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第1幕 真紅の薔薇の乙女
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アヴェリアの兄、グロウ・ブラウローゼ。
王室付きの騎士になることを志し、妹が生まれてからは、アヴェリアを脅かす全ての存在を排除するための剣として鍛錬を重ねてきた。
妹のことが大好きなお兄ちゃんである。大好きすぎるが故に、暴走することもあるが、それは父親譲りだろう。
「アヴェリア、お茶会の話を聞いたよ」
アヴェリアと同じ赤い髪をもつが、瞳の色は母から譲り受けた緑色をしていた。
できることなら、妹の瞳と取り替えてやりたい……などと、冗談にも程があることを本気で言っていたこともある。何なら、今でもたまに言っている。
「あら、お耳が早いですこと」
セバスチャンが用意してくれた蜂蜜ミルクを飲んでいるところに、グロウが乱入してきた。
フォリオが帰ってから、まだそれほど時間も経っていないというのに。
「あの大馬鹿者め!! よくもアヴェリアの婚約者になれるなんて思ったものだ」
怒りをあらわにしたグロウを前に、使用人たちは怯えている。妹のこととなると周りが見えなくなる兄が暴れたのでは、たまったものではない。
「落ち着いてくださいませ。今頃、国王陛下からお説教されているはずですわ」
この状況で、唯一落ち着いていたアヴェリアに諭され、ようやくグロウは怒りを鎮めた。使用人たちも、ほっと胸を撫で下ろす。
「やはり、王太子は私が排除せねば。そうすれば、アヴェリアがあの馬鹿王子のせいで命を落とすこともないだろう」
「冗談はおやめくださいませ」
きっと冗談ではないと分かっていたが、アヴェリアはそう言って諌めた。
「しかし……」
「歴史あるブラウローゼ公爵家が反逆者となり、没落したとなれば、その原因となった私は末代まで悪女として語り継がれることでしょう」
その話に、ぐっとグロウは言葉を詰まらせる。
「それに、仮にフォリオ殿下が王太子でなくなったとしても、次の王太子の運命の相手を見つけることになるだけ。私の運命は変わりませんわ」
「アヴェリア……どうしてお前は、自分の運命を当たり前のように受け入れられるんだい?」
しょんぼりと肩を落としながら、グロウは尋ねた。
「私は、お前が生まれてから、お前を守る剣となることを誓った。お前を脅かす全てのものから守ってみせると。それなのに、こんなのあんまりじゃないか……」
自分の手の届かぬ、目に見えぬ力によって、妹はいずれいなくなってしまう。
それを知った時は、すべてを失ったような虚しさに襲われた。
「お兄様、私はまだ生きています。そんな辛気臭い顔をしないでくださいませ」
兄が自分のことを大切に思っていることが分かるからこそ、アヴェリアも辛かった。
「ごめんよ、辛いのはお前の方なのに。いいかい? 私は何があってもお前の味方だから。私が傍にいる限りは、お前を脅かす全てのものから守ってみせるから」
今も、王室付きの騎士を目指している兄。
しかし、状況が変わった今となっては、王太子の行動を見張るつもりなのではないかとアヴェリアは思っている。
うっかりフォリオに手を出すことがなければいいが、と少し心配もするのだった。
王室付きの騎士になることを志し、妹が生まれてからは、アヴェリアを脅かす全ての存在を排除するための剣として鍛錬を重ねてきた。
妹のことが大好きなお兄ちゃんである。大好きすぎるが故に、暴走することもあるが、それは父親譲りだろう。
「アヴェリア、お茶会の話を聞いたよ」
アヴェリアと同じ赤い髪をもつが、瞳の色は母から譲り受けた緑色をしていた。
できることなら、妹の瞳と取り替えてやりたい……などと、冗談にも程があることを本気で言っていたこともある。何なら、今でもたまに言っている。
「あら、お耳が早いですこと」
セバスチャンが用意してくれた蜂蜜ミルクを飲んでいるところに、グロウが乱入してきた。
フォリオが帰ってから、まだそれほど時間も経っていないというのに。
「あの大馬鹿者め!! よくもアヴェリアの婚約者になれるなんて思ったものだ」
怒りをあらわにしたグロウを前に、使用人たちは怯えている。妹のこととなると周りが見えなくなる兄が暴れたのでは、たまったものではない。
「落ち着いてくださいませ。今頃、国王陛下からお説教されているはずですわ」
この状況で、唯一落ち着いていたアヴェリアに諭され、ようやくグロウは怒りを鎮めた。使用人たちも、ほっと胸を撫で下ろす。
「やはり、王太子は私が排除せねば。そうすれば、アヴェリアがあの馬鹿王子のせいで命を落とすこともないだろう」
「冗談はおやめくださいませ」
きっと冗談ではないと分かっていたが、アヴェリアはそう言って諌めた。
「しかし……」
「歴史あるブラウローゼ公爵家が反逆者となり、没落したとなれば、その原因となった私は末代まで悪女として語り継がれることでしょう」
その話に、ぐっとグロウは言葉を詰まらせる。
「それに、仮にフォリオ殿下が王太子でなくなったとしても、次の王太子の運命の相手を見つけることになるだけ。私の運命は変わりませんわ」
「アヴェリア……どうしてお前は、自分の運命を当たり前のように受け入れられるんだい?」
しょんぼりと肩を落としながら、グロウは尋ねた。
「私は、お前が生まれてから、お前を守る剣となることを誓った。お前を脅かす全てのものから守ってみせると。それなのに、こんなのあんまりじゃないか……」
自分の手の届かぬ、目に見えぬ力によって、妹はいずれいなくなってしまう。
それを知った時は、すべてを失ったような虚しさに襲われた。
「お兄様、私はまだ生きています。そんな辛気臭い顔をしないでくださいませ」
兄が自分のことを大切に思っていることが分かるからこそ、アヴェリアも辛かった。
「ごめんよ、辛いのはお前の方なのに。いいかい? 私は何があってもお前の味方だから。私が傍にいる限りは、お前を脅かす全てのものから守ってみせるから」
今も、王室付きの騎士を目指している兄。
しかし、状況が変わった今となっては、王太子の行動を見張るつもりなのではないかとアヴェリアは思っている。
うっかりフォリオに手を出すことがなければいいが、と少し心配もするのだった。
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