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第2幕 白馬に乗った乙女
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フォリオたちを乗せた馬車は、ブラウローゼ公爵家へと向かう道を進んでいた。
「今だ!!」
その行く手を、黒いフード付きのマントを羽織った者たちが阻む。
王太子フォリオを乗せた馬車に、次々と武器を持った怪しい男たちが襲い掛かった。
「命が惜しければ、金目のものを全て置いていけ。おっと、逃げようなんて考えるなよ? お前たちの馬車は、既に俺たちの包囲網の中なんだからな」
馬車の扉を開け、意気揚々と脅す男に対して、フォリオは笑っていた。
「何がおかしい?」
普通なら、泣いて怯えるところだろうと、男は訝しむ。しかも、相手は子どもなのだ。
「ふふふっ、本当にこんなに上手く引っかかるだなんて」
その言葉に反応するより早く、男の喉元に剣が添えられた。
振り向かずとも、それがフォリオを護衛する騎士であることは分かった。だが、騎士たちの動きは仲間たちが封じることになっていたはず……状況把握に頭を巡らせていると、視界の上の方に人影が映った。
「話は聞かせて頂きましたわ!!」
高らかに崖の上から叫ぶ、白馬に乗った少女。その後ろから、遅れて護衛と思しき騎士たちが続く。
そんな場所から話が聞こえていたはずないだろう、という男の心のツッコミを掻き消すように、少女は続ける。
「煙霧盗賊団」
少女が放った言葉に、男がピクリと反応する。
その組織の名前は、男が所属するものだった。
「あなたの仲間たちは、すでに全員捕えてあります。拠点も制圧しました。大人しく降参しなさい」
「ハッ、何をふざけたことを」
しかし、男は強気な姿勢を崩さない。
煙霧盗賊団は、霧のように掴みどころがなく、とても隠密の上手い組織だ。だからこそ、今まで奇襲に失敗したことはないし、捕まることなんてもってのほかだった。
全員を捕まえたなどと、そんなのは嘘に決まっている。
「ここに15人。城下町はずれの地下街にある拠点に14人。単独行動9人」
アヴェリアの言葉を聞いた男の顔からは、みるみる余裕がなくなっていく。それは、組織のメンバーの人数だった。
そんな男を前に、バサリとフードを外す。
「その瞳の色は、まさか!?」
黄金色に輝く少女の瞳を見て、男は驚愕する。
「私こそ、預言者アヴェリア・ブラウローゼ。煙霧盗賊団が、殿下の乗った馬車を襲うことは予知していました。ですから、利用させてもらいましたの」
危険と分かっていて、あえて盗賊団を捕らえるために王太子を囮にするとは。
もちろん、フォリオの従者たちは止めたが、狙われている本人が、面白そうだと嬉々として引き受けてしまったのだった。
「首領キリー、観念なさい」
「そこまで知ってるとは、さすがは預言者サマってか」
まだ子どもの預言者相手にしてやられるとは。
アヴェリアだけならまだしも、王宮の騎士団に加えて、ブラウローゼ公爵家の護衛もいるとなれば話は別だ。
この状況では、もう逃れることはできない。どんな罰が待ち受けていることやらと、煙霧盗賊団の首領キリーは諦めて考えていた。
「取引いたしましょう」
しかし、アヴェリアは予想しなかった言葉を投げかける。
そして、にっこりと何かを企むように微笑むのだった。
「今だ!!」
その行く手を、黒いフード付きのマントを羽織った者たちが阻む。
王太子フォリオを乗せた馬車に、次々と武器を持った怪しい男たちが襲い掛かった。
「命が惜しければ、金目のものを全て置いていけ。おっと、逃げようなんて考えるなよ? お前たちの馬車は、既に俺たちの包囲網の中なんだからな」
馬車の扉を開け、意気揚々と脅す男に対して、フォリオは笑っていた。
「何がおかしい?」
普通なら、泣いて怯えるところだろうと、男は訝しむ。しかも、相手は子どもなのだ。
「ふふふっ、本当にこんなに上手く引っかかるだなんて」
その言葉に反応するより早く、男の喉元に剣が添えられた。
振り向かずとも、それがフォリオを護衛する騎士であることは分かった。だが、騎士たちの動きは仲間たちが封じることになっていたはず……状況把握に頭を巡らせていると、視界の上の方に人影が映った。
「話は聞かせて頂きましたわ!!」
高らかに崖の上から叫ぶ、白馬に乗った少女。その後ろから、遅れて護衛と思しき騎士たちが続く。
そんな場所から話が聞こえていたはずないだろう、という男の心のツッコミを掻き消すように、少女は続ける。
「煙霧盗賊団」
少女が放った言葉に、男がピクリと反応する。
その組織の名前は、男が所属するものだった。
「あなたの仲間たちは、すでに全員捕えてあります。拠点も制圧しました。大人しく降参しなさい」
「ハッ、何をふざけたことを」
しかし、男は強気な姿勢を崩さない。
煙霧盗賊団は、霧のように掴みどころがなく、とても隠密の上手い組織だ。だからこそ、今まで奇襲に失敗したことはないし、捕まることなんてもってのほかだった。
全員を捕まえたなどと、そんなのは嘘に決まっている。
「ここに15人。城下町はずれの地下街にある拠点に14人。単独行動9人」
アヴェリアの言葉を聞いた男の顔からは、みるみる余裕がなくなっていく。それは、組織のメンバーの人数だった。
そんな男を前に、バサリとフードを外す。
「その瞳の色は、まさか!?」
黄金色に輝く少女の瞳を見て、男は驚愕する。
「私こそ、預言者アヴェリア・ブラウローゼ。煙霧盗賊団が、殿下の乗った馬車を襲うことは予知していました。ですから、利用させてもらいましたの」
危険と分かっていて、あえて盗賊団を捕らえるために王太子を囮にするとは。
もちろん、フォリオの従者たちは止めたが、狙われている本人が、面白そうだと嬉々として引き受けてしまったのだった。
「首領キリー、観念なさい」
「そこまで知ってるとは、さすがは預言者サマってか」
まだ子どもの預言者相手にしてやられるとは。
アヴェリアだけならまだしも、王宮の騎士団に加えて、ブラウローゼ公爵家の護衛もいるとなれば話は別だ。
この状況では、もう逃れることはできない。どんな罰が待ち受けていることやらと、煙霧盗賊団の首領キリーは諦めて考えていた。
「取引いたしましょう」
しかし、アヴェリアは予想しなかった言葉を投げかける。
そして、にっこりと何かを企むように微笑むのだった。
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