ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第2幕 白馬に乗った乙女

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 目を覚ましたキリーは、状況を把握するのに時間を要した。
 突如として白馬に乗って現れた預言者が、崖を馬に乗ったまま駆け降りてきて、俺の首めがけてラリアットをかましてきた。

 いや、何が起こったんだ。
 改めて考えてみても、預言者の少女の行動は理解できなかった。

「やっと目が覚めましたか」

 ベッドの脇を見ると、気配もなく例の少女が椅子に座っていた。
 何かの本を読んでいたようだが、文字の読めないキリーには、それが何の本なのか分からなかった。

「ここは?」
「ブラウローゼ公爵家の一室です。あなたのお仲間たちも、我が公爵家で身柄を預からせてもらっていますわ」

 本当に公爵家に連れてくるとは。数々の罪を犯してきた煙霧盗賊団スモッグ・ギャングを、どうやって王太子付きの騎士たちから掻っ攫ってきたのやら。
 だが、ひとまず仲間たちは無事であるだろうと知り、キリーは胸を撫で下ろした。

 部屋にはキリーとアヴェリアしかいなかったが、部屋の外には、何かあればすぐに駆けつけられるよう護衛たちが待ち構えていることだろう。
 観念したキリーは、仕方なくアヴェリアと話をすることにした。

「これから俺たちをどうするつもりだ?」
「忠誠を誓うというのなら、我が家の隠密部隊として働いてもらおうと思っていますの」
「他には?」
「それだけですわ。すでに、あなた方が盗んだ金品は回収できるだけ回収させてもらいましたし」

 犯してきた罪の割に、あまりにも軽い処罰だ。
 信じられないとばかりに、目を見開く。

「あなたが捕まったことを知ったら、は、自分から今まで盗んだ金品を差し出してきましたの。これは返すから、あなたの命だけは助けてほしいと」
「チッ、あいつら……」

 というのは、おそらく煙霧盗賊団スモッグ・ギャングが世話を焼いていた幼い子どもたちのことだ。
 元々、煙霧盗賊団スモッグ・ギャングは、身寄りのない子どもたちで形成された集まりだった。みんなで力を合わせて、何とか生き抜こうと必死だった。
 最年長のキリーが15歳。彼もまだ子どもといっていい年齢だったが、仲間を守らなければないという使命感から、大人びた態度をとっているだけだった。

「あなた方の事情は、大体把握できています。国王陛下にもお父様を通じて報告済みです」

 時として、預言者は王族よりも尊いものとされる。アヴェリアの提案も、最初こそ難色を示されたものの、フォリオの援護もあって、最終的にはキリーたちの処遇は公爵家に一任されることになった。

「お前の考えていることは、本当に理解できないな。俺よりもずっとガキのくせに、随分と大人びてる。可愛げのかけらもないぜ」
「仕方ないでしょう。私には時間がないのです。1秒たりとも、無駄にはできないのですから」

 キリーは、使命を果たした預言者がどうなるか、噂で聞いたことがあった。

「その……お前の使命ってやつは、なんなんだ?」

 幼い少女が生き急がなければならないほどの使命を、キリーは聞いてみたくなった。
 
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