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第1幕 真紅の薔薇の乙女
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生まれた時から、アヴェリアは夢の中で知らない存在と会話をしていた。
今となっては、それが予知をもたらす神であると理解できる。
「はじめまして。君が今回の預言者だよ」
とても砕けた口調で、生まれたばかりのアヴェリアに、神は話しかけた。
神の姿は光でぼやけていてはっきりと見ることはできない。それでも、そこにいるのだと、確かに分かった。
不思議なことに、生まれたばかりのアヴェリアには、夢の中では神の話す内容を理解することができた。このお陰か、歳のわりに言葉がスラスラと出てくる、子どもらしくない子どもになってしまったわけだが。
「君の使命は、この国の王太子の運命の相手を見つけること」
そう宣言すると、神は見えない枷をアヴェリアにつけた。決して、この運命から逃れられないように。
「君が五歳の時、王太子と初めて会う機会が与えられる。そこからが、預言者としての本当のスタートだよ」
◇◇◇◇
「君の預言者としての人生が、本格的にスタートしたわけだ。おめでとう!」
フォリオと初めて顔を合わせた日の夜。眠りについたアヴェリアの夢の中には、またしても神が現れていた。
「何が、おめでとう、ですの。お父様たちを宥めるのに、どれほど苦労したか。これから、忙しくなりますわね」
「まぁまぁ。君は、歴代の預言者の中でもとびきり面白いものを見せてくれそうだからね。君が見たい未来を、出来うる限り教えてあげよう」
この神は、どうやら暇潰しとして預言者を利用しているらしい。
娯楽という娯楽が、こういった趣味しかないのかもしれないと思うと、少しばかり哀れだった。だが、それに巻き込まれているのだから、過度に同情してやるつもりはない。
「あなたが私を利用するなら、私もせいぜい利用させて頂きますわ。面白いことを独り占めされては、ずるいですもの」
「これから何をする気だい?」
予知ができるのであれば、わざわざ聞くこともないだろうに。
「全てを見通せるというのは、存外つまらないものなんだよ。出来るだけ、先のことは知らずにおきたいのさ」
アヴェリアの頭の中を見透かしたように、神は付け加えた。
「どうせなら、この力を利用して、悪事を働く不届き者を断罪して差し上げようかと」
にやり、とアヴェリアはいい笑顔を浮かべる。
「使命に関係ないことは、予知していただけないかしら?」
「いいや? この国の王太子は、トラブルを呼び込む体質のようだからね。君の使命とも遠くないことさ」
手始めに、近々起こりそうなフォリオ関連のトラブルを教えてもらう。
「それで、どうするんだい?」
ワクワクした口調で、神は尋ねる。
まるで、ミュージカルの始まりを待つ観客のように。
「決まっています。退屈しないショーをお見せいたしますわ」
アヴェリア・ブラウローゼ。
小さな脚本家が誕生した瞬間であった。
今となっては、それが予知をもたらす神であると理解できる。
「はじめまして。君が今回の預言者だよ」
とても砕けた口調で、生まれたばかりのアヴェリアに、神は話しかけた。
神の姿は光でぼやけていてはっきりと見ることはできない。それでも、そこにいるのだと、確かに分かった。
不思議なことに、生まれたばかりのアヴェリアには、夢の中では神の話す内容を理解することができた。このお陰か、歳のわりに言葉がスラスラと出てくる、子どもらしくない子どもになってしまったわけだが。
「君の使命は、この国の王太子の運命の相手を見つけること」
そう宣言すると、神は見えない枷をアヴェリアにつけた。決して、この運命から逃れられないように。
「君が五歳の時、王太子と初めて会う機会が与えられる。そこからが、預言者としての本当のスタートだよ」
◇◇◇◇
「君の預言者としての人生が、本格的にスタートしたわけだ。おめでとう!」
フォリオと初めて顔を合わせた日の夜。眠りについたアヴェリアの夢の中には、またしても神が現れていた。
「何が、おめでとう、ですの。お父様たちを宥めるのに、どれほど苦労したか。これから、忙しくなりますわね」
「まぁまぁ。君は、歴代の預言者の中でもとびきり面白いものを見せてくれそうだからね。君が見たい未来を、出来うる限り教えてあげよう」
この神は、どうやら暇潰しとして預言者を利用しているらしい。
娯楽という娯楽が、こういった趣味しかないのかもしれないと思うと、少しばかり哀れだった。だが、それに巻き込まれているのだから、過度に同情してやるつもりはない。
「あなたが私を利用するなら、私もせいぜい利用させて頂きますわ。面白いことを独り占めされては、ずるいですもの」
「これから何をする気だい?」
予知ができるのであれば、わざわざ聞くこともないだろうに。
「全てを見通せるというのは、存外つまらないものなんだよ。出来るだけ、先のことは知らずにおきたいのさ」
アヴェリアの頭の中を見透かしたように、神は付け加えた。
「どうせなら、この力を利用して、悪事を働く不届き者を断罪して差し上げようかと」
にやり、とアヴェリアはいい笑顔を浮かべる。
「使命に関係ないことは、予知していただけないかしら?」
「いいや? この国の王太子は、トラブルを呼び込む体質のようだからね。君の使命とも遠くないことさ」
手始めに、近々起こりそうなフォリオ関連のトラブルを教えてもらう。
「それで、どうするんだい?」
ワクワクした口調で、神は尋ねる。
まるで、ミュージカルの始まりを待つ観客のように。
「決まっています。退屈しないショーをお見せいたしますわ」
アヴェリア・ブラウローゼ。
小さな脚本家が誕生した瞬間であった。
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