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第1幕 真紅の薔薇の乙女
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アヴェリアが誕生した日、公爵家は大きな喜びと悲しみに包まれた。
「私の娘が、預言者とは……」
ブラウローゼ公爵は、生まれたばかりの娘が目を開いたのを見て、自分の子の運命を悟った。
ふくふく柔らかく、なんと愛らしい娘だろうか。それだけならば、思う存分、愛情を注いで育てることができたというのに。
生まれた娘の瞳は、預言者でしかあり得ない黄金色に輝いていた。
アヴェリア。そう名付けられた少女は、すくすくと育っていった。
「お父様!!」
姿を見つけると、笑顔で駆け寄ってくる娘の姿に、公爵は胸を締め付けられる思いだった。
それを悟られぬように、思い切り娘を抱きしめる。何度も、愛していると言葉をかける。
滑らかな髪を撫でてやり、望むものも出来うる限り叶えてやった。
だが、どれほど大切にしようと、アヴェリアを縛る「使命」からは救ってやることができない。
預言者は、神から授かったその力ゆえに、時として王族よりも尊いものとされた。
だが、その力と引き換えに、使命を果たせば命を失う。
「神よ……なぜ、私の娘を選んだのです」
公爵家から預言者が出たということは、とても名誉なことである。
しかし、公爵はそれを素直に喜ぶことができなかった。特別な力などなくていい。ただ、娘が幸せに生きてさえいてくれればーー。
しかし、そんな父親の願いも虚しく、三歳になったアヴェリアは、信託を受けた。
「お父様、私は神より使命を授かりました」
大人びた口調、顔つき。幼い娘には似つかわしくない行動も、預言者として何かしらの力を授かった証拠なのだろう。
預言者として覚醒した娘は、ただ可愛らしいだけの少女ではなくなっていた。
「ついに、この日が来てしまったか……。その使命とは、何なのだ?」
娘の口から聞かされた使命の内容に、公爵は絶望する。
もしそれが間違いでないのなら、娘は二十歳まで生きることも難しいだろう。
この国の王太子の運命の相手を見つけること。
アヴェリアは自分の人生を投げうたなくてはならないというのに、他人の幸せのために生きろなどと。
なんと残酷なことをしてくれるのか、と公爵は神を呪った。
そして、とばっちりではあるのだが、娘の死の原因となるであろう王太子のこともよく思っていなかった。全くもって、フォリオが悪いわけではないのだが、直接的に怒りをぶつけられる先がそこしかなかったのだ。
故に、アヴェリアとフォリオの初顔合わせの内容が耳に入ってきた際には、執務室が壊れんばかりの荒れようだったらしい。
アヴェリアの制止が入ってようやく収まったものの、とにかく公爵はフォリオのことが気に入らなかった。
そして、それは公爵に限ったことではない。アヴェリアには、五歳年の離れた兄がいた。
「私の娘が、預言者とは……」
ブラウローゼ公爵は、生まれたばかりの娘が目を開いたのを見て、自分の子の運命を悟った。
ふくふく柔らかく、なんと愛らしい娘だろうか。それだけならば、思う存分、愛情を注いで育てることができたというのに。
生まれた娘の瞳は、預言者でしかあり得ない黄金色に輝いていた。
アヴェリア。そう名付けられた少女は、すくすくと育っていった。
「お父様!!」
姿を見つけると、笑顔で駆け寄ってくる娘の姿に、公爵は胸を締め付けられる思いだった。
それを悟られぬように、思い切り娘を抱きしめる。何度も、愛していると言葉をかける。
滑らかな髪を撫でてやり、望むものも出来うる限り叶えてやった。
だが、どれほど大切にしようと、アヴェリアを縛る「使命」からは救ってやることができない。
預言者は、神から授かったその力ゆえに、時として王族よりも尊いものとされた。
だが、その力と引き換えに、使命を果たせば命を失う。
「神よ……なぜ、私の娘を選んだのです」
公爵家から預言者が出たということは、とても名誉なことである。
しかし、公爵はそれを素直に喜ぶことができなかった。特別な力などなくていい。ただ、娘が幸せに生きてさえいてくれればーー。
しかし、そんな父親の願いも虚しく、三歳になったアヴェリアは、信託を受けた。
「お父様、私は神より使命を授かりました」
大人びた口調、顔つき。幼い娘には似つかわしくない行動も、預言者として何かしらの力を授かった証拠なのだろう。
預言者として覚醒した娘は、ただ可愛らしいだけの少女ではなくなっていた。
「ついに、この日が来てしまったか……。その使命とは、何なのだ?」
娘の口から聞かされた使命の内容に、公爵は絶望する。
もしそれが間違いでないのなら、娘は二十歳まで生きることも難しいだろう。
この国の王太子の運命の相手を見つけること。
アヴェリアは自分の人生を投げうたなくてはならないというのに、他人の幸せのために生きろなどと。
なんと残酷なことをしてくれるのか、と公爵は神を呪った。
そして、とばっちりではあるのだが、娘の死の原因となるであろう王太子のこともよく思っていなかった。全くもって、フォリオが悪いわけではないのだが、直接的に怒りをぶつけられる先がそこしかなかったのだ。
故に、アヴェリアとフォリオの初顔合わせの内容が耳に入ってきた際には、執務室が壊れんばかりの荒れようだったらしい。
アヴェリアの制止が入ってようやく収まったものの、とにかく公爵はフォリオのことが気に入らなかった。
そして、それは公爵に限ったことではない。アヴェリアには、五歳年の離れた兄がいた。
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