12 / 94
第2幕 白馬に乗った乙女
11
しおりを挟む
訝しむキリーを前に、アヴェリアは続ける。
「ブラウローゼ公爵家に忠誠を誓いなさい。煙霧盗賊団の全員が」
「どうしようってんだ?」
「忠誠を誓うのであれば、命は助けて差し上げると言っているのです。もちろん、これまでに奪った金品は返して頂きますけれど」
「公爵家の犬になれってか?」
「そう捉えるのであれば」
キリーは舌打ちをする。
こんな子ども相手に捕まり、服従せよと言われるとは。プライドが傷つけられた。
なにより、預言者といえども、まだ子どもだ。その言葉を鵜呑みにできるほど、キリーも安直な考えを持ってはいなかった。
これまで多くの罪を犯してきた自覚はある。その団員すべてを生かしたままにしておくというのは、いくらなんでも信じられなかった。しかも、今回は王太子を狙ったというのに、公爵家が許しても、王家が黙っているはずがない。
「あなたに残された選択肢は2つ。大人しく私の提案を受け入れるか、断って仲間もろとも裁きを受けるか」
沈黙。
キリーは少しでも時間を稼いで、この場を切り抜ける糸口を探ろうとしていた。
罰されることは確実だとしても、少しでもマシな道は何か。仲間たちだけでも、助けられる方法はないか。ぐるぐると思考を巡らしていた。
「だんまりとは、まったく子どもですわね」
「ガキに言われたくねぇよ」
「あら、ようやく喋りましたわ」
いつまでも待たされる気はないのか、アヴェリアが挑発する。
ムッ、とした顔はしたものの、それでもキリーは答えない。
「いつまで待たせるつもりか知りませんが、あなたが仲間を救いたいと思っているのなら、そもそも選択肢は一つしかありませんのに」
やれやれ、と呆れたように吐き捨てると、アヴェリアは自分が騎乗する馬を崖下の方に向けた。
「決心がつかないのなら、私が背中を押して差し上げますわ」
迷いなく、馬に乗ったまま崖下に飛び出してきたアヴェリアに、キリーだけでなく護衛騎士たちも開いた口が塞がらない。
ようやくキリーが我に返ったのは、護衛騎士たちの叫び声が聞こえてきた時だった。
すでに逃げられない距離まで迫るアヴェリア。
「おま、お前ぇぇぇ!?」
ようやく発せた言葉は、驚愕の叫びだけだった。
崖から勢いよく白馬に乗って駆け降りてきたアヴェリアが目前に迫る。満面の笑みを浮かべたアヴェリアを見たのが最後、キリーは目の前が真っ暗になった。
意識がなくなる寸前、お前が押したのは背中じゃねぇ……そんな言葉が頭を過った。
「ブラウローゼ公爵家に忠誠を誓いなさい。煙霧盗賊団の全員が」
「どうしようってんだ?」
「忠誠を誓うのであれば、命は助けて差し上げると言っているのです。もちろん、これまでに奪った金品は返して頂きますけれど」
「公爵家の犬になれってか?」
「そう捉えるのであれば」
キリーは舌打ちをする。
こんな子ども相手に捕まり、服従せよと言われるとは。プライドが傷つけられた。
なにより、預言者といえども、まだ子どもだ。その言葉を鵜呑みにできるほど、キリーも安直な考えを持ってはいなかった。
これまで多くの罪を犯してきた自覚はある。その団員すべてを生かしたままにしておくというのは、いくらなんでも信じられなかった。しかも、今回は王太子を狙ったというのに、公爵家が許しても、王家が黙っているはずがない。
「あなたに残された選択肢は2つ。大人しく私の提案を受け入れるか、断って仲間もろとも裁きを受けるか」
沈黙。
キリーは少しでも時間を稼いで、この場を切り抜ける糸口を探ろうとしていた。
罰されることは確実だとしても、少しでもマシな道は何か。仲間たちだけでも、助けられる方法はないか。ぐるぐると思考を巡らしていた。
「だんまりとは、まったく子どもですわね」
「ガキに言われたくねぇよ」
「あら、ようやく喋りましたわ」
いつまでも待たされる気はないのか、アヴェリアが挑発する。
ムッ、とした顔はしたものの、それでもキリーは答えない。
「いつまで待たせるつもりか知りませんが、あなたが仲間を救いたいと思っているのなら、そもそも選択肢は一つしかありませんのに」
やれやれ、と呆れたように吐き捨てると、アヴェリアは自分が騎乗する馬を崖下の方に向けた。
「決心がつかないのなら、私が背中を押して差し上げますわ」
迷いなく、馬に乗ったまま崖下に飛び出してきたアヴェリアに、キリーだけでなく護衛騎士たちも開いた口が塞がらない。
ようやくキリーが我に返ったのは、護衛騎士たちの叫び声が聞こえてきた時だった。
すでに逃げられない距離まで迫るアヴェリア。
「おま、お前ぇぇぇ!?」
ようやく発せた言葉は、驚愕の叫びだけだった。
崖から勢いよく白馬に乗って駆け降りてきたアヴェリアが目前に迫る。満面の笑みを浮かべたアヴェリアを見たのが最後、キリーは目の前が真っ暗になった。
意識がなくなる寸前、お前が押したのは背中じゃねぇ……そんな言葉が頭を過った。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる