ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第2幕 白馬に乗った乙女

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 訝しむキリーを前に、アヴェリアは続ける。

「ブラウローゼ公爵家に忠誠を誓いなさい。煙霧盗賊団スモッグ・ギャングの全員が」
「どうしようってんだ?」
「忠誠を誓うのであれば、命は助けて差し上げると言っているのです。もちろん、これまでに奪った金品は返して頂きますけれど」
「公爵家の犬になれってか?」
「そう捉えるのであれば」

 キリーは舌打ちをする。
 こんな子ども相手に捕まり、服従せよと言われるとは。プライドが傷つけられた。
 なにより、預言者といえども、まだ子どもだ。その言葉を鵜呑みにできるほど、キリーも安直な考えを持ってはいなかった。
 これまで多くの罪を犯してきた自覚はある。その団員すべてを生かしたままにしておくというのは、いくらなんでも信じられなかった。しかも、今回は王太子を狙ったというのに、公爵家が許しても、王家が黙っているはずがない。

「あなたに残された選択肢は2つ。大人しく私の提案を受け入れるか、断って仲間もろとも裁きを受けるか」

 沈黙。
 キリーは少しでも時間を稼いで、この場を切り抜ける糸口を探ろうとしていた。
 罰されることは確実だとしても、少しでもマシな道は何か。仲間たちだけでも、助けられる方法はないか。ぐるぐると思考を巡らしていた。

「だんまりとは、まったく子どもですわね」
「ガキに言われたくねぇよ」
「あら、ようやく喋りましたわ」

 いつまでも待たされる気はないのか、アヴェリアが挑発する。
 ムッ、とした顔はしたものの、それでもキリーは答えない。

「いつまで待たせるつもりか知りませんが、あなたが仲間を救いたいと思っているのなら、そもそも選択肢は一つしかありませんのに」

 やれやれ、と呆れたように吐き捨てると、アヴェリアは自分が騎乗する馬を崖下の方に向けた。

「決心がつかないのなら、私が背中を押して差し上げますわ」

 迷いなく、馬に乗ったまま崖下に飛び出してきたアヴェリアに、キリーだけでなく護衛騎士たちも開いた口が塞がらない。
 ようやくキリーが我に返ったのは、護衛騎士たちの叫び声が聞こえてきた時だった。
 すでに逃げられない距離まで迫るアヴェリア。

「おま、お前ぇぇぇ!?」

 ようやく発せた言葉は、驚愕の叫びだけだった。
 崖から勢いよく白馬に乗って駆け降りてきたアヴェリアが目前に迫る。満面の笑みを浮かべたアヴェリアを見たのが最後、キリーは目の前が真っ暗になった。
 意識がなくなる寸前、お前が押したのは背中じゃねぇ……そんな言葉が頭を過った。
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