
「チッ、あいつら……」
あの子たちというのは、おそらく煙霧盗賊団が世話を焼いていた幼い子どもたちのことだ。
元々、煙霧盗賊団は、身寄りのない子どもたちで形成された集まりだった。みんなで力を合わせて、何とか生き抜こうと必死だった。
最年長のキリーが15歳。彼もまだ子どもといっていい年齢だったが、仲間を守らなければないという使命感から、大人びた態度をとっているだけだった。
「あなた方の事情は、大体把握できています。国王陛下にもお父様を通じて報告済みです」
時として、預言者は王族よりも尊いものとされる。アヴェリアの提案も、最初こそ難色を示されたものの、フォリオの援護もあって、最終的にはキリーたちの処遇は公爵家に一任されることになった。
「お前の考えていることは、本当に理解できないな。俺よりもずっとガキのくせに、随分と大人びてる。可愛げのかけらもないぜ」
「仕方ないでしょう。私には時間がないのです。1秒たりとも、無駄にはできないのですから」
キリーは、使命を果たした預言者がどうなるか、噂で聞いたことがあった。
「その……お前の使命ってやつは、なんなんだ?」
幼い少女が生き急がなければならないほどの使命を、キリーは聞いてみたくなった。
突如として白馬に乗って現れた預言者が、崖を馬に乗ったまま駆け降りてきて、俺の首めがけてラリアットをかましてきた。
いや、何が起こったんだ。
改めて考えてみても、預言者の少女の行動は理解できなかった。
「やっと目が覚めましたか」
ベッドの脇を見ると、気配もなく例の少女が椅子に座っていた。
何かの本を読んでいたようだが、文字の読めないキリーには、それが何の本なのか分からなかった。
「ここは?」
「ブラウローゼ公爵家の一室です。あなたのお仲間たちも、我が公爵家で身柄を預からせてもらっていますわ」
本当に公爵家に連れてくるとは。数々の罪を犯してきた煙霧盗賊団を、どうやって王太子付きの騎士たちから掻っ攫ってきたのやら。
だが、ひとまず仲間たちは無事であるだろうと知り、キリーは胸を撫で下ろした。
部屋にはキリーとアヴェリアしかいなかったが、部屋の外には、何かあればすぐに駆けつけられるよう護衛たちが待ち構えていることだろう。
観念したキリーは、仕方なくアヴェリアと話をすることにした。
「これから俺たちをどうするつもりだ?」
「忠誠を誓うというのなら、我が家の隠密部隊として働いてもらおうと思っていますの」
「他には?」
「それだけですわ。すでに、あなた方が盗んだ金品は回収できるだけ回収させてもらいましたし」
犯してきた罪の割に、あまりにも軽い処罰だ。
信じられないとばかりに、目を見開く。
「あなたが捕まったことを知ったら、あの子たちは、自分から今まで盗んだ金品を差し出してきましたの。これは返すから、あなたの命だけは助けてほしいと」
「チッ、あいつら……」
あの子たちというのは、おそらく煙霧盗賊団が世話を焼いていた幼い子どもたちのことだ。
元々、煙霧盗賊団は、身寄りのない子どもたちで形成された集まりだった。みんなで力を合わせて、何とか生き抜こうと必死だった。
最年長のキリーが15歳。彼もまだ子どもといっていい年齢だったが、仲間を守らなければないという使命感から、大人びた態度をとっているだけだった。
「あなた方の事情は、大体把握できています。国王陛下にもお父様を通じて報告済みです」
時として、預言者は王族よりも尊いものとされる。アヴェリアの提案も、最初こそ難色を示されたものの、フォリオの援護もあって、最終的にはキリーたちの処遇は公爵家に一任されることになった。
「お前の考えていることは、本当に理解できないな。俺よりもずっとガキのくせに、随分と大人びてる。可愛げのかけらもないぜ」
「仕方ないでしょう。私には時間がないのです。1秒たりとも、無駄にはできないのですから」
キリーは、使命を果たした預言者がどうなるか、噂で聞いたことがあった。
「その……お前の使命ってやつは、なんなんだ?」
幼い少女が生き急がなければならないほどの使命を、キリーは聞いてみたくなった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。


妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる